江口(能)(読み)えぐち

日本大百科全書(ニッポニカ) 「江口(能)」の意味・わかりやすい解説

江口(能)
えぐち

能の曲目。三番目物。五流現行曲。観阿弥(かんあみ)の作といわれるが世阿弥(ぜあみ)が改作、世阿弥自筆本が残る。遊女が実は普賢菩薩(ふげんぼさつ)であったという結末をもつ哲学的な能。江口の遊女の古跡に立って、遊女に宿を断られた西行(さいぎょう)の歌を回想する旅僧(ワキ)に、里女(前シテ)がその真意弁明に現れ、江口の幽霊と告げて消えうせる。侍女(ツレ2人)を伴い、屋形船に乗って川遊びの態で登場した後シテは、罪深い遊女の身の上、愛欲に沈む執着と悲しさを語り、舞うが、しだいにその姿は荘厳、透明なものとなり、船は普賢の霊獣である白象となり、菩薩が西の空に消える態で終わる。後段は無常と解脱(げだつ)を説く仏教哲理のむずかしい文章だが、華麗さと崇高さがみごとに表現され、別格にだいじに扱われる能。霊験能的な古風おもかげを残す夢幻能である。

増田正造

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例