高瀬舟(森鴎外の小説)(読み)たかせぶね

日本大百科全書(ニッポニカ) 「高瀬舟(森鴎外の小説)」の意味・わかりやすい解説

高瀬舟(森鴎外の小説)
たかせぶね

森鴎外(おうがい)の短編小説。1916年(大正5)1月『中央公論』に発表。弟殺しの罪に問われた喜助(きすけ)は、遠島の途次高瀬舟の中で、同心羽田庄兵衛(はねだしょうべえ)に問われるままに、罪を犯した事情を打ち明ける。彼は、自殺を図って苦しんでいる弟ののど剃刀(かみそり)を抜いてやり、その結果弟を死に至らしめたことによって、罪を得たのである。庄兵衛は、喜助がいまの運命をいささかも恨まず、むしろ嬉々(きき)としていることに、深く感動する。欲望に使役されない安心立命境地に対する鴎外の羨望(せんぼう)の情のにじみ出た、歴史小説の傑作である。

磯貝英夫

『『山椒大夫・高瀬舟他四編』(岩波文庫)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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