放つ(読み)ハナツ

デジタル大辞泉 「放つ」の意味・読み・例文・類語

はな・つ【放つ】

[動タ五(四)]
閉じ込められたり束縛されたりしていたものを自由に動けるようにしてやる。「リスを公園に―・つ」「小鳥を籠から―・つ」
矢・弾丸などをうち出す。勢いをつけてある方向に飛ばす。発射する。「ホームランを―・つ」「質問の矢を―・つ」
外に向かって、光・匂い・声などを出す。また、世の中に発表する。発する。「悪臭を―・つ」「街頭第一声を―・つ」「巨匠が―・つ話題作」「光彩を―・つ」
ある任務を引き受けた者を送り込む。使いとして行かせる。遣わす。「密偵を―・つ」
(「火をはなつ」の形で)火をつける。放火する。「家に火を―・つ」
(「目をはなつ」の形で)
視線を遠くの方へ向ける。遠くを見る。
「目を―・って見渡すと」〈二葉亭平凡
㋑視線を別の方へ向ける。
「目も―・たず燃えさかる家を眺めて居る」〈芥川・奉教人の死〉
切って壊す。くずす。
「(田ノ)を―・つ」〈神代紀〉
手元から遠ざける。はなす。
御衣おんぞはまことに身を―・たず、傍らに置き給へり」〈須磨
手ばなす。人手に渡す。
「この宮の木立を心につけて、―・ち給はせてむや」〈・蓬生〉
10 追放する。
遠方の地へ追いやる。流刑にする。
「遠く―・ちつかはすべき定めなども侍るなるは」〈・須磨〉
㋑役をやめさせる。解任する。
北面を―・たれにけり」〈徒然・九四〉
11 とり除く。とり払う。
「うるさき心をいかで言ひ―・つわざもがなと思ひ給へる」〈宿木
12 除外する。差しおく。
明石の君を―・ちては、いづれもみな棄てがたき御弟子どもなれば」〈・若菜下〉
13 戸・障子などを大きく開ける。開けはなつ。
「皆人も起きて、格子―・ちなどすれば」〈かげろふ・下〉
14 刀などを勢いよく一気に抜く。抜きはなつ。
降魔利剣を―・ち」〈伎・幼稚子敵討
[可能]はなてる
[下接句]異彩を放ついちとらを放つ精彩を放つ千里の野に虎を放つ火を放つ光を放つ
[類語]放す解き放す解放放れる

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「放つ」の意味・読み・例文・類語

はな・つ【放】

  1. 〘 他動詞 タ行五(四) 〙
  2. くっついている状態のものを、解いて分ける。その対象から引きはなす。はなす。
    1. [初出の実例]「鉾をすてて手より離(ハナツ)が如し」(出典:東大寺本成実論天長五年点(828)一二)
    2. 「御衣はまことに身はなたずかたはらに置き給へり」(出典:源氏物語(1001‐14頃)須磨)
  3. 人や物などを、一定の場所や位置などから遠ざける。引きはなす。はなす。
    1. (イ) 離れた別の場所に行かせる。遠い地域や地方などへやる。
      1. [初出の実例]「兵衛の尉賜はり給て、あて宮を呼びはなち奉り給て」(出典:宇津保物語(970‐999頃)藤原の君)
    2. (ロ) 遠ざける。見捨てる。近くにあることを嫌って引きはなす。
      1. [初出の実例]「なほ近くて、なはなち給ひそ、かく山深く分け入る志は隔て残るべくやは」(出典:源氏物語(1001‐14頃)夕霧)
    3. (ハ) 放置する。はなれたままの状態にしておく。放っておく。
      1. [初出の実例]「さらにかかる消息あるべき所にもあらずと宣はせはなちければ、かひなくてなん嘆き侍りける」(出典:源氏物語(1001‐14頃)宿木)
    4. (ニ) 捕えられたり、つながれたりしている動物などを自由にしてやる。逃がす。
      1. [初出の実例]「わたつみの沖に持ち行きて放(はなつ)ともうれむそこれがよみがへりなむ」(出典:万葉集(8C後)三・三二七)
      2. 「童部に打せずして、賀茂川にはなちてよ」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)一三)
    5. (ホ) 追放する。流罪に処する。
      1. [初出の実例]「他国の聖なり、すみやかに追ひはなつべしと仰ければはなちつ」(出典:宇治拾遺物語(1221頃)一三)
    6. (ヘ) 職務や位階から追いやる。解任する。
      1. [初出の実例]「さやうの方の痴(し)れがましさに蔵人もはなたれて、浅ましく身まづしくて」(出典:あさぢが露(13C後))
    7. (ト) 相手に渡す。売り払う。手放す。
      1. [初出の実例]「この受領どもの面白き家作り好むが、此の宮の木立を心につけて、はなち給はせてむや」(出典:源氏物語(1001‐14頃)蓬生)
  4. 人や物などが、元の地点や位置などから、一定の方向に向かって離れていくように、または広がっていくようにする。はなす。
    1. (イ) 人などを送り出す。派遣する。「刺客をはなつ」
      1. [初出の実例]「(かりびと)を縦(ハナチ)矢を飛す」(出典:大唐西域記長寛元年点(1163)七)
    2. (ロ) 矢、弾丸などを発射する。
      1. [初出の実例]「梓弓 弓腹(ゆばら) 振り起こし しのぎ羽を 二つ手挟み 離(はなち)けむ 人し悔しも」(出典:万葉集(8C後)一三・三三〇二)
    3. (ハ) 息やことば、また、音・光・においなどを発する。
      1. [初出の実例]「この御足跡(あと)八万光を波奈知(ハナチ)出だし」(出典:仏足石歌(753頃))
      2. 「急に熟れすぎた納豆のような刺戟臭をはなち」(出典:他人の顔(1964)〈安部公房〉灰色のノート)
    4. (ニ) 火をつける。放火する。
      1. [初出の実例]「失(ハナツ)火」(出典:法華義疏紙背和訓(928頃か))
    5. (ホ) 文書などを発行する。
      1. [初出の実例]「仍注事状。放券文件、以解」(出典:根津美術館所蔵文書‐永承二年(1047)一〇月二七日・高橋世犬丸田地売券)
  5. 開放されたような状態に変化させる。開いた状態にする。
    1. (イ) 閉じられている戸などをあける。刀などを抜く。「あく」「抜く」などに比べて、十分にあける、広くあけはなす、人目によく見えるように抜く、などの意を表わす。
      1. [初出の実例]「皆人も起きて格子はなちなどすれば」(出典:蜻蛉日記(974頃)下)
    2. (ロ) 花を開く。
      1. [初出の実例]「花之正開背面、欲放、欲萎者」(出典:随筆・山中人饒舌(1813)上)
  6. 取り払う。こわす。
    1. [初出の実例]「天照大御神の営田(つくだ)の畔(あ)を離(はなち)、其の溝を埋め」(出典:古事記(712)上)
  7. 除外する。数や思考の中から除き去る。
    1. [初出の実例]「小侍従と弁とはなちて、また知る人侍らじ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)橋姫)

放つの語誌

→「はなす(離)」の語誌


はが・つ【放】

  1. 〘 他動詞 タ行四段活用 〙 はがす。こわす。→ひはがつ

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