詩学(文学)(読み)しがく(英語表記)poetics

翻訳|poetics

日本大百科全書(ニッポニカ) 「詩学(文学)」の意味・わかりやすい解説

詩学(文学)
しがく
poetics

詩の本質や構成についての批評理論をいう。「わび」とか「さび」といった東洋の直観的で寡黙な批評態度に比べて、西洋ではアリストテレスの『詩学』(前4世紀)以来、つねに分析的・論理的態度をとってきた。プラトンが『共和国』で詩を単なる模倣にすぎないとして倫理的に低いものと攻撃したのに対して、アリストテレスは悲劇を例にとって、それは一つの「完結した人間的行為の模倣」であり、また「憐憫(れんびん)と恐怖を引き起こして、観客の感情を浄化する」のに役だつと、心理主義的な詩論を展開した。彼以降は、ホラティウスの『詩論』(前1世紀)がボアローの『詩法』(1674)に影響を与えて、フランス古典主義の基礎をつくった。19世紀にはドイツのロマン主義の詩論家A・W・シュレーゲルやヘーゲルが、古典主義の模倣説を否定して詩的想像力の自律性と認識的能力を力説し、イギリスのコールリッジの『文学的自伝』(1817)に受け継がれた。19世紀後半には、アメリカのポーが『詩の原理』(1849)において叙事詩教訓詩などを否定して純粋詩論を唱導し、フランスのボードレールマラルメ、バレリーらの象徴派詩人に大きな感化を与えた。

 日本では萩原朔太郎(はぎわらさくたろう)の『詩の原理』(1928)がポーの純粋詩論を受け継いでおり、また西脇(にしわき)順三郎の『超現実主義詩論』(1929)も、ポーとボードレールのイロニー説を踏まえた画期的な詩論であり、晩年には『詩学』(1968)を書いている。

[新倉俊一]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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