(読み)シン

デジタル大辞泉 「臣」の意味・読み・例文・類語

しん【臣】[漢字項目]

[音]シン(漢) ジン(呉) [訓]おみ
学習漢字]4年
〈シン〉主君に仕える人。家来。「臣下臣民家臣奸臣かんしん君臣功臣重臣人臣忠臣寵臣ちょうしん乱臣老臣
〈ジン〉に同じ。「大臣だいじん
[名のり]お・おか・おん・きむ・しげ・たか・とみ・み・みつ・みる
[難読]朝臣あそん大臣おとど・かみ

や‐つ‐こ【臣/奴】

《「家つ子」の意》
[名]
古代の最下級の隷属民。財物として売買・譲渡の対象となり、労働に使役された者。家族を構成することができなかった。奴婢ぬひ
住吉すみのえの小田を刈らす児―かもなき―あれど妹がみためと私田わたくしだ刈る」〈・一二七五〉
家来。臣下。また、従者。しもべ
「君をば天とす。―らをば地とす」〈推古紀〉
そのものにとらわれて心身の自由を奪われることのたとえ。とりこ。
「ますらをのさとき心も今はなし恋の―にあれは死ぬべし」〈・二九〇七〉
人などをののしっていう語。やつ。
松反まつがへりしひてあれやは三栗の中上り来ぬ麻呂といふ―」〈・一七八三〉
[代]一人称人代名詞。自分をへりくだっていう語。男女とも用いる。わたくしめ。
「―はこれ国つ神なり」〈神武紀〉

しん【臣】

[名]君主に仕える人。家来。臣下。「不忠の
[代]一人称の人代名詞。家来が主君に対して自分自身をへりくだっていう語。「の一存でいたしました」
[類語]家来臣下家臣

おみ【臣】

主君に仕える人。臣下。
かばねの一。古代、有力な豪族に与えられた、むらじと並ぶ最も高い家柄。天武天皇八色やくさの姓では第六位。

じん【臣/神】[漢字項目]

〈臣〉⇒しん
〈神〉⇒しん

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精選版 日本国語大辞典 「臣」の意味・読み・例文・類語

や‐つ‐こ【臣・奴・僕・官奴】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙 ( 「家つ子」の意 )
    1. 人に使われる身分の低い者。奴婢(ぬひ)
      1. (イ) 古代の賤民のうち、最下級の奴隷。売買・贈与・譲渡の対象となり、人格は認められず、家族も形成しない。令制では、官有の公奴婢(くぬひ)と私有の私奴婢に大別される。やつこらま。つぶね。
        1. [初出の実例]「住吉の小田を刈らす子賤(やつこ)かも無き 奴(やつこ)あれど妹が御為と私田刈る」(出典:万葉集(8C後)七・一二七五)
      2. (ロ) ( 「やつご」とも ) 身分の低い召し使い。奴僕。
        1. [初出の実例]「カノ ノウニンニ ワガ yatçuconi(ヤツコニ) トエト イワルレバ」(出典:天草本伊曾保(1593)イソポの生涯の事)
        2. 「恩なき主君のくせとして、声たかにいかりつかひて、やつごの飢をもしらず」(出典:仮名草子・悔草(1647)中)
    2. 神、君、主人などに仕える者。従者。忠実な家来。臣下。郎等。
      1. [初出の実例]「義(ことわり)においては、君臣(ヤツコ)(〈別訓〉やつこらま)なり」(出典:日本書紀(720)雄略二三年八月(前田本訓))
    3. ( 「やつご」とも ) 人などをののしっていう語。また、親しさをこめたり、ふざけた気持で故意に用いたりすることも多い。やつ。
      1. [初出の実例]「天皇因て嘖譲(せ)めて曰く、何処(いつこ)にありし奴(ヤツコ)そ」(出典:日本書紀(720)雄略一三年九月(前田本訓))
      2. 「其家に乱入し、資材雑具を追捕し、其奴(ヤツゴ)(高良本ルビ)を搦とて」(出典:平家物語(13C前)一)
    4. ある事に執着して身心の自由を奪われることをたとえていう。
      1. [初出の実例]「大夫(ますらを)の聰き心も今は無し恋の奴(やつこ)に吾れは死ぬべし」(出典:万葉集(8C後)一二・二九〇七)
    5. ( 官奴 ) 「やつこ(官奴)のつかさ」の略。
  2. [ 2 ] 〘 代名詞詞 〙 自称。自分をへりくだっていう。男女ともに用いる。やつがれ。
    1. [初出の実例]「疋夫(いやしきひと)の志も、奪ふ可きこと難しといへるは、方に臣(ヤツコ)に属(あた)れり」(出典:日本書紀(720)雄略即位前(前田本訓))

