(読み)ハシ

デジタル大辞泉 「箸」の意味・読み・例文・類語

はし【箸】

食物などを挟むのに用いる2本で一対の細い棒。木・竹・象牙ぞうげなどで作る。
[下接語](ばし)一本箸祝い箸移り箸苧殻おがらかなこうさいせせり箸雑煮箸竹箸とこ取り箸握り箸塗り箸火箸太箸惑い箸柳箸利休箸渡り箸割り箸
[類語]おてもと割り箸菜箸太箸取り箸塗り箸火箸

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精選版 日本国語大辞典 「箸」の意味・読み・例文・類語

はし【箸・筯】

  1. 〘 名詞 〙 物をはさみ取るのに用いる二本の細い棒。ふつう、食物をはさむものをいい、木、竹、象牙などで作る。また、火などをはさみ取る金属製のものなどもある。
    1. [初出の実例]「此の時箸(はし)其の河より流れ下りき」(出典:古事記(712)上)

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改訂新版 世界大百科事典 「箸」の意味・わかりやすい解説

箸 (はし)

細い棒状の用具で2本1組となっており,物をつまむのに用いる。第2次世界大戦までの日本では,炭火を扱うための火ばしも家庭の常備品であったが,暖房設備や調理の熱源の変化によってあまり見られなくなり,現在のはしはおおむね食事用,調理用のものになっている。世界的にみると,はしを使うのは日本,朝鮮,中国,ベトナムなどで,東南アジアでは手食が主であるが,汁気のあるめん類を食べるときだけはしを使うところが多い。はしは,粘り気のある飯を食べるのに便利であり,中国では,雑穀食を主体としていた東北部にまで米食が普及した明代になって,はしの使用が一般的になった。

 日本では《魏志倭人伝》に見られるように,弥生時代には手食をしていたらしいが,奈良時代以前から素戔嗚(すさのお)尊や三輪山の神の伝承に見るように,はしが使われていたようである。弥生時代の遺跡からピンセット状のはしが出土しており,日本のはしの原型を竹製のピンセット状のものとする説もあるが,2本棒のものが構造的にも単純であり,疑問がある。平安時代,宮廷の儀式や饗宴では馬頭盤(ばとうばん)と呼ぶ脚つきの皿にはしとさじをのせ,あるいははし台にはしを置いたが,さじの使用はしだいにすたれた。はしは銀,白銅,竹などのものが多く,馬頭盤やはし台は金銀,朱漆,土器などが用いられた。室町時代ごろには公式の宴会でのはし台は,すべて耳土器(みみがわらけ)と呼ぶ土器を用いていた。現在のはし置きはその後の変化である。はしを納めておく用具にははし箱,はしつぼ,はし筒などがあり,はし箱とはしつぼは《延喜式》に名が見えている。

 はしは,用途によって,菜(さい)ばし,取りばし,めいめい(銘々)ばしなどに分類される。菜ばしは調理用で竹製のものが多い。古くは真魚(まな)ばしと呼ばれ,魚鳥を切り分けるときなどにそのつど新しく削って用いた。揚物用には金属製の長めのはしに木の柄をつけたものなどがある。取りばしは,一つの容器に盛られた料理をめいめいが自分の皿や鉢にとって食べる際の取り分け用で,煮物,漬物などの容器別に用意されるのがふつうである。取りばしは卓袱(しつぽく)料理に伴って普及したもので,《卓袱会席趣向帳》(1771)は菜ばしの名で記載している。めいめいばしは食事専用で,家庭では家族の間でも混用せぬように個人別に大小,色,柄,材質を変えることも多い。割りばしは使い捨てのめいめいばしとして考案されたもので,江戸末期に登場してから急速に普及し,飲食店を中心に広く用いられている。はしの材料はきわめて多様で,植物性のものでは竹,杉,柳を筆頭にナンテン,桑,紫檀(したん),黒檀その他,動物性のものでは象牙,シカの角,獣骨など,金属では金,銀,鉄などが用いられてきた。近代になってアルミニウム,さらにプラスチックなどのものも使われるようになった。木ばしは白木のままのものと塗りばしがあり,後者には蒔絵(まきえ)や螺鈿(らでん)を施したものもつくられる。また,銀はヒ素と反応して急速に変色するため,中国では古くから毒殺をおそれた権力者たちが銀ばしを常用したといい,日本でもそれにならって古くから用いられていた。
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はしの使用は,一つには物を手でつかむことを忌む宗教的な理由から始まったと考えられ,今日でも各地に残る魚などの神饌(しんせん)を直接手を用いずに,長いはしと包丁で調理する〈真魚箸神事(まなばししんじ)〉はその古い心意を伝えている。また,古い風習を多く残している大嘗祭(だいじようさい)には,二本ばしでなく,1本を中央部で折り曲げたピンセット状のはしが使われており,これがはしの原型で鳥のくちばしから考案したのではないかという説もある。二本ばしにしろピンセット状のはしにしろ,口と食物を媒介する道具であることには変わりない。しかし,はしをめぐる諸習慣を見ると,はしを斎串(いみぐし)や神霊の依代(よりしろ)として見る信仰が卓越している。

