職権行使の独立性を有する合議制の行政機関が,裁判手続に準じた手続を経て,処分その他の決定を行う過程をいう。このような行政審判は,第2次大戦前から存在した海難審判および特許審判を除いては,戦後,アメリカ法の影響のもとで,日本に導入されたものである。すなわち,戦後,行政の民主化の一環として,アメリカの独立規制委員会にならって,各種の行政委員会が設置されたのであるが,同時に,それらの行政委員会がその準立法的権限や準司法的権限を行使する際の手続として,行政審判が導入された。このような手続は,アメリカにおいては,国民の権利自由を保障するために,規制的権限の行使にあたっては〈適正な手続due process〉がとられなければならないという観念のもとで,行政過程における〈適正な手続〉の理念を最もよく具体化するものとして形成されてきた。しかし,行政機関の権限行使の手続を法的に規制することに関心の低かった日本では,占領の終了後,行政委員会制度が,日本の伝統的な行政制度に適合しないとか,非能率的であるなどという非難をうけて,後退の道をたどるとともに,行政審判も十分な発展をみることなく今日に至っている。
現在,行政審判は,次のような場合に用いられている。(1)行政処分に対する不服審査手続として(例,国家公務員の不利益処分に対する不服申立てについて人事院が行う審査--国家公務員法90条1項等),(2)行政立法や一般処分を行う手続として(例,郵政省令の制定・改廃についての郵政大臣の諮問をうけて電波監理審議会が行う聴聞--電波法99条の11-1項1号等),(3)違法行為の排除,是正措置を命じる手続として(例,不当な取引制限行為等の排除措置を命じるために公正取引委員会が行う審判--独占禁止法49条等),(4)許可や許可の取消しその他の個別的処分を行う手続として(例,無線局の免許の取消しについての郵政大臣の諮問をうけて電波監理審議会が行う聴聞--電波法99条の11-1項2号等)。このうち,(1)は事後手続として行政審判が用いられているものであるが,不服審査を行う機関とその手続の特色から,通常の行政不服審査手続と区別される。これに対して,(2)~(4)は,事前手続として行政審判が用いられているものであるが,審判の開始に至る手続はさまざまで,行政審判機関自身の発意によって開始されるものもあれば,他の行政機関の請求にもとづいて開始されるものもあり,また,私人の申立てにもとづいて開始されるものもある。
行政審判機関は,通常の行政機関のように上級行政機関の指揮命令をうけない。この意味では,通常の行政組織の系統から多かれ少なかれ独立した,行政委員会またはこれに準じる行政機関であり,これらの機関の構成員には,職権行使の独立性が認められている。そして,職権行使の独立性を保障するために,一定の事由に該当するのでなければ罷免されないというような身分保障が,これらの機関の構成員には与えられている。その任命について,国会の両議院の同意が必要とされているものも少なくない。
行政審判においては,準司法的手続とよばれる,行政手続のなかでは最も司法的性質をもつ手続がとられる。この手続を規律する通則的な法律はなく,個々の法令の定めるところによって審判は行われるが,ふつう審判は公開され,対審的な形をとって行われ,処分の相手方やその他の利害関係者は,意見を述べ,証拠を提出し,参考人の陳述や鑑定を要求することができる。
全体としての行政審判は,審判機関が,審判を経て行った事実認定にもとづいて,法的判断を行うことによって,終結する。この判断は,一般に,審決と呼ばれている。審決は書面で行われ,事実認定および法令の適用が示される。審決のなかには,その取消しを求める訴えは,通常の行政処分の取消しを求める訴えとは異なり,一審級を省略して,東京高等裁判所を第一審裁判所として提起すべきものとされているものも少なくない。また,通常の行政処分の取消しを求める訴えにおけるように,裁判所の審査権がその処分に関係する事実問題および法律問題の全部に及ぶのではなく,審決において示された事実認定を支持する実質的な証拠がある場合には,その事実認定は裁判所を拘束し,事実問題についての裁判所の審査は実質的な証拠の有無に限定されるとする,いわゆる〈実質的証拠法則〉の適用が法律の明文で認められているものもある(現在では独占禁止法80条,電波法99条,〈鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律〉52条のみ)。実質的証拠法則は,アメリカにおいて,独立規制委員会の決定に対する司法審査のなかで判例によって形成され,その後,制定法中にも規定されるに至ったもので,専門的・技術的な知識経験を有する行政機関が裁判手続に準じる慎重な手続を経て行った事実認定は,裁判所もこれを尊重するのが合理的であるということを,その根拠としている。さらに,法律が明文で実質的証拠法則を規定していない場合でも,実質的証拠法則の適用が認められるべきであるとする有力な見解もある。しかし,日本の現在の行政審判が,審判機関およびその手続において,実質的証拠法則の適用を相当とするほどの実質を備えているかは,問題のあるところであり,判例も,法律に明文の規定のない場合において,その適用を認めるには至っていない。
→行政委員会
執筆者:岡村 周一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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