生体が老化し、全器官・組織に老人性退行性変化が進んで衰弱した状態をいう。各器官・組織の老化は、かならずしも並行しておこるとは限らないが、老衰では生体全体に老化および衰弱が認められる。老衰においては、多くの器官、とくに脳・心臓・肝臓などの物質代謝の盛んな細胞に老化性萎縮(いしゅく)が現れ、細胞内には消耗性色素が沈着し、それぞれの細胞の機能は減退する。また、免疫機能や適応機能が低下する結果、疾病罹患(りかん)率が上昇し、死の確率が高くなる。老衰をもたらす要因については、ホルモン(とくに性ホルモン)の分泌減少、血管壁の老人性硬化、全身の結合組織の変化、脳細胞の萎縮・脱髄(だつずい)(髄鞘(ずいしょう)が種々の原因により変性脱落する現象)、シナプス結合の変化などによる脳の機能低下、免疫監視機能の低下など、老化との関連が指摘されているが、これらの老人性変化と老衰との因果関係はまだ確定されていない。
老化は成育、成熟に続く生物現象の一つであり、かならずしも老衰を意味しない。老衰は前述のように種々のレベルの機能破壊による衰弱であるため、もしその機能破壊を防ぐことができるならば、衰弱を伴わない老化が可能であると考えられている。近年盛んになってきた老年医学(老年病学)の一つの目標がこれである。老衰もしくはそれに至る老化の過程においては、生体の多くの器官・組織に形態学的、生化学的、生理学的な変化がおこる。これらの変化とそれを引き起こす要因は、分子レベル、細胞レベル、組織・臓器レベル、個体レベルなどに分けて研究が進められている。
[川上正澄]
高齢により全身各所の機能が衰えることをいい,これによる死を老衰死または自然死という。言動に老化現象がみられ,しだいに衰弱して死亡した高齢者の死体を解剖しても,すべての臓器や組織が機能しない程度に老化しているわけではない(したがって老衰死でない)。ところが,実際には明確な傷病名をもって診断を下し難い高齢者の死因が老衰とされていることが少なくない。近年診断学の進歩とともに老衰という診断名はかなり減少したが,死因統計をみると50歳代でも老衰と診断されていることがあり,この診断のあいまいさがうかがえる。実験では,動物を無菌的に飼育すると寿命が倍ぐらいに延び,そのときの動物は全身すべてが消耗しているという。この実験からすると,人間も200歳ぐらいまで生存しないかぎり,真の意味の老衰はみられないように思われる。
執筆者:若杉 長英
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