 かつて農村では,年の暮れには食器やはしを新しくするのがならわしで,ハシカキはたいせつな正月準備の一つであった。長崎県対馬の佐護浜では旧暦12月20日をハシカキといい,従者は主家に集まって竹ばしを作ったという。また茨城県高萩市では12月23日がハシカキの日で,イエズクという白木を切ってきて一升枡の上ではしを作ったという。兵庫県養父郡大屋町では実際にはしを作る習慣はなく,大晦日の晩に子方が親方の家に挨拶にいき馳走(ちそう)をうけることを〈箸納め〉と称した。とにかく,はしは新旧の年を画するものとされたのである。日本では節日や祭日には特別な形や材料のはしが作られ,正月には太ばしとかハラミばしと称す中央部が太くなったはしで雑煮や小豆粥を食べる所があるが,このほか7月27日の新箸(にいばし)の祝いにはススキやカヤのはし,盆には麻桿(おがら)のはし,亥子(いのこ)には長いはし,大師講には三本ばしなども用いられる。

 また盆や大晦日の御魂(みたま)の飯や信越地方の正月3日の釜神(かまがみ)の年取りには,供物の握飯に1本ずつはしをさす風習もある。葬式の枕飯にもはしを突き立てるため,ふだんはこの仏箸は忌まれているが,これは飯盛神事に斎串を用いたなごりと見られている。さらに,旅の高僧や貴人が使ったはしが生長して大木になったという〈箸立伝説〉は各地にあり,〈箸立松〉〈箸杉〉〈箸立峠〉などいずれも村境などの境界にかかわる話になっている。はしは斎串や神霊の依代ともされたが,日本では日常用いる道具は個人の魂の宿るものと見られ,生児の100日目の〈食初め〉を箸ぞろえ,箸立て,箸初めといって,新しく膳,椀,はしなど個人用の食器をそろえ,米粒一つを口に入れて儀礼的に食べさせる風習もある。このほか,はしには俗信も多い。二人がはしで挟みあったり,竹と木のはしで挟んだりするのは,葬式の骨拾いのまねとして嫌われるほか,一本箸で食えば親が死ぬなどともいう。また,はしをむだにすると死後にはしの山にのぼらされるとか,はしを折ったり踏んだりすると財産をなくすという。さらに,はしが突然折れると凶事があるとか落馬する前兆だといって嫌われる。桑やナンテンのはしで食うと中風にならないとか,野外で使ったはしは必ず折って捨てねばキツネや魔物につかれるとか病気になるともいう。このように,はしをめぐる俗信には,葬式に関連したものと,一度使えば個人の魂の宿るものとなるため,扱いを注意したものとがほとんどである。

