[1] 〘自ラ五(四)〙
① 食べものが、微生物の作用によって、悪臭あるものに変化して食べられない状態になる。腐敗する。〔新撰字鏡(898‐901頃)〕
※今昔(1120頃か)二「只
(くさ)れる米の汁なむ有る」
② 微生物の作用で動物の死体の組織がくずれる。また、からだの一部がうみただれたり、灸(きゅう)のあとがくずれたりすることをもいう。
※書紀(720)垂仁二八年一一月(北野本室町時代訓)「遂に死りて爛
(く)ち
(クサリ)ぬ」
③ 腐敗などの原因で悪臭を生じる。くさくなる。
※小川本願経四分律平安初期点(810頃)「地を破りて虫を生じて、屋内臭(クサリ)穢れぬ」
④ 布、木、石などが外気にさらされたりして、くだけくずれる。腐朽する。
※応永本論語抄(1420)顔淵第一二「水の近き処にある屏などは漸々に湿気かか積りて、上へはみえねども下地がくさりて」
⑤ 金属が外気や薬品などのために、さびてぼろぼろになる。腐食する。
※甲陽軍鑑(17C初)品四〇「人をきる物とてつぶさにてささば〈略〉刀脇差もくさりて用にたたず」
⑥ 心が純粋さを失う。心が堕落する。
※大鏡(12C前)三「くさりたる讚岐前司古受領の、鼓打ちそこなひて」
※
浄瑠璃・平家女護島(1719)四「
根性くさっても王は王」
⑦ 活気がなく、ゆううつになる。また、表立った活動をしないで、世にうもれる。めいる。
※
日葡辞書(1603‐04)「キガ cusatta
(クサッタ)」
※社会百面相(1902)〈
内田魯庵〉
貧書生「汝も尚
(ま)だ隠居して腐って了ふ齢ぢゃなし」
※古川ロッパ日記‐昭和九年(1934)八月二七日「モミアゲを変に剃り込まれてクサる」
⑧ (「くさる(鏈)」の意を兼ねて) 男女がなれあう。男女が密通する。
※浄瑠璃・
嫗山姥(1712頃)二「其身はちゃんと栄耀らしい若い女中に立まじり、
三味線ひいてゐけつかり、くさりくさるを見る様な」
⑨ かけごとに負ける。失敗する。
※咄本・軽口御前男(1703)四「ゆふべ胴がくさってありたけとられ」
※浄瑠璃・三荘太夫五人嬢(1727)道行こしぢの女浪「
二三日のあたぶの悪さ、かう腐
(クサ)っては末が詰らぬ」
⑪ びっしょりとぬれる。びしょぬれになる。
※雑俳・柳多留‐二五(1794)「びんしょりくさりじねんじゃうじねんじゃう」
※雑俳・柳多留‐四(1769)「くさったら寄るなと呵る
年男」
(イ) 動詞の
連用形に付いて、人の動作をののしっていうのに用いる。…やがる。
※浄瑠璃・都の
富士(1695頃)三「生ても死んでも忘れはせじ、覚えくされとせきくるひ」
(ロ) 動詞の連用形に
助詞「て」をそえた形に付いて、「…ている」をののしっていうのに用いる。…てやがる。「なにしてくさる」
[語誌]もともと四段活用であったが、中世頃から下二段に活用する場合が現われ、並行して用いられた。しかし、その後、四段活用が盛り返し、現代では五段活用がふつうである。
複合語や
転成語では、「ふてくされる」「くされ縁」「持ちぐされ」「生きぐされ」など、下一段(下二段)系のものが著しい。