戒・誡・警(読み)いましめる

精選版 日本国語大辞典 「戒・誡・警」の意味・読み・例文・類語

いまし・める【戒・誡・警】

〘他マ下一〙 いまし・む 〘他マ下二〙 (「忌ましむ」で「忌み遠ざける」が原義)
① 不都合なことを起こさないように訓戒したり注意したりする。
(イ) あやまちのないように、前もって注意する。教えを守るようにさとす。訓戒する。
書紀(720)雄略九年三月(前田本訓)「天皇、親(みづか)新羅を伐たむと欲す。神、天皇に戒(イマし)めて曰く、な往(いま)しそ、とのたまふ」
当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉一一「ひそかに小町田に意見を語りて、其将来を警誡(イマシメ)たり」
(ロ) (自分自身で)あやまちのないように努める。
徒然草(1331頃)九「みづからいましめて、恐るべくつつしむべきは、このまどひなり」
行動を禁止したり、抑制したりする。
(イ) してはいけないと制止する。行なうことを禁じる。
※狭衣物語(1069‐77頃か)二「若無比丘(にゃくむびく)と仏のせちにいましめ給へるをこそ、思ひ至らぬくまもありがたからめ」
※光悦本謡曲・阿漕(1532頃)「神前のおそれあるによってかたくいましめて是をゆるさぬ所に」
(ロ) よくない行為を再びしないように、しかる。
※枕(10C終)一六一「『ありしあかつきの事いましめらるるは。知らぬか』とのたまふにぞ」
③ いやだと思う。嫌う。忌む。
※宇津保(970‐999頃)藤原の君「かく人のいましむる五月(さつき)はいぬ」
④ 自由がきかないように、縛ったり閉じ込めたりする。罰する。また、比喩的に、人の自由を束縛する。〔書陵部本名義抄(1081頃)〕
※竹沢先生と云ふ人(1924‐25)〈長与善郎〉竹沢先生の人生観「あらゆる制約にいましめられてゐる人間」
⑤ 守りをきびしくする。厳重に警戒する。
※書紀(720)皇極四年六月(岩崎本訓)「是に、中大兄、衛門府(ゆげひのつかさ)に戒め、一時(もろとも)に倶に十二の通門を鎖(さしかた)めて、往来(かよ)はしめず」
[語誌]本来あるべき状態から外れた行動や思いをしないように、他に対して精神面の抑制あるいは禁止を求めていた「いましむ」が、平安時代末あたりから、具体的行為について、罰したり縛ったりするという意味をも表わすようになった。一方、あるべき状態から外れた行動などを、他から与えられないように自らが警戒・警固する意をも加え、さらに鎌倉時代には、自分が自分自身に対して用心する意も有するようになった。

いましめ【戒・誡・警】

〘名〙 (動詞「いましめる(戒)」の連用形の名詞化)
① あやまちのないように、前もってする注意。訓戒。警告。
※観智院本三宝絵(984)下「いましめを大集経の偈(げ)にのこせり」
② 行動を禁止したり抑制したりすること。
(イ) してはいけないと止めること。禁止。制止。禁制
※書紀(720)天智六年二月(北野本訓)「冀ふ所は、永代に以て鏡(あきらか)なる誡(イマシメ)と為よ」
(ロ) よくない行為を二度としないようにしかること。懲らしめ。懲戒
※今鏡(1170)九「帰り参りてかくなん侍るとうれへ申しければ、いましめはなくて、仰せられけるは」
③ 自由がきかないように、縛ったり閉じ込めたりすること。捕縛。禁固。また、処罰。
※今昔(1120頃か)六「獄に被禁れぬ。〈略〉我れ重き誡を蒙れり」
※仮名草子・伊曾保物語(1639頃)上「我罪なうしていましめをかうぶり」
④ からだを縛っている縄。また、比喩的に、人の自由を束縛するもの。
※浄瑠璃・国性爺合戦(1715)一「李海方(りかいはう)が真向(まっかう)、二つにさっと切わって后のいましめ切ほどき」
⑤ 用心して備えること。警戒。
※枕(10C終)八七「その程も、これがうしろめたければ、おほやけ人、すまし、長女(をさめ)などして、たえずいましめにやる」

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