 日本でははしの持ち方や使い方などに関して幼いころからしつけられるため,はしの使用は日本人の手先の器用をはぐくんできた物質的条件の一つともいえよう。食事作法の上から,〈ネブリ箸〉〈迷い箸〉〈移り箸〉〈さぐり箸〉〈刺し箸〉〈もぎ箸〉〈こみ箸〉〈渡し箸〉〈せせり箸〉〈寄せ箸〉〈および箸〉〈まわし箸〉〈仏箸〉などのはしの使い方が嫌われている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「箸」の意味・わかりやすい解説


はし

食事や調理の際に食物を挟む、一対の細い棒状の器具。東洋独特のものである。日本の古代の箸は、竹を細く削って二つに折り曲げたピンセット状のものであったという。『万葉集』のなかにも詠まれているように、中国文化の影響を受けて、奈良時代にはすでに2本の箸の使用が一般化していた。箸の語源は鳥の嘴(はし)あるいは端(はし)ともいわれる。

河野友美

種類

箸の材料には、竹・杉・柳のほか、ナンテン・ヒノキ・桑・紫檀(したん)・黒檀などの木材、金・銀・鉄・アルミニウムなどの金属、象牙(ぞうげ)・シカの角・獣骨など動物の骨角、およびプラスチックなどが使われている。木箸は木地のままのものと塗り箸があり、塗り箸には蒔絵(まきえ)や螺鈿(らでん)を施したものもある。形は丸型、角型、太型、細型、先細型、平(ひら)型、割り箸などがある。

[河野友美]

用途

箸は、日常の食事のほか、儀式その他の行事などに、いろいろな箸が用いられてきた。日常的なものでは、用途別に、調理用の菜箸(さいばし)、一つの器に盛られた料理を取り分けるための取り箸、個人用の銘々箸などがある。菜箸は調理や料理の盛り付けに使う丸箸で、竹製のものが多い。焼き物・揚げ物用は30センチメートルくらいの長いもの、和(あ)え物、煮物用はやや短い。そのほか、細かい料理や刺身を盛り付けるための先が金属製の盛り付け箸、柄(え)が木製で先は金属製の揚げ箸、普通の菜箸よりずっと太い、木製のてんぷらの衣づくり用箸などがある。菓子箸は、接待用の取り箸の一種で、主として生(なま)菓子に添える。茶道では黒文字(くろもじ)(クロモジの木でつくった箸)が用いられる。祝い箸は祝儀に用いる丸箸で、柳の木を使った太い丸箸が本式とされ、これを柳箸ともいう。柳は折れにくいとして祝儀に用いられた。とくに正月用を雑煮箸という。利休(りきゅう)箸は、杉製の角箸の面をとり、両端を細く削ったもので、両方から使える。千利休が考案し茶懐石に用いられたが、現在では一般の料理にも使う。割り箸は、木製の割って用いる使い捨ての箸で、便利さと清潔さを備えた日本独特のものである。江戸時代末期に考案され、飲食店や来客用に広く普及している。そのほか、特殊な箸である真魚(まな)箸は、儀式や特別の席で魚や鳥などを調理するのに用いられる。箸の付属品としては、古くは箸台とよばれた箸置き、箸箱、箸を挿しておく箸壺(はしつぼ)、箸筒などがある。

[河野友美]

使用法

正しい箸の持ち方、食事作法のうえでの箸の使い方のエチケットなどが、しつけとして伝えられている。たとえば、おかずからおかずへ箸を移す移り箸、あれこれ迷う迷い箸、口の中へ箸で押し込む込み箸、椀の中をさぐるさぐり箸、汁物などをかき回す回し箸、箸についた飯粒をなめてとるもぎ箸、食べようとして箸をつけてから引っ込めるそら箸などは、行儀の悪いこととされている。

[河野友美]

