大気中の分子状窒素がアンモニアに還元される過程をいう。地球上で固定される窒素は年間約3億トンに及ぶと推算されるが、その大部分は生物による窒素固定である。ほかに自然界では雷放電によっていくらかのアンモニアが生成し、雨に溶け込む。
窒素固定微生物は大きく共生によるものと非共生によるものとに分けられる。共生的な窒素固定微生物ではマメ科植物に共生する根粒菌(リゾビウム属、ブラディリゾビウム属)がその代表的なものである。根粒をつくってすみついた根粒菌に植物は光合成で得た炭水化物を与えるが、細菌のほうは植物に窒素源としてのアンモニアを提供する。非マメ科植物(ハンノキ属、ヤマモモ属、モクマオウ属など)には放線菌(フランキア属)が根粒を形成して窒素固定を行う。ほかに、ラン藻は単独でも窒素固定を行うが、裸子植物(ソテツの根)、シダ植物(アカウキクサの葉)、地衣類とも共生して窒素を固定できる。非共生的な窒素固定微生物は絶対嫌気性細菌(クロストリディウム属など)、通性嫌気性細菌(バチルス属など)、好気性細菌(アゾトバクター属など)、光合成細菌、ラン藻など多岐にわたっている。窒素固定生物に加えて人為的な窒素固定、すなわち電力を用いた硫酸アンモニウムをはじめとする窒素肥料の工業的な生産量も、地球全体でのマメ科植物 - 根粒菌による窒素固定量に匹敵するといわれている。
生物の窒素固定に中心的な役割を果たす酵素はニトロゲナーゼで、種々の窒素固定菌から精製されている。いずれの窒素固定菌のニトロゲナーゼも性質はよく似ており、モリブデンと鉄を含むタンパク質(Ⅰ)と鉄を含むタンパク質(Ⅱ)とからなり、電子供与体は還元型フェレドキシン(電子伝達を行う小分子のタンパク質)またはフラボドキシン(フラビンタンパク質)である。まずⅡが還元され、これにATP(アデノシン三リン酸)が結合してADP(アデノシン二リン酸)に分解されるとき、Ⅱの電子がⅠに移り、モリブデンを含むⅠの反応基に結合した分子状窒素が還元されてアンモニアになる。1分子の窒素の還元には12分子のATPと6個の電子が消費される。ニトロゲナーゼは分子状窒素だけではなく、ほかのさまざまな物質も還元する。とくにアセチレンのエチレンへの還元はニトロゲナーゼ活性の簡易な測定法として利用されている。
[南川隆雄]
『日本微生物生態学会編『微生物の生態14 進化をめぐって』(1986・学会出版センター)』▽『増田芳雄編著『絵とき植物生理学入門』(1988・オーム社)』▽『増田芳雄著『モヤシはどこまで育つのか――新植物学入門』(1990・中央公論社)』▽『土壌微生物研究会編『新編 土壌微生物実験法』(1992・養賢社)』▽『山崎昶著『SFを化学する』(1992・裳華房)』▽『安江多輔編著『レンゲ全書――来歴・性状・栽培・利用・文化』(1993・農山漁村文化協会)』▽『西田雄三著『無機生体学』(1994・裳華房)』▽『美濃部侑三編、吉川寛監修『植物――ふしぎな世界』(1996・共立出版)』▽『有坂文雄著『スタンダード 生化学』(1996・裳華房)』▽『高橋英一著『栄養学の窓から眺めた生物の世界』(1997・研成社)』▽『山田哲治ほか監修『分子レベルからみた植物の耐病性』(1997・秀潤社)』▽『横田明穂著『植物分子生理学入門』(1999・学会出版センター)』▽『山谷知行編『朝倉植物生理学講座2 代謝』(2000・朝倉書店)』▽『増田芳雄著『植物生理学講義――古典から現代』(2002・培風館)』▽『矢尾板仁・相澤益男著『ビギナーのための生物化学――生命のハードとソフト』(2003・三共出版)』▽『日本土壌微生物学会編『新・土の微生物10 研究の歩みと展望』(2003・博友社)』
空気中の窒素分子を原料とし,窒素化合物を生成すること.自然界では,細菌,らん藻あるいはマメ科植物と根粒バクテリアの共生作用によって窒素固定が行われ,自然界における窒素循環の重要な反応の一つである.この反応は,還元型フェレドキシンとアデノシン5′-三リン酸(ATP)により,窒素分子を還元してアンモニアを生成すると考えられている.植物の窒素源として,アンモニア合成は土壌の肥沃さを保つのに役立っている.このほか,空気中で放電により窒素分子が酸化され,硝酸塩を生成する.また,工業的にはハーバー-ボッシュ法によるアンモニア合成がある.[別用語参照]窒素同化,空中窒素の固定
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…空気中の窒素を,人間が利用しやすい窒素化合物の形に変換する処理法。単に窒素固定ともいう。空中の窒素の大部分は分子状窒素N2ガスで,そのままでは利用しにくい。…
…これらの物質の中には,グルコース(ブドウ糖),フルクトース(果糖),各種アミノ酸,低級(短鎖)脂肪酸や有機酸のような低分子化合物から,多糖類やタンパク質,核酸,高級(長鎖)脂肪酸などの高分子物質にいたる広い範囲の分子量分布がみられる。最もよく知られている同化作用である炭酸同化と窒素固定について以下に述べてみよう。
[炭酸同化作用]
生物が二酸化炭素を吸収して有機物に転化する反応を指す。…
※「窒素固定」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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