長崎県長崎半島の西方にあった海底炭田。現在の長崎市に位置する。口碑によれば、元禄(げんろく)~宝永(ほうえい)年間(1688~1711)平戸(ひらど)の領民五平太(ごへいた)が野焼きの際に石炭を発見、たぬき掘りで採炭がされたと伝えられる。1868年(明治1)佐賀(さが)藩とトーマス・グラバーThomas Blake Glover(1838―1911)の共同経営によって北渓井坑(ほくけいせいこう)(深さ45メートル)が掘られ、日本最初の洋式採炭が行われた。1874年官有、さらに後藤象二郎(ごとうしょうじろう)に払い下げられ、1881年政商岩崎弥太郎(やたろう)に譲渡された。このころ「納屋(なや)制度(飯場(はんば)制度)」によって、経営者は坑夫を人身的隷属関係において支配し、納屋頭(がしら)の坑夫への私的制裁は惨状を極めた。坑夫もまた暴動を起こして抵抗が繰り返された。1893年、岩崎は三菱財閥(みつびしざいばつ)の萌芽(ほうが)をなす三菱合資会社を設立、高島炭鉱を経営、1899年蠣瀬(かきせ)立坑(深さ168メートル)を完成。1906年(明治39)ガス爆発によって死者307人の犠牲者を出したが、1907年には二子(ふたご)斜坑、1965年(昭和40)には二子立坑(深さ966メートル)を完成、年とともに海底深くに坑道を開き、日本有数の海底炭田となった。1966年の最盛期には出炭量154万トン、従業員3000人に達したが、その後の生産縮小によって、1978年には出炭量72万トン、従業員1070人となった。炭質は高カロリーの弱粘結炭で、出炭量の80%は原料炭としてガス・コークス用に北九州・大阪方面の鉄鋼業界へ、20%は一般炭として火力発電所用に供給された。
石炭の斜陽化によって、全国的に炭坑の閉山が相次ぎ、1974年、高島炭鉱に属する端島(はしま)炭坑、中ノ島炭坑が閉山し、さらに二子炭坑も1986年閉山、池島炭坑のみがただ一つの海底炭田として採炭を続けていたが2001年(平成13)に閉山した。
[石井泰義]
2015年(平成27)、ユネスコ(国連教育科学文化機関)により「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の一つとして世界遺産の文化遺産に登録された。
[編集部]
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日本最初の洋式炭鉱。高島は長崎港外の小島。伝承では宝永年間(1704~11)に石炭を発見。1868年(明治元)佐賀藩・グラバー商会の合弁企業が成立,69年蒸気機械を導入して石炭採掘を開始した。74年鉱業本国人主義の立場から官営化,後藤象二郎への払下げをへて,81年三菱が買収,優良炭産出で発展。第2次大戦後はおもにコークス用として利用され,1986年(昭和61)11月閉山。三菱買収後の累計出炭は3984万トン,最大は1965年度の127万トン。
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…明治維新後,石炭の需要急増とともに設備も近代化され,筑豊炭田は全国の石炭生産高の半分以上を占めるほどになった。 長崎港外の高島炭鉱は,宝永年間(1704‐11)に五平太というものが採掘に従ったのがそもそもの始まりと伝えられ,九州地方で石炭を〈五平太〉と称するのはこれに由来する。佐賀藩主鍋島直正がイギリス人T.B.グラバーとの共同経営によって本格的な開発に着手し,1869年出炭を開始したが,劣悪な労働条件に抗して,いわゆる〈高島炭鉱問題〉をはじめとする坑夫の暴動がたびたび起こった。…
…とくに炭鉱開発の科学的設計,蒸気力利用の排水機,巻上機の設置によって大規模炭鉱の開発が可能になった。炭鉱の近代化は幕末・維新期の佐賀藩とイギリス人T.B.グラバーとの共同経営下の高島炭鉱に始まり,ついで1870年代後半から官営三池炭鉱で推進され,80年代後半の企業勃興期からは筑豊炭田をはじめとして広範に展開され,90年代末には日本において近代的炭鉱業が確立した。採炭過程は依然として手労働に依存しており,鉱夫管理のために納屋制度,飯場制度などの間接管理体制が広く採用されていた。…
…埋蔵量は約6億t。【大橋 脩作】
[高島炭鉱]
長崎県西彼杵(そのぎ)郡高島町に所在する炭鉱。高島の石炭は元禄年間(1688‐1704)から採掘されていたとされるが,文化年間(1804‐18)の末年から佐賀本藩の直営になった。…
…炭鉱の島で,1887年に一つの岩礁を半人工島として,ここに坑口を設け,海底炭層から立坑で採炭が始められた。90年には三菱の経営となり,高島の二子鉱とともに高島炭鉱とよばれ,以来原料炭を産出してきた。島の周囲は高いコンクリートの壁で固められ,その中に炭鉱の生産設備と高層住宅,学校などがすべてあり,遠望すると軍艦に似ているところから軍艦島ともよばれた。…
※「高島炭鉱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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