旅籠(読み)はたご

精選版 日本国語大辞典 「旅籠」の意味・読み・例文・類語

はた‐ご【旅籠】

〘名〙
① 馬の飼料を入れて持ち運ぶ旅行用の籠。〔十巻本和名抄(934頃)〕
② 旅行中に食物・手回り品などを入れて持ち歩く籠。また、それに入れた食物。
※宇津保(970‐999頃)吹上上「はたごふたかけに、道の程のもの入れて、よき馬におほせたり」
③ 旅館の食事。〔文明本節用集(室町中)〕
※俳諧・望一後千句(1652)三「瓜やなすびや夕がほの汁 立よるは五条あたりのやす旅籠」
滑稽本東海道中膝栗毛(1802‐09)初「はたごさア安かアとまりますべい」

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デジタル大辞泉 「旅籠」の意味・読み・例文・類語

はた‐ご【旅籠】

旅籠屋はたごや」に同じ。
昔、旅行のとき、馬の飼料を入れて運んだ竹籠。〈和名抄
旅行用の食物や日用品を入れた籠。また、それに入れた食物。
「食物はこほりに知られずして―を具したり」〈今昔・二〇・四六〉
旅館の食事。
「―ヲ食ウ」〈日葡
旅籠銭はたごせん」の略。
「―さあ安かあ泊まりますべい」〈滑・膝栗毛・初〉

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百科事典マイペディア 「旅籠」の意味・わかりやすい解説

旅籠【はたご】

江戸時代の宿駅などで武家や一般庶民を宿泊させた食事付きの宿屋。元来旅籠とは馬料入れの丈の低い竹籠を指したとされる。宿屋としての旅籠は江戸時代初期に成立し,従来の木賃形式の宿屋にとって代わっていったが,その特徴は宿屋が食事を調理し,客に提供する点にあった。江戸時代中期以降,旅客を宿泊させるだけの平旅籠と,飯盛(めしもり)女などを置いた飯盛旅籠とに分化した。旅籠屋の建物は本陣などの上段の間,門構え玄関などを取り除き,若干縮小した形態で,規模は大中小に分類された。旅籠では領主・役人への旅宿提供が優先されていたが,庶民通行の増加により一般旅行者にも比重が置かれるようになっていった。また旅籠の数が増え,浪花(なにわ)講など旅館組合の先駆ともいうべき講が各地に結成された。→木賃宿
→関連項目今須江尻往来手形宿・宿駅宿村大概帳白須賀高宮鳥居本奈良井番場宿吉田旅館

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改訂新版 世界大百科事典 「旅籠」の意味・わかりやすい解説

旅籠 (はたご)

江戸時代,街道宿駅などで武家や一般庶民を宿泊させた食事付の宿屋をいう。旅籠は元来,馬料入れの丈の低い竹籠をさしたが,《今昔物語集》等によれば旅行中に食糧を入れて持参する旅具であった。中世には宿屋が出現して馬の飼料を用意し,その馬槽を宿屋の看板としたことから〈馬駄餉〉,後世転じて旅籠屋というようになった。このようにして旅籠には,馬の食を盛る籠,旅行の食糧雑品を入れる竹の容器,宿屋,宿屋の食料,宿料といった各様の意味と変遷がある。宿屋としての旅籠は江戸時代初期に成立し,従来の木賃形式の宿屋をしだいに凌駕(りようが)したが,その特徴は宿屋自身が食事を調理して旅客に提供する点にある。江戸時代中期以降は,旅籠屋も単に旅客を宿泊させる目的だけの平旅籠と,飯盛(めしもり)下女(飯盛女)などを置いて遊客の枕席に侍らせるための飯盛(食売)旅籠とに分化し,とくに後者の存在が宿駅繁盛の一つの刺激剤ともなった。こうした傾向は街道宿駅における風紀紊乱(びんらん)をもたらし,その弊風打破のために,旅館組合の先駆ともいうべき浪花講以下の講が各地に起こった。旅籠屋の構造は,本陣などの上段の間,門構え,玄関などを取り除き,これを多少縮小した形態のもので,その規模は大・中・小に分類される。そこでの休泊は,幕藩領主や諸役人への旅宿提供,とくに御用宿を優先したが,庶民交通の展開とともに一般旅行者に比重がおかれるようになった。
宿屋
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「旅籠」の意味・わかりやすい解説

