翻訳|diaphragm
哺乳類のからだの体腔を前半の胸腔と後半の腹腔とに隔てる筋肉性の厚い膜で,呼吸運動に関与する。原始的な魚類を除く脊椎動物では,体腔の前部に位置する心臓はその後ろに生じた隔壁によって体腔の主部から隔離されている。この隔壁を一般に横中隔といい,これによって隔てられた,心臓をいれた空間を囲心腔という。両生類・爬虫類では肺の発達と関連して,胸囲心膜と呼ばれる新しい隔壁が横中隔の一部から発達し,囲心腔と腹腔とを境するようになる。このような隔壁の全体が斜中隔と呼ばれ,鳥類もほぼ同様の構造をもっている。哺乳類では,肺の直後でこの斜中隔の一部からさらに胸腹膜が背方へ伸びだし,それに体壁や腸間膜からの張出しが加わって互いに癒合する。こうして1枚の横隔膜が形成される。その大部分は新しく現れた構造であるから,横隔膜があることは哺乳類の解剖学的特色の一つとなっている。
執筆者:田隅 本生
横紋筋を主体にし,中央部に腱膜状の部分(腱中心という)がある。横隔膜は前方からみると上方(胸腔側)に凸のドーム状で,このドームは右側にあるやや大きい山と,左側の小さい山とから成り,その中間部はへこんでいる。左右のドームの上には,胸膜(肋膜)を隔ててそれぞれ左右の肺があり,中央のへこんだ部分の上には,心膜に包まれた心臓がある。横隔膜の下面は,腹膜を隔てて右方2/3に肝臓が接し,左方1/3は胃底と脾臓に接する。横隔膜を側方からみても同じく上方に凸のドーム状で,その前縁(腹側)よりも後縁(背側)のほうが下方まで達していて深い。したがって横隔膜の上面に接する胸膜腔も背側のほうが深いから,胸膜炎などで背側からさきに浸出液がたまる。横隔膜を作っている筋束は,胸郭下口,すなわち下位肋骨,胸骨下端,第1ないし第3腰椎の前面から起こり,横隔膜中央部の腱中心に付着している。
横隔膜が収縮すると,上方に凸のドームが扁平になり,その分だけ胸腔が広がり,胸膜腔内の陰圧が増し,息を吸いこむ(吸気)。また横隔膜が弛緩すると,ドームは再び上方に向けて高まり,胸腔が縮小して息をはき出す(呼気)。われわれが日常行っている呼吸運動には,このような横隔膜の上下運動による横隔膜呼吸(腹式呼吸ともいう)と,肋骨の上下運動による肋骨呼吸(胸式呼吸)とがある。日常はこの二つの呼吸様式を合併して行っている。横隔膜を収縮させて息を吸いこむとき,腹腔では胸腔と反対に容積が縮小するので,その分だけ腹圧が増し,腹壁を前方へ押し出す。そのため横隔膜の上下運動に伴って腹壁が膨らんだり,へこんだりする。横隔膜呼吸のことを一名腹式呼吸というのはこのためである。横隔膜には,このように呼吸筋としての働きのほかに,腹圧を加える働きがある。排尿・排便など日常生活で腹圧を必要とする機会は多い。いわゆる〈いきみ〉など腹圧を加えるときには,息を吸いこんだ状態で行うのは,上述の理由から明らかであろう。横隔膜には,胸腔から腹腔へ通ずる食道,下行大動脈,下大静脈などが貫くための三つの穴がある。横隔膜は横隔神経の支配を受ける。この神経は第4頸神経の枝で,心臓と肺の間を下行して横隔膜に達する。
→呼吸
執筆者:河西 達夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ヒトの横隔膜は胸腔(きょうくう)と腹腔(ふくくう)との境となっている、筋と腱(けん)とで構成されている板状の中隔である。全体として円屋根形で、凸面は胸腔の床にあたる。横隔膜の周辺部は筋線維からなり、胸郭(きょうかく)の下口を形成する腰椎(ようつい)、肋骨(ろっこつ)、胸骨からおこり、円蓋(えんがい)を形成して胸腔に向かって盛り上がり、中央部の腱膜(腱中心という)に集まって、これに付着する。筋線維がおこる骨部に相当して、筋線維は腰椎部、肋骨部、胸骨部に区分される。横隔膜の上面は胸内筋膜と胸膜、下面は横隔膜筋膜と腹膜に覆われるが、腹部臓器が接する部分には腹膜はない。横隔膜の円屋根形は右側隆起が左側よりやや高いが、横隔膜の高さは死体と生体では異なるし、呼吸運動や肝臓の大きさ、胃、腸の膨れぐあいでも変化する。死体で筋の弛緩(しかん)した状態での横隔膜の右側頂点は、ほぼ第4肋軟骨の高さで、これは、強制的な呼気を行わせたときの腹側からみた高さと同じである。横隔膜の位置は、女性では男性よりも高く、若い人は高年者よりも高い。また、深呼吸時における高さの移動範囲は約30ミリメートルという。横隔膜には、胸腔と腹腔との間を通る器官のための三つの孔(あな)がある。大動脈裂孔は最下後方にあり、食道裂孔は大動脈裂孔の前上方で筋線維部にあり、大静脈裂孔はもっとも上部にある。そのほか、神経や脈管を通すいくつかの小孔もある。
横隔膜を支配する神経は横隔神経で、第4頸(けい)神経線維が主となり、第3、第5頸神経からの線維も含まれる。横隔神経が切断されると、横隔膜の筋線維が弛緩し、それまで収縮緊張して下がっていた横隔膜は、胸腔に向かって上がる。横隔膜の周囲の臓器関係は、胸腔面には腱中心の上方に心臓、左右に肺が位置し、腹腔面では肝臓、胃、脾臓(ひぞう)、腎臓(じんぞう)、副腎が接している。
[嶋井和世]
哺乳(ほにゅう)類の体腔(たいこう)を、肺や心臓を含む胸腔と、肝臓、胃、腸などを含む腹腔とに区分する膜状の呼吸補助筋肉をいう。横隔膜が収縮すると、胸腔が広がって内部が陰圧となり、外気が肺に入る。そのほか排便や嘔吐(おうと)時に腹圧をあげる作用もある。横隔膜の形成は腹側の腹側隔膜と背側の背側隔膜の癒合による。爬虫(はちゅう)類や鳥類においても横隔膜はあるが、完全には胸腔と腹腔を境しない。両生類においてはその原型がみられる。
[内堀雅行]
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…鋼鉄製スプリングの環に半球状のゴム膜を張った避妊器具。腟内に挿入し,射精された精子が子宮内にはいるのを防ぐことで避妊を実現する。オランダで考案されたためダッチペッサリーが正称。男性の協力を必要としないため,欧米では避妊を推進した婦人運動家により推奨されて普及した。第2次大戦後日本でも避妊法の一つとして指導されたが,あまり普及せず製造会社もなくなった。
[使用法と短所・長所]
直径が60~80mmとさまざまなサイズがあり,産婦人科医,助産婦などに診察を受けサイズを測ってもらい,自分に適したものを選ぶ必要がある。…
※「横隔膜」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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