臣の語誌

「つ」は[ 一 ](ロ)の挙例「天草本伊曾保」のつづりで明らかなように、中世までは直音であった。また、「こ」が連濁して「やつご」となった例の存在(ロ)の「悔草」など)も「つ」が促音でなかったことを裏付ける。


しん【臣】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙 天皇、主君などに仕える人。臣下。家来。おみ。
    1. [初出の実例]「揚名之義、可益於北闕之臣」(出典:菅家文草(900頃)一・仲春釈奠、聴講孝経、同賦資事父事君)
    2. 「この女子のはらめる子、男ならば臣が子とせん」(出典:大鏡(12C前)五)
    3. [その他の文献]〔礼記‐礼運〕
  2. [ 2 ] 〘 代名詞詞 〙 自称。主君に対し臣下がへりくだって用いる語。
    1. [初出の実例]「然臣平生曰、豈有此事乎。臣聞。天道無親。惟善是輔」(出典:懐風藻(751)大友皇子伝)
    2. [その他の文献]〔漢書‐高帝紀・上〕

おみ【臣】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「おおみ(大臣)」の略 )
  2. 主君に仕える人。宮廷に仕える者。男にも女にも言った。おみのこ。おむのこ。
    1. [初出の実例]「水底ふ 於瀰(オミ)のをとめを 誰養はむ」(出典:日本書紀(720)仁徳一六年七月・歌謡)
  3. (かばね)の名。大化前代に、畿内の在地有力豪族に与えられた。天武朝に八色の姓により地位低下
    1. [初出の実例]「朝列(みかど)に仕へ奉る臣連・二造〈略〉より下百姓に及るまでに」(出典:日本書紀(720)敏達一二年是歳)

おむ【臣】

  1. 〘 名詞 〙おみ(臣)〔観智院本名義抄(1241)〕

おん【臣】

  1. 〘 名詞 〙おむ(臣)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「臣」の意味・わかりやすい解説


おみ

古代の姓(かばね)の一つ。語源については「おおみ(大身)」説や朝鮮語で解釈する説があるが、神霊語、敬称語のミに「大」を意味するオを付した尊称に起源すると考えられる。臣は、孝元(こうげん)天皇以前の古い皇裔(こうえい)氏族に多く与えられたが、その出自は信用できない。臣姓氏族は二百数十を数え、その多くは葛城臣(かつらぎのおみ)、蘇我臣(そがのおみ)、吉備臣(きびのおみ)のように居住地の地名を氏の名に負い、皇室の外戚(がいせき)となって権勢を振るうものもあった。このことは、臣姓氏族が君主的で独立的な性格を有していたことを物語る。有力な臣姓氏族の族長は大臣(おおおみ)に任命され、大和(やまと)朝廷の最高責任者となって天皇を補佐した。八色(やくさ)の姓(かばね)制定(684)に際し、臣姓の有力氏族は第二位の朝臣(あそん)を賜姓され、その後も特権的貴族階級を構成した。

[前之園亮一]

『太田亮著『全訂日本上代社会組織の研究』(1955・邦光書房)』『阿部武彦著『氏姓』(1966・至文堂)』『溝口睦子著『日本古代氏族系譜の成立』(1982・学習院大学)』

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改訂新版 世界大百科事典 「臣」の意味・わかりやすい解説

臣 (おみ)

日本古代の(かばね)の一つ。語義に諸説あるが仕える者の意で,古くは称号。埼玉県行田市稲荷山古墳から出土の鉄剣銘にみえる〈乎獲居〉の〈〉が〈臣〉の字ならば,臣の称号の用例は5世紀後半にまでさかのぼれる。姓としての臣は主として孝元天皇以前の皇族の子孫と称する皇別(こうべつ)の氏族に与えられ,蘇我臣のように,有力な豪族は大臣(おおおみ)となって,国政に参与した。684年(天武13)に制定された八色(やくさ)の姓のうちの一つである朝臣(あそん)は,臣姓の有力豪族に与えられ,それ以外の氏族は,臣姓にとどめられ,臣は八色の姓では,第6位となる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「臣」の意味・わかりやすい解説


