精選版 日本国語大辞典 「な」の意味・読み・例文・類語

[1] 〘格助〙 体言を受け、その体言が下の体言の修飾にたつことを示す上代語。同様の連体格助詞に「の」「が」「つ」があるが、「な」はきわめて用法が狭く、上代すでに固定し、語構成要素化していた。
古事記(712)上「奴(ナ)登母母由良爾、〈此の八字は音を以ゐよ。下は此れに効へ〉天の真名井に振り滌(すす)ぎて」
※俳諧・犬子集(1633)八「色々に袋の数やそめつらむ はたけ芥子の花ぞ咲ける〈貞徳〉」
[2] 〘間投助〙
① 文末にあって体言、活用語の終止形、助詞などを受けて、詠嘆の意を表わす。
※古事記(712)中・歌謡「赤ら嬢子(をとめ)を 誘(いざ)ささば よらし(ナ)
※古今(905‐914)春下・一一三「花の色はうつりにけりいたづらに我が身世にふるながめせしまに〈小野小町〉」
② 文節末にあって調子を整えたり、軽く詠嘆の意を添えたりする。
※古事記(712)中・歌謡「うべ(ナ)うべ(ナ) 君待ちがたに 我が着(け)せる 襲(おすひ)の裾に 月立たなむよ」
徒然草(1331頃)一〇六「四部の弟子はよ、比丘よりは比丘尼は劣り」
[3] 〘終助〙
[一] 動詞・助動詞未然形を受けて希望の意を表わす上代語。
(イ) 自己の行動に関しての希望や、その実現の意志を表わす。
※古事記(712)中・歌謡「鳰鳥の 淡海(あふみ)の海に 潜(かづ)きせ(ナ)わ」
(ロ) 他者の行動の実現を希望する。
※続日本紀‐天平一五年(743)五月五日・宣命「教へ賜ひ趣(おもぶ)け賜ひながら受け賜はり持ちて、忘れず失はず有るべき表(しるし)として一二人を治め賜波奈止那毛(はナとなも)
[二] 文末にあって動詞・助動詞の終止形(ラ変は連体形)を受け、禁止の意を表わす。
※書紀(720)武烈即位前・歌謡「水(みな)そそく 鮪(しび)の若子を 漁(あさ)り出(づ)(ナ)猪の子」
※竹取(9C末‐10C初)「龍の首の玉取り得ずは帰り来
[三] 文末にあって動詞型活用の語の連用形を受け、気安い相手に、ある動作を促す意を表わす。
滑稽本浮世風呂(1809‐13)前「おめへは捕人(とった)に成(なん)
[語誌](1)((一)について) 連体格助詞の「な」は、上代において既にかなり固定化し、「まなこ」「たなごころ」「さながら」といった一部の語にその構成要素として見出される程度になっていた。
(2)((二)について) (イ)間投助詞とされる詠嘆の意の「な」は、上代より用例が見られるもので、終助詞「がな」「かな」の「な」と同類かといわれる。上代では、囃しことばに付くような例もあるが、多くは、「空は行かず 足よ行く(ナ)」(空を飛んでは行かず、足で歩いて行くことよ)〔古事記‐中・歌謡〕のような独白的な用法である。(ロ)中古以降では、対他的な用法の例が多くなる。こうした詠嘆の間投助詞「な」は、室町時代になると、「の」「なふ」(キリシタン資料では開長音nǒ)のような転訛形が併せ用いられるようになり、近世には、「なふ」はオ段長音の「のう」の形でうけつがれ、新たに「な」の長音形「なあ」、そして「ね」「ねえ」も加わって、現代語にまでつながる多様な間投助詞群を形成することになる。
(3)((三)について) (イ)終助詞とされる「な」には、希望の意のものと禁止の意のものとがあるが、このうち、希望の「な」は、上代特有のものである。意味の面では、助動詞「む」とかなり接近したもので、この点は、例えば「万葉‐三六四三」に、「沖辺より船人のぼる呼び寄せていざ告げ遣らむ旅の宿りを あるは云はく、旅の宿りをいざ告げ遣ら(ナ)」とあって、「告げ遣らむ」の形に対して「告げ遣らな」の形が異伝としてあったといったことでもうかがわれる。(ロ)中古に入ると、「む」にその席を譲って、(一)の希望の「な」は用いられなくなる。一方、(二)の禁止の意の「な」は、今日まで用いられてきた。同じく禁止の言い方である「な…そ」とともに訓点資料には見られず、また、「な」は「な…そ」の形による禁止表現よりも直接的できびしいものといわれる。(ハ)中世以降、禁止表現としては、「な」の方がよく用いられたが、連体形を受けるもの、連用形を受けるものなどが現われる。「金刀比羅本保元‐中」の「相構而(あひかまへて)一所へばし落ちぬる」、「太平記‐六」の「懸入る敵に中を破(わら)」、「童謡・メーデーごっこ〈槇本楠郎〉」の「おそれ みだれ」など。

