重力波(読み)ジュウリョクハ

デジタル大辞泉 「重力波」の意味・読み・例文・類語

じゅうりょく‐は〔ヂユウリヨク‐〕【重力波】

重力場の変化によって生じ、光速で伝わる波動アインシュタイン一般相対性理論の重力場についての方程式から予測。1974年、連星パルサー公転周期の変化からその存在が間接的に確認された。直接的な検出には長らく成功していなかったが、2016年2月、米国の重力波望遠鏡LIGOにより、連星ブラックホールの合体に由来する重力波の直接観測に成功したと発表された。
流体の表面の上下動に対して、復元力として重力が作用するために起こる波。

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共同通信ニュース用語解説 「重力波」の解説

重力波

物体が動くと周囲の空間がゆがみ、波のように宇宙に広がっていく現象。「時空のさざ波」とも呼ばれる。アインシュタインが1916年に存在を予言した。重い天体が動くと大きな重力波が出て地球にも到達するが、空間のゆがみがごくわずかなため長く検出できなかった。2015年に重力波望遠鏡「LIGO」のチームが二つのブラックホールが合体して出た重力波を初めて観測し、今年のノーベル物理学賞に決まった。(共同)

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精選版 日本国語大辞典 「重力波」の意味・読み・例文・類語

じゅうりょく‐はヂュウリョク‥【重力波】

  1. 〘 名詞 〙
  2. ( [英語] gravity wave の訳語 ) 水波の一種。波長が水深に比べて非常に小さい波(表面波)の中で、重力の影響が強い波をいう。
  3. ( [英語] gravitational wave の訳語 ) 重力場の変化によって生ずる波で、その伝播速度は光速度に等しい。天体の爆発などによって発生すると考えられる。一九一六年アインシュタインの一般相対性理論によって予測された。万有引力波。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「重力波」の意味・わかりやすい解説

重力波
じゅうりょくは

一般相対性理論に基づく重力理論によると、重力場の変動は光速で伝播(でんぱ)し、エネルギーがそれに伴って輸送されることになる。この重力変動の伝播を重力波という。重力波は物質の運動状態を激しく変化させる際につねに発生するが、その発生率は非常に小さく、強力な重力波が実際に発生するのは天体の爆発などの場合である。星の進化の終末におけるブラック・ホール形成時などに発生する、キロヘルツ程度の振動数をもつ重力波を地上で観測するための検出器が開発されている。また、重力波の直接測定ではないが、パルサーを含む近接二重星の公転周期が短くなる現象が観測されており、これは重力波放出に伴う効果であると解釈されている。

 重力波検出器の原理は、重力波が通過するときにおこる微小な振幅の振動をレーザーの技術を用いて測定することにあり、アメリカにはマイケルソン干渉計で測る4キロメートルにもわたるL字形の大きな装置LIGO(ライゴ)(Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory)があり、2002年から観測を始め、2015年に重力波の検出に成功している。日本でも雑音を抑えるためにレーザーの反射鏡を低温にしたKAGRA(カグラ)がつくられた。

佐藤文隆

『アーサー・クライン著、竹内均訳『新しい重力理論――ニュートンから重力波まで』(1973・講談社)』『ヨゼフ・ウェーバー著、藤田純一訳『一般相対論と重力波』(1974・講談社)』『P・C・W・デイヴィス著、松田卓也訳『重力波のなぞ』(1981・岩波書店)』『坪野公夫著『時空のさざ波――重力波を求めて』(1986・丸善)』『藤本真克著『重力波天文学への招待』(1994・日本放送出版協会)』『日本物理学会編『ニュートリノと重力波――実験室と宇宙を結ぶ新しいメディア』(1997・裳華房)』『中村卓史著『最後の3分間――重力波がとらえる星の運命』(1997・岩波書店)』『中村卓史・三尾典克・大橋正健編著『重力波をとらえる――存在の証明から検出へ』(1998・京都大学学術出版会)』


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改訂新版 世界大百科事典 「重力波」の意味・わかりやすい解説

重力波 (じゅうりょくは)