おみ

古代の姓 (かばね) の一つ。孝元天皇以前の皇胤氏族に賜わった姓。 (むらじ) が皇室の伴造的氏族であったのに対して,地名を名とした臣姓の氏族は,古くは天皇氏とともに,大和連合政権を形成していたものと思われる。大和朝廷が成立すると,連姓,臣姓の最有力者がそれぞれ大連大臣となって,政治をとった。臣姓の豪族は,多くの部民と田荘 (たどころ) をもっていたが,大化改新後,私有が廃され,中央集権国家の成立とともに部民,田荘を失った彼らは,官人として再編成された。天武朝の八色の姓 (やくさのかばね) の制では,その有力なものは第2位の朝臣を賜わり,ほかの臣は第6位の臣姓にとどまった。

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百科事典マイペディア 「臣」の意味・わかりやすい解説

臣【おみ】

日本古代の(かばね)の一つ。皇別のうちで孝元以前の諸天皇の子孫と称するもの。大和(やまと)盆地を本拠とする臣姓の豪族は,皇室と比肩する勢力をもった。天武朝の八色(やくさ)の姓で臣姓の有力豪族は朝臣(あそん)を与えられ,臣は第6位の姓となる。
→関連項目大臣

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「臣」の解説


おみ

古代のカバネ。もともとは「オオミ(大身)」,つまり勢力のあるものの意か。「新撰姓氏録」では臣姓を称した氏は孝元天皇以前の皇裔氏族とされているが,これらは政治的に造作されたものである。葛城臣・春日臣・蘇我臣などの中央氏族や吉備臣・出雲臣などの地方豪族が,ともに地名を氏の名としている点を考えると,臣姓氏族は地方の大首長的な氏族であったと思われる。これらのうち中央でとくに有力であった氏族は,「臣」に「大」を付す伝承を作りえたのであろう。また684年(天武13)の八色の姓(やくさのかばね)制定に際して臣姓は第6等のカバネとされ,旧臣姓の有力な氏族は第2等の朝臣(あそん)姓を賜った。

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旺文社日本史事典 三訂版 「臣」の解説


おみ

①大和政権の姓 (かばね) の一つ
②天武天皇が684年制定した八色の姓 (やくさのかばね) の第6位
大化の改新前の連 (むらじ) と並ぶ有力な姓。中央および地方豪族の有力なものに多く,中央の平群 (へぐり) ・葛城 (かつらぎ) ・蘇我 (そが) 氏など有力者は大臣となり国政に参画。
この時,もとの臣のうち,有力なものは朝臣 (あそん) の姓を与えられたが,多くのものはそのまま臣の姓に固定させられた。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【賤民】より

… 中国における奴婢(奴隷と同義)の起源ははなはだ古く,甲骨文にもみえているが,その発生の状況を明らかにすることはできない。先秦時代には臣・妾と称せられたが,漢代以後,奴・婢という言葉に置きかえられ,唐代にいたった。原則として,男の奴隷を奴,女の奴隷を婢といった。…

【氏姓制度】より


[政治制度としての氏姓制度]
 このような制度は,原始共同体において,氏族や部族が社会の単位となった,いわゆる氏族制度とは異なる。もちろん,氏姓制度の基盤も,血縁集団としての同族にあったが,それが国家の政治制度として編成しなおされ,同族のなかの特定のものが,(おみ),(むらじ),伴造(とものみやつこ),国造(くにのみやつこ),それに百八十部(ももあまりやそのとも)などの地位をあたえられ,それに応ずる氏姓を賜ったところに特色がある。その成立時期は,おそらく5,6世紀をさかのぼらないであろう。…

【伴造】より

… 伴造は狭義には,上位の連のカバネを有するものをのぞいたものを称した。《日本書紀》には,雄略2年以後天武5年までのあいだ,朝廷の有勢者一般を表す慣用句として臣(おみ)・連・伴造・国造(くにのみやつこ)がつかわれる。この場合の伴造は,臣・連(蘇我,巨勢(こせ),大伴,物部などの朝廷有力氏族)をのぞいている。…

【八色の姓】より

…天武の新姓ともいう。《日本書紀》天武13年10月条に〈諸氏の族姓(かばね)を改めて,八色の姓を作りて,天下の万姓を混(まろか)す〉とあり,真人(まひと),朝臣(あそん∥あそみ),宿禰(すくね),忌寸(いみき),道師(みちのし),(おみ),(むらじ),稲置(いなぎ)の8種類があげられている。第1の真人は,主として継体天皇以降の天皇の近親で,従来,公()(きみ)の姓を称していたものに授けられた。…

※「臣」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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