軍陣に際して使用する笠。すでに〈軍防令(ぐんぼうりよう)〉に兵士の所用としての藺帽(いがさ)の名が見え,《源平盛衰記》には鞆絵(ともえ)の武装に白打出(しらうちで)の笠を加えており,室町時代にもしばしば軍陣に唐人笠を用いたことが認められるが,もっぱら陣笠の名称で呼ばれたのは16世紀のころに雑兵(ぞうひよう)たちに使用された鉄製の笠のことである。これは錆地(さびじ)または漆塗りで,御貸具足に付属するため正面に合印(あいじるし)をえがき,後ろに日よけの布をたらすのを常とした。江戸時代には百重張(ももえばり)といって紙製で,正面を吹きそらせて漆塗りとしたのを陣笠と呼んで,士分の非常の際のかぶり物とした。とくに表を白たたき塗りとして裏全部に金箔(きんぱく)をはったものを裏金の陣笠といって,火災のときに将軍に報知する近侍の料とした。しかし1863年(文久3)からは不穏な世相に対応して,一般武士の往来にもそれまでのスゲ(菅)製の一文字笠を廃して陣笠を用いるようになり,大名以下諸大夫までは白塗りの裏金で,布衣(ほい)までは黒塗りの裏金,御目見までは藍(あい)色の裏金,御目見以下陪臣は表裏ともに黒塗りまたは錆色塗りと規定された。なお,陣笠が雑兵用であったことから,こんにち政党などで幹部外の人を〈陣笠連〉などと呼ぶことがある。
→笠
執筆者:鈴木 敬三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
戦陣所用の笠の称である。中世には上級の武将が綾藺笠(あやいがさ)や打出しの笠を戦時に用いた例が、『後三年合戦絵巻』や『前九年合戦絵巻』『源平盛衰記』などにみえる。戦国時代の文献には、足軽に革笠をつけさせたとある。一般には、戦国時代ごろから足軽、雑兵(ぞうひょう)の用いた端に反りのない革製あるいは金属製で、兜(かぶと)の代用としての簡略な防具である塗り笠をさす。これは簡便、安価な雑兵用の具足(ぐそく)と組み合わされて多量に用いられたものと思われる。黒塗りや朱塗りが多く、正面に定紋や合印(あいじるし)などを描き、所属の集団の標識ともした。また幕末に農兵隊などに広く着用された韮山(にらやま)笠なども一種の陣笠である。別に、近世、上級の武士の軍役、出火などの非常用や通常の遠行などの外出用としての大ぶりで、一文字笠風で端に反りのある塗り笠をも称した。これは筋金(すじがね)や八幡(はちまん)座などをつけたりするものもあり、裏を金銀の箔(はく)押し、たたき塗り、朱塗りなどとし、正面に定紋を描いた上等の笠である。
[齋藤愼一]
…材料から藺笠,菅笠,竹笠,檜(ひ)笠,藤笠などと呼ばれ,製作上からは編笠,縫笠,組笠,網代(あじろ)笠,塗笠,張笠,綾藺笠などがあった。形の上から平笠,尖(とがり)笠,褄折(つまおり)笠,桔梗(ききよう)笠などがあり,用途上から雨笠,陽笠,祭りや踊りに用いる花笠,戦陣で下級武士のかぶった陣笠や騎射に用いた騎射笠などと呼ばれるものがあった。着用者別には市女笠,三度飛脚の三度笠,六部笠,女笠など,また,韮山(にらやま)代官江川太郎左衛門がつくったといわれる韮山笠や加賀笠のように地名を冠したもの,吉弥笠など人名にちなむものもあった(図)。…
※「陣笠」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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