(1)gravitational wave 静止している物質分布が重力場を作るようすは,静止している電荷分布や磁石が,そのまわりに電場や磁場を作るようすに似ている。もしも電荷や電流が振動すると,振動する電場や磁場が空間を伝搬する。これが電磁波である。同様に,物質分布が振動すると,振動する重力場が波動として伝搬すると期待される。実際,アインシュタインの重力場の方程式の解の中には,真空中を光速度cで伝わる波動の解が存在する。これが重力波であり,一般相対性理論の重要な帰結の一つである。重力は時空のまがり方で表されるのであるから,重力波は,時空のひずみが伝搬するものといってよい。この理論によれば,物質を振動させれば(直線上,あるいは球対称でない限り),必ず重力波が発生しているはずである。しかし,その発生するエネルギーはきわめて小さい。ここに電磁波と重力波の大きな違いがある。すなわち,電磁波が発生するエネルギーは電荷によって決まるが,重力波の場合これに相当するのは,万有引力定数Gに,関与する質量の2乗をかけた量となる。その値は,通常の物体の質量の場合,電荷に比べて何十桁も小さく,したがって観測にかかる効果を生ずるには至らない。問題となり得るのは天体規模の現象である。例えば星の重力崩壊など,爆発的な過程に際して,エネルギーが重力波として放出されるであろう。またパルサーのように,高速度で回転する天体は,回転の振動の2倍の振動数の重力波を出していると期待される。最近の発見によると,連星系をなすパルサー(PRS1913+16)の公転周期が減少していることが観測され,これが重力波放出によるエネルギーの減少の結果とする理論的計算とよく一致している。重力波の存在を示す初めての事実であろう。

 電荷をもつ物体に電磁波が入射すると振動電流が生ずる。これが電磁波の受信であるが,重力波も,物質分布に振動を生じさせる。しかしその強さは,やはりGと質量の2乗の積に比例するので,発生する振動の振幅はきわめて小さい。現在試みられている重力波受信装置は,数百kgから数t程度の金属の棒,あるいは板に生ずる微小な長さの変化を観測しようとするものが主である。先に述べたような天体現象によって生ずる重力波を受信するには,振幅が10⁻13cm程度の振動を感知しなければならず,非常に精度の高い測定を必要とする。金属体の一部にとりつけたコイルやコンデンサーを通じて振動を検知するが,重力波以外のさまざまな原因による振動を遮へいするために入念な設計が要求される。とくに物体内の熱振動の影響をとり除くことがもっとも重要であり,そのために,装置全体を絶対零度近くまで冷却する技術が開発されつつある。数年以内には,宇宙からの重力波をつかまえることができるものと期待されている。
相対性理論
執筆者:(2)gravity wave 重力を復元力とする波をいう。例えば,海の風波では,その波長が約2cm以下の場合には表面張力も復元力として作用するが,それ以上の場合には重力だけが復元力として働く。密度の鉛直こう配の大きい海や大気で起こる内部波にも重力を復元力とするものがある。
波浪
執筆者:

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知恵蔵 「重力波」の解説

重力波

質量を持つ物体が運動することで、重力によって周りの時空(時間と空間)がゆがみ、波として光速で宇宙空間に伝播する現象のこと。「時空のさざ波」とも呼ばれる。ユダヤ人理論物理学者アルベルト・アインシュタインが、1916年に発表した一般相対性理論の論文の中でその存在を予言。79年には米国の宇宙物理学者ジョゼフ・テイラーとラッセル・ハルスが、連星中性子星の観測から重力波の存在を間接的に証明した。テイラーとハルスはこの成果により93年にノーベル賞を受賞した。
理論的には、質量を持つあらゆる物体は周りの時空をゆがめるが、極めて微弱である。直接観測の対象となってきた、ブラックホールや中性子星など非常に重い天体同士の合体や超新星爆発などによって生じる重力波でさえ、地球と太陽との距離(約1億5000万キロメートル)がわずか水素原子1個分変化する程度の効果しかない。一般相対性理論の予言から100年近くも直接観測されなかったことから、「アインシュタインからの最後の宿題」と呼ばれ、世界中で物理学者らが初観測を目指してきた。観測されれば、一般相対性理論の正しさを改めて裏付けると共に、光や電波では観測できない天体現象を解明する新たな重力波天文学につながるとされる。特に宇宙の誕生時に発生した重力波は原始重力波と呼ばれ、観測されれば宇宙が爆発的な膨張によって誕生したとされるインフレーション理論の根拠になると考えられている。
16年2月12日、マサチューセッツ工科大学カリフォルニア工科大学など米国を中心とした15カ国1000人以上の国際研究チーム「LIGO(ライゴ)」は、宇宙から届いた重力波を直接観測することに成功したと発表した。LIGOは、1辺が4キロメートルの管をL字型に配置した重力波検出装置を使い、2方向に同時に放ったレーザー光を4キロメートル先の鏡で反射させ、受信した反射光のずれから時空のゆがみを検出した。
日本では、15年にノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章・東京大宇宙線研究所所長らが、大型低温重力波望遠鏡「KAGRA(かぐら)」(岐阜県飛騨市)を用いて重力波の世界初直接観察を目指していた。観測された重力波の由来を知るには、複数の場所で観測する必要があり、KAGRAを含めた世界各地の施設が協力して観測を目指す。KAGRAはLIGOと異なり地下に建設されており、地震などの影響を100分の1以下に減らし、更に鏡を極低温にして分子レベルの振動を抑える工夫がなされている。
17年10月3日、LIGOを率いて重力波の初観測に貢献した米マサチューセッツ工科大名誉教授のレイナー・ワイス、米カリフォルニア工科大名誉教授のバリー・バリッシュ、同大名誉教授のキップ・ソーンの3氏にノーベル物理学賞が贈られることが発表された。

