断熱変化(読み)ダンネツヘンカ(その他表記)adiabatic change

デジタル大辞泉 「断熱変化」の意味・読み・例文・類語

だんねつ‐へんか〔‐ヘンクワ〕【断熱変化】

熱力学で、外部との熱の出入りなしに行われる物体状態変化気体の場合、その温度断熱圧縮によって上がり、断熱膨張によって下がる。また、状態変化の過程断熱過程という。

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精選版 日本国語大辞典 「断熱変化」の意味・読み・例文・類語

だんねつ‐へんか‥ヘンクヮ【断熱変化】

  1. 〘 名詞 〙 外部との熱交換のない環境で行なわれる物体系の状態変化。気体の場合には、その温度は体積が収縮すると上昇し、膨脹すると下降する。

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改訂新版 世界大百科事典 「断熱変化」の意味・わかりやすい解説

断熱変化 (だんねつへんか)
adiabatic change

熱の出入りなしに行われる状態変化。断熱変化でも温度変化が起こり,通常,物体を断熱的に圧縮(断熱圧縮という)すると温度が上昇し,逆に断熱的に膨張(断熱膨張という)させると温度は下がる。ただし,ゴムのように熱膨張率が負のものでは断熱的に引き伸ばすと温度が上昇する。エントロピーは,断熱変化が可逆過程であれば不変であるが,不可逆過程では増加する。理想気体が準静的に断熱変化するときには,

 pv=一定 または Tvγ1=一定

の関係がある。ただしpは圧力,vは体積,Tは絶対温度,γはその気体の定圧比熱定容比熱の比である。断熱変化の例には,気象に関連したものとして,空気が上昇するときの湿潤断熱変化と乾燥断熱変化がある。また,磁性体の断熱消磁も断熱変化の例で,磁性体を磁化した後,磁場を取り除いて磁化を消すと温度が下がることを利用したもので,極低温の冷却法として用いられている。

 なお力学では,力学系の運動を支配している外部パラメーターをきわめてゆっくり変化させるとき,これを断熱変化と呼んでいる。
作用量
執筆者:

空気塊が鉛直方向に運動するとき,気圧の変化に伴い圧縮や膨張がおこる。空気塊は周囲の空気とまじり合うなどして熱のやりとりを行うが,空気塊の状態変化は,多くの場合,熱の出入りによる影響よりも圧縮や膨張による影響を強く受けるため,断熱変化とみなせる。たとえば大半の雲は,空気塊が上昇し膨張するため冷却され,水蒸気が凝結したものであるなど,断熱変化は気象変化に重要な役割をはたす。空気を理想気体とみなし,初期状態の気温(絶対温度,以下同じ)をT,気圧をp,最終状態の気温をT0,気圧をp0とするならば,この断熱変化にはポアソンの式と呼ばれている,の関係がある。p0=1000hPaとしたときの温度T0を温位(ポテンシャル温度)と呼び,断熱変化に対して変化しないため,上層の気温と下層の気温を比較する場合などに使われる(乾燥空気では(γ-1)/γ は約0.286となる)。

 乾燥空気が断熱変化しながら上昇するとき,100mごとに約1℃気温が低下する(この値を乾燥断熱減率という)。一方,水蒸気で飽和した空気が断熱的に上昇すると気温が低下し,水蒸気が水や氷になるため潜熱が放出され,温度低下の度合(これを湿潤断熱減率という)は乾燥断熱減率より低く,気温,気圧によって異なるが100mにつき約0.5℃となる。後者の過程で,凝結した水や氷が空気塊の中にとどまっている場合には,空気塊全体として見れば変化は可逆的であり断熱的である。しかし雨や雪などとして落下する非可逆的な変化の場合には,熱の出入りがあるため断熱的ではなく,これを偽断熱変化と呼び区別する。

 湿った空気が山脈を越える場合,風上側では偽断熱変化が起こり,風下側では乾燥断熱変化が起こる。そのために,乾燥して暖かい空気が地上に降りてくる。このような現象をフェーン現象という。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「断熱変化」の意味・わかりやすい解説

断熱変化
だんねつへんか

外部との間の熱量の出入りがないように保持された変化。断熱過程ともいう。この変化を実現するのには、物体(作業体)を完全な熱絶縁物(無限大の熱抵抗率をもつ物質)で囲めばよい。完全な熱絶縁物は実際には存在しないから、断熱変化という概念は、厳密には、理想気体という概念などと同様に、熱力学で考える理想的なものである。一方、熱の移動速度は遅いので、周波数が1ヘルツ程度以上の交流的変化では、内部・外部間の熱の移動は無視することができて、この変化は断熱変化と考えることができる。これが断熱変化を近似的に実現する一つの方法である。