〘副〙 禁止の意を表わす。次の三つの型がある。→語誌(3)。
① 下に動詞の連用形を伴って用いる。
※万葉(8C後)一一・二六六九「吾(わが)背子が振り放(さ)け見つつ嘆くらむ清き月夜(つくよ)に雲莫(な)たなびき」
② 下に「動詞の連用形+そ」を伴って用いる。→な…そ
③ 下に「動詞の連用形+そね(そよ)」を伴って用いる。
播磨風土記(715頃)賀毛・歌謡「愛(うつく)しき 小目(をめ)の小竹葉に 霰降り 霜降るとも 奈(ナ)枯れそね」
※万葉(8C後)一〇・二〇九七「雁がねの来鳴かむ日まで見つつあらむ此の萩原に雨勿(な)降りそね」
※万葉(8C後)一七・四〇一一「奈(ナ)恋ひそよとそ 夢(いま)に告げつる」
[語誌](1)語源に関しては、ク活用形容詞「なし」の語幹、あるいは打消の助動詞「ず」の未然形に想定される「な」につながる否定の語といわれる。従って右の諸形式にみられる命令的性格は、下にくる動詞の連用形によるものと考えられる。また「な」を「なかれ」との関係において考える説もある。
(2)品詞については副詞とするのが一般であるが、他に係助詞説、副助詞説、助動詞説などがある。
(3)三つの型のうち、①および③は中古には見られなくなり、②の「な…そ」の型と、終助詞による「…な」の形が中古以後に引き継がれる。

(断定の助動詞「なり」「だ」の活用形)
① 「なり」が推量の助動詞「なり」「めり」を伴うときの形。終止形「なり」(一説に、連体形「なる」)の語尾が音便で撥音となり、その「ん」が表記されなかったもの。→ななりなめり
② 「なり」の連体形「なる」の語尾が脱落したもので、中世から近世にかけて、終止法にも連体法にも用いられた。現代語では、「だ」の活用の中で位置づけられ、終止法には用いない。形容動詞語尾としても同様であるが、体言を受ける助動詞の場合は連体法に用いることもまれで、「なのだ」の形で用いることが多い。
※史記抄(1477)一一「そばな者にむけても、はらをたつるか」
※寛永刊本蒙求抄(1529頃)四「あまり細字な注ぢゃほどに」
③ 終止形「なり」が接続助詞「と」に続くときの音便形。「なりとも」「…でも」の意を表わす。
※浄瑠璃・博多小女郎波枕(1718)上「おまへひとりはどうなと成」

(上代の打消の助動詞の未然形) ク語法「なく」をつくり、また、終助詞「な」などに続く場合に用いられる。→なくなな
[語誌](1)打消の助動詞の活用は「ず・ず・ず・ぬ・ね」であるが、これはz系とn系という本来は別の活用体系を合成したものであり、n系も古くは「な・に・ぬ・ね」という完備された活用体系を有していたものと考えられている。
(2)打消のク語法の「く」、上代東国方言の反復継続の語尾「ふ」に接続する「ふ(なう)」などの「な」はこの古い打消の助動詞の未然形であると考えられる。
(3)打消の助動詞は現代語の「ない」のように、ほとんどすべての動詞に接続する文法的機能の高い要素であるにもかかわらず、なぜこれが衰退したのかについてはまだよくわかっていない。