(葛西奈津子 フリーランスライター/2016年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「重力波」の意味・わかりやすい解説

重力波
じゅうりょくは

(1) gravitational wave 1916年にアルバートアインシュタインアインシュタイン方程式から導き出した,変動する重力場が光と同じ速さで波として伝わる現象(→一般相対性理論)。巨大質量の天体の重力崩壊や,中性子星ブラックホールなどの高密度天体の衝突などの際に生じる。実験的には長らく観測できず,間接的には,ジョゼフ・H.テーラーやラッセル・A.ハルスらにより連星パルサー(→パルサー)の軌道周期の短縮から確認されていた。重力波は進行方向に垂直な 2方向に空間の伸縮を生じるので,重力波の振動数に等しい固有振動数をもつ振動系は共振(→共鳴)するという予測から,このような振動系をアンテナとして重力波を捕捉する実験が世界各地の研究所で試みられた。2016年2月,アメリカ合衆国のレーザー干渉計重力波天文台 LIGO(ライゴ)の研究グループらが,10億光年以上の距離から二つのブラックホールの合体によって発せられた重力波の直接的な観測に成功したと発表した。LIGOの装置は L型に置かれた二つのアームからなり,一つのレーザー光が二つに分けられ,各アームに入れられる。重力波が LIGOを通過すると,光が二つのアーム内を往復する距離に差が生じて位相がずれ,二つの光を再度合わせたときの干渉に変化が現れる。(2) gravity wave 水などの液体の表面の乱れに対して,重力復元力として働くために起こる波長の長い波である。ほかに表面張力が復元力となって起こる表面張力波(さざ波)がある。(→水波

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百科事典マイペディア 「重力波」の意味・わかりやすい解説

重力波【じゅうりょくは】

(1)アインシュタインの一般相対性理論において重力場の方程式から導き出される波動。伝搬速度は光速度。重力場の量子(グラビトン,重力子)の存在と密接に関連する。重力波は宇宙的な現象で発生するが,きわめて微弱なので,非常に精度の高い測定を要する。重力波はまだ検出されていない。(2)水面波とも。水面の波のうち,おもに重力の作用でできるもの。海や湖で見る波は普通これである。波長は約1.7cm(正確には(式1),ここでγは液体の表面張力,ρは密度,gは重力加速度)より大きく(それより小さいものは表面張力波),波の速度は水深に比べて波長が小さい場合はだいたい(式2)で表される(λは波の波長)。
→関連項目ハルス表面波

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知恵蔵mini 「重力波」の解説

重力波

質量を持つ物体によって時空にできたゆがみが波となり、宇宙空間に光の速さで伝わる現象。1916年、理論物理学者のアルベルト・アインシュタインが自身の一般相対性理論に基づいて予測した。代表的な発生源に、連星系をなす中性子星やブラックホールの合体、超新星爆発などがある。欧米を中心に重力波検出装置による観測が行われており、74年に連星パルサーの公転周期の観測から間接的に存在が確認された。その後、2016年に米国にあるLIGO重力波観測所の国際研究チームが、史上初となる直接観測に成功したと発表。日本でも大型低温重力波望遠鏡「KAGRA(かぐら)」が重力波の直接検出を目指している。

(2016-2-13)

出典 朝日新聞出版知恵蔵miniについて 情報

海の事典 「重力波」の解説

重力波(水の)

重力を復元力とする水面を伝わる波をいう。周期が短くなり、0.1秒程度になると表面張力の効果が無視できなくなり、逆に長くなって慣性周期を越すと地球 の自転の効果、コリオリの力が無視できなくなる。重力波の性質は、波長と水深の比により深水波・浅水波・中間波に分けられる。有限振幅の非線型波はアーセ ル数Uにより分類でき、U≫1でストークス波、U≒1でクノイド波・孤立波、U≪1では周期的な波は無く段波(ボアー)だけが波形を変えない波となる。 (永田)

出典 (財)日本水路協会 海洋情報研究センター海の事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の重力波の言及

【場】より

…そして,マクスウェルの電磁波に対応して,真空中を光速cで伝播する波動の存在が導かれる。これが重力波である。重力の作用もこの重力場を通じて有限の時間をかけて伝達されるのである。…

※「重力波」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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