 断熱変化には断熱可逆変化と断熱不可逆変化とがある。熱力学によると、考える体系が外部から微少な熱量d´Qを吸収して、この系のエントロピーSがdSだけ変化するとき、この変化が可逆であればdS=d′Q/Tという等式が、不可逆であればdS>d′Q/Tという不等式が成立する。ただし、Tはこの系の絶対温度である。断熱変化ではd´Q=0であるから、断熱可逆変化ではdS=0であり、断熱不可逆変化ではdS>0である。すなわち、一つの系が断熱的に保持されているとき、そのなかにおこる変化が可逆的なものだけならば、Sは一定に保たれるが、系のなかにおこる変化は、厳密にはすべて不可逆であるから、結局、外界から熱的に絶縁された系においては、なんらかの変化がおこるたびに、この系のエントロピーは増大する一方である。これがエントロピー増大の原理とよばれるものである。

[沢田正三]

気象

断熱変化には断熱冷却と断熱昇温があり、前者には系の膨張、後者には系の圧縮が伴う。たとえば、空気粒子が上昇するときは周囲の気圧が低くなるので、空気粒子は膨張する。このとき、粒子と周囲との間に熱の交換がないとすれば、膨張に必要なエネルギーは空気粒子の内部エネルギーによって充当されるので、その分だけ内部エネルギーが減少し、それに応じて、空気粒子の気温は低下する。これが断熱冷却である。一方、空気粒子が下降するときは、空気粒子は圧縮され、断熱昇温をおこす。大気の運動は、多くの場合、断熱的であると考えてよい。水蒸気を含んだ空気の上昇運動に伴う断熱冷却と水蒸気の凝結は、雲の生成の主要な要因である。また、フェーン現象は断熱変化のもっとも典型的な例として知られている。

[股野宏志]

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百科事典マイペディア 「断熱変化」の意味・わかりやすい解説

断熱変化【だんねつへんか】

外部との間に熱の出入なしに起こる物体の状態変化。気体では断熱膨張と断熱圧縮があり,前者では気体が外部にした仕事だけ内部エネルギーが減って温度が下がり,後者では外部からされた仕事により温度が上がる。理想気体では断熱変化の際,圧力pと体積V,絶対温度Tの間にpV(γ/)=一定,TV(γ/)(-/)1=一定(ポアソンの式,γは気体の定圧比熱と定容比熱の比(比熱))の関係が成立。音波による急激な気体の膨張・圧縮はこの例。→断熱消磁フェーン
→関連項目エントロピー(熱)カルノーサイクル極低温断熱減率等温変化

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化学辞典 第2版 「断熱変化」の解説

断熱変化
ダンネツヘンカ
adiabatic change

周囲から熱的に絶縁した状況のもとで,熱力学的系(粒子の集合体あるいは物体など)の状態を変化させること.たとえば,気体を熱を通さない壁(このような壁は厳密には実在しないが,理想状態として考える)でできたピストンに入れ,圧縮または膨張させる場合である.あるいは,壁(境界)を通して熱が流れる時間に比べ,それよりもずっと早く行われる圧縮や膨張の場合も断熱変化とみなすことができる.理想気体とみなすことのできる気体の断熱変化の場合には,圧力Pと体積Vとの間に

PVγ = 一定
の関係が成り立つ.ここで,γは気体の定圧比熱量と定容比熱量との比である.気体の温度をTとすると

TVγ-1 = 一定
の関係も成り立つ.一般に,断熱変化では系のエントロピーが減少することは決してない.その変化が可逆的な場合にはエントロピーは一定で,非可逆的な場合には増加する.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「断熱変化」の意味・わかりやすい解説

断熱変化
だんねつへんか
adiabatic change

系が外との間に熱の出入りなしに行う状態変化。これに対して,熱の出入りは許すが系の温度を一定に保ちながら行う状態変化を等温変化という。理想気体が準静的な断熱変化を行う場合,ポアソンの法則が成り立つ。理想気体の準静的な断熱変化は等エントロピー変化であるが,一般に,断熱変化を可逆的に行えばエントロピーは一定,不可逆的に行えばエントロピーは増大し,エントロピーは決して減少することはない。これがエントロピー増大の原理である。常磁性体を等温状態で磁化したのち,断熱状態で磁場を除くと,極低温が得られる。この方法を断熱消磁という。また力学系について,その運動を支配する外部変数をきわめてゆっくり変化させることも断熱変化という。

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世界大百科事典(旧版)内の断熱変化の言及

【気体】より

…ただし,これらの値は常温付近におけるもので,高温あるいは低温ではこれらの値と違ってくる場合がある。
[断熱変化]
 熱の出入りがないようにしたときの状態変化を一般に断熱変化という。理想気体の断熱変化では,圧力p,体積Vとの間に, pVγ=一定の式が成立する。…

※「断熱変化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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