〘他ラ五(四)〙 (「ふる(震)」と同語源)
① 物の
一端を持って何度も往復するようにはやく動かし、他の一端をゆり動かす。ふるう。
※書紀(720)欽明二三年七月・歌謡「韓国の 城の上に立たし 大葉子は 領布
(ひれ)甫羅
(フラ)す見ゆ
難波へ向きて」
② 全体を、前後または左右に数回すばやく動かす。
※蜻蛉(974頃)中「さすがにあなかま、あなかまと、ただ手をかき、面をふり、そこらの人のあぎとふやうにすれば」
③ まき散らす。散布する。散らしかける。
※
庖丁聞書(室町末か)「魚鳥ともに、無塩を切、塩をふり」
④ 配り当てる。配当する。分担させる。当てる。つける。割りつける。配分する。
※顕輔集(1155頃)「火きりとて、〈略〉人々の奏するを、前左衛門佐基俊君のもとへふるとて」
※三四郎(1908)〈
夏目漱石〉六「傍にちゃんとデ
ルと
仮名が振
(フ)ってある」
※大鏡(12C前)五「鹿島遠しとて、大和国三笠山にふり奉りて、
春日明神と名づけ奉りて」
⑥ みこしを勢いよくかつぎ動かす。
神輿・神宝などを荒々しくかつぐ。
⑦ (①②のような動作をするところから) 嫌って相手にしないようにする。すげなくする。特に男女の間で、冷淡にする。
遊女が客の意に従わない。
※枕(10C終)八六「いかで、さつれなくうちふりてありしならん」
※浮世草子・好色一代男(1682)三「我江戸にてはじめの
高雄に三十五までふられ、
其後も首尾せず、今おもへば惜ひ事哉」
⑧ 失う。捨てる。また、勝負などで、初めから勝とうとする意欲を捨てる。
⑨ 勇みたたす。ふるいたたす。はげます。→
ふりおこす。
⑩ 入れかえる。置きかえる。交換する。ふり換える。
※俳諧・梟日記(1698)七月一二日「おなじ事に侍れば、一句ふりたりとおぼえ侍と申き」
⑪ 動かして方向を少しずらせる。一方にかたよらせる。基準の状態から左右どちらかに位置を変える。
⑫ 薬・茶などを、煎じ出す。たてる。
⑬ 柵・塀・垣などを設ける。設置する。
※浄瑠璃・最明寺殿百人上臈(1699)含み状「山手には二重三重の柵をふり」
⑭ 歌舞伎の演技で、六方など踏んで
花道をはいるときなど、手で種々の形をとる。
※歌舞伎・独道中五十三駅(1827)二幕「
鳴り物変って、花道を駄右衛門、振
(フ)って入る」
⑮ 江戸時代、供先を務める奴が、手を動かして伊達(だて)の形をしてみせる。
※浄瑠璃・薩摩歌(1711頃)上「
御前が近い、せりあはず、下馬前をしてふりませい」
⑯ 陰部を露出する。ふんどしをせずにいる。
※滑稽本・続膝栗毛(1810‐22)一二「
坊主といふ者はをなごのやうな、いもじしてをるもんぢゃ
さかい、ふってをるもおなじことで」
⑰
謡曲の曲譜で、ある曲調にすることを示す。現在のフリまたは
マワシに類する曲調にするものか。
※世阿彌筆本謡曲・
江口(1384頃)「
クル松の煙の、
フル波寄する、江口の里に、
ハル着きにけり着きにけり」
⑱ せり市などで、せる。
※浄瑠璃・伊達錦五十四郡(1752)三「サア買たり、ふるぞ」
⑲ 為替・手形などを発行する。
※会社弁(1871)〈
福地桜痴〉為替会社「此金を名古屋にて東京へ為替に振りてもよろし」
㉑ 本題に入るきっかけとして話す。話を導き出そうとする。「落語家がまくらをふる」「
司会者が話題をふる」