民俗

箸に関する民俗は多く、正月をはじめ、盆(ぼん)、節供(せっく)、神祭り、誕生祝いなどには、とくにクリ、ヤナギ、アシなど清い木を切って新箸(にいばし)をつくるのを古風とする。たとえば、年越しの行事に箸を削って年神に供えたり、正月行事に年男がクリの木で箸をつくって用い、これを保存してアワ播(ま)きの日の食事に使うという地方もある。また旧暦6月末には、新箸の祝い、青箸の年取りなどといい、カヤやススキの箸を供え、これで食事する地方もある。このほか、盆には麻幹(おがら)の箸、10月の亥(い)の子には長箸、11月の大師(だいし)講には3本箸が用いられた。一方、弘法(こうぼう)大師、源頼朝(よりとも)など聖人・貴人が、食事に用いた箸を逆さに地面に挿したところ、芽を吹き、大木になったという箸立(はしたて)伝説も広く行われている。また、食事中に箸が折れるのは凶事の前兆であるとか、2人が箸で挟み合うのは葬式の骨拾いとして嫌われるとか、野外で食事をしたとき、使った箸は、かならず折って捨てないと、妖怪(ようかい)に拾われ、病気になるなどといわれている。

[宮本瑞夫]

『川瀬勇著『箸とフォーク』(1976・広済堂出版)』『東畑朝子著『箸とフォークとクッキング』(1982・東京書籍)』『本田總一郎著『箸の本』(1985・日本実業出版社)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「箸」の意味・わかりやすい解説


はし

食物などをはさむ用具。日本で初めて用いられた年代ははっきりしないが,『古事記』のスサノオノミコトの神話にもみえるほど古い。古代の箸は細く削ったタケを2つに折り曲げたものといわれるが,のちに2本の細い棒状のものとなった。材料としてはタケ,ヤナギ,スギ,ヒノキが古くから用いられ,シタン,コクタン,ハギ,クリ,クワなどの植物製のものや金,銀,銅,鉄,アルミニウムの金属製のもの,動物の骨角,象牙などのほか,プラスチックなどの製品もある。

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食器・調理器具がわかる辞典 「箸」の解説

はし【箸】

食物などを挟むのに用いる2本で一対の細い棒。食事に用いるもののほか、調理用の菜箸や真魚(まな)箸、揚げ物用の揚げ箸、取り分け用の取り箸、菓子箸などがある。材質は木、竹、金属、プラスチックなどで、形や長さも各種ある。◇料理屋などで使用する箸は、「御手元(おてもと)」ともいう。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【食事】より

…インドでは個人別に食物が盛り分けられるが,一般に手づかみの食事においては,食物を個人別の容器にとり分けることをせず,大皿や大鉢などの共用の食器に盛る。 古代中国で,はしとさじを使用する風習がはじまり,東アジア諸民族に伝わった。現在日常の食事にはしを使用するのは中国,朝鮮半島,ベトナム,日本である。…

【中国料理】より

…醢(けい)(肉をこうじ,塩と酒につけたもの)には肉醢,兎醢,魚醢のほか,蝸醢,醢のような珍しいものもある。醢はしばしば熱い料理や羹の主なる材料の一つとして使われ,また調味料でもある。醬(ひしお),豉(くき),酢などの調味料のなかでも,もっとも大事な調味料は塩であった。…

【新箸】より

…茅(カヤ)の箸で食物を食べる7月(旧暦では6月)下旬の行事。新箸の祝ともいう。神奈川県の三浦半島から千葉県一帯にかけて行われ,7月26日か27日の所が多い。新しく作った茅の箸をいったん神棚に供え,新小麦でこしらえたうどん,小麦まんじゅうなどをそれで食べる例が一般的だが,赤飯を蒸したりカボチャを煮て食べる例や,小豆粥を作る例もある。農事に関するなんらかの祭りだと思われ,稲生育を祈る行事だとも説かれるが,行う理由について十分には究められていない。…

【弁当】より

…屋外で食事をとる必要から携行する食物のこと。農・山・漁村や都市の諸技能者の間では,屋外の労働を目的としたとき,家に帰って食事をとれない場合に携行したが,その形態は地域ごとの食生活に応じて一様ではなかった。米飯,粟飯,稗飯,芋などが中心で,それによって容器も異なり,畑作地帯では稗や粟の飯を入れる網袋状の苞(つと)が多い。そのほか藺(い)やわらなどで編んだ苞のほか,柳や竹の皮で編んだ行李(こうり),杉や桜をへいで曲げたワッパ,メンパの類があった。…

※「箸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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