旅籠
はたご

日本で近世以降 (おもに江戸時代) に出現発達した宿泊施設。室町時代に出現した「木賃宿」がさらに発達した形態。「はた」はウマの餌,「こ」は籠である。旅籠は,ウマの餌であるまぐさを入れた籠を門口にぶらさげてある家をさし,泊まれば,ウマの餌も出るし,人も食事ができる宿を意味する。江戸時代になって,諸国産物の流通,公用,商用などの交通量の増大に対応したもので,食事や沐浴が可能になり,現在の旅館にみる1泊2食付き料金も,元禄時代から始ったものとされる。江戸時代もなかばになると『東海道中膝栗毛』に登場するような旅籠が定着した。やがて武家の経済力の低下が「本陣」と「旅籠」の格差を縮め,近代の旅館に移行していった。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「旅籠」の解説

旅籠
はたご

江戸時代,大名・貴人が宿泊した本陣・脇本陣に対し,一般庶民が宿泊する旅宿。はじめは食料を持参し,薪代など木賃を払う形態だったが,交通量が増大し庶民の旅行が多くなると,宿泊者に食事を出し,サービスをする旅館形式に変わった。宿場には大中小の旅籠があり,宿によっては100軒以上もあって賑わった。平旅籠と飯盛旅籠があり,平旅籠には行商人が多く止宿するため商人宿などとよばれた。飯盛旅籠には飯盛女がおかれた。飯盛女は原則として1軒に2人という条件だったが,宿繁盛を理由に,旅籠屋下女奉公人の名目で数多くおいた旅籠もあった。

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旺文社日本史事典 三訂版 「旅籠」の解説

旅籠
はたご

江戸時代の庶民の旅館
多くは農家の兼業で,専業にしているのは東海道の宿場くらいであった。初めは食料持参で木賃を旅籠に払う宿泊のみであったが,次第に食事の提供を行うようになり,旅人の給仕や売春などを行う飯盛女も置かれた。

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防府市歴史用語集 「旅籠」の解説

旅籠

 旅人が泊まる宿屋のことです。

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世界大百科事典(旧版)内の旅籠の言及

【外食】より

…広義には飲食を楽しむための食事も含まれるが,一般的にはより実用的な必要を満たすものをいう。発生的にもこの方が古く,室町末期までには旅中の食事である旅籠(はたご)を提供する店の意の旅籠屋の語が定着していた。これに対し,楽しみのための外食は1656年の明暦大火後の江戸で,浅草金竜山(待乳(まつち)山)に奈良茶飯の店ができ,珍しがった市民たちが,われもわれもと詰めかけたことあたりを古い例とする。…

【道】より

…だからザクセンシュピーゲルによると,旅人は道から届くかぎりの畑の穀物や草を馬に食わせることができるとしている(II‐68)。遠隔地商人が行き交う街道には旅籠(はたご)があり,琥珀の道に沿って旅籠数軒だけからなる集落もあった。そこで旅人は食糧やかいばなどを手に入れることができた。…

【旅館】より

…こうした名称と分類は大正時代まで残っていたようで,昭和になってから宿屋という言葉がしだいに廃れ,代わって旅館が広く用いられるようになった。
[歴史]
 江戸時代に五街道を中心として交通上の施設が整備されたが,各街道筋には宿場町が発達し,宿場には,本陣旅籠(はたご),木賃宿の3種の宿泊施設があった。本陣とは,大名など身分の高い人々のための施設で,1635年(寛永12)に参勤交代の制度が施行されてから,江戸幕府によって駅制整備の一環として本格的に整備された。…

※「旅籠」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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