〘接尾〙 おもに時を表わす体言を並列して、それぞれの下に付けて用いる。「朝な朝な」「朝なさな」「朝な夕な」など。
[補注]上代東国方言の「万葉‐三四四七」の「草かげの安努(あの)(ナ)ゆかむと墾(は)りし道安努は行かずて荒草立ちぬ」や「万葉‐三四六一」の「あぜと言へかさ寝にあはなくにま日暮れて宵奈(ナ)は来なに明けぬしだ来る」も、この「な」と関係があるか。ただし、格助詞「に」あたる東国方言とする説もある。

(補助動詞の「なさい」を省略した俗語的表現) 動詞の連用形、または撥音便形を受けてぞんざいな命令を表わす。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)前「ひとりで衣(べべ)を脱(ぬぎ)な」

〘感動〙 =なあ〔感動〕
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)四「ナ、わかりましたか」

(完了の助動詞「ぬ」の未然形) 助動詞「む」「まし」、接続助詞「ば」などに続く。→

〘接尾〙 人を表わす語に付いて、親愛の意を含めるのに用いる。「せな」「いもなろ」など。

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デジタル大辞泉 「な」の意味・読み・例文・類語

な[終助・間助・格助・係助]

[終助]
動詞・動詞型助動詞の終止形、ラ変型活用語の連体形に付く。禁止の意を表す。「油断する」「まだ帰る
「かの尼君などの聞かむに、おどろおどろしく言ふ―」〈・夕顔〉
《補助動詞「なさる」の命令形「なさい」の省略形》動詞・動詞型助動詞の連用形に付く。命令の意を表す。「早く行き」「好きなようにやり
活用語の終止形、助詞に付く。
㋐軽い断定・主張の意を表す。「これは失敗だ
㋑(多く「なさい」「ください」「ちょうだい」などに付いて)命令をやわらげていう意を表す。「これください」「お手伝いしてちょうだい
㋒相手の返答・同意を求めたり、念を押したりする意を表す。「君も行ってくれるだろう」「早めに片付けよう
「こは常陸ひたちの宮ぞかし―、しか侍りと聞こゆ」〈・蓬生〉
㋓感動・詠嘆の意を表す。「この暑さにはまいった」「楽しい
「花の色はうつりにけり―いたづらにわが身世にふるながめせしまに」〈古今・春下〉
《上代語》動詞・動詞型助動詞の未然形に付く。
㋐自分の決意・願望を表す。…しよう。…したい。
「帰るさに妹に見せむにわたつみの沖つ白玉ひりひて行か―」〈・三六一四〉
㋑他に対する勧誘・願望の意を表す。…しようよ。
「梅の花今盛りなり思ふどちかざしにして―今盛りなり」〈・八二〇〉
[間助]文末や、文中の種々の切れ目に用いる。語勢を添えて、自分の言葉を相手に納得させようとする気持ちを表す。「あの店は、品物がいいんだ」「彼、来られないんだって」
[格助]
《上代語》名詞に付く。連体修飾格を示す。の。
「ま―かひに、もとなかかりて」〈・八〇二〉
《格助詞「に」の音変化。上代東国方言》時間・場所を表す。に。
「草陰の安努あの(=地名)―行かむとりし道安努は行かずて荒草立ちぬ」〈・三四四七〉
[補説]1は現在「まなこ(眼)」「みなと(港)」などの語にその形をとどめる。
[係助]係助詞「は」が直前の撥音「ん」と融合して音変化したもの。
「また生滅々已しゃうめつめついの心北門―建長寺」〈虎明狂・鐘の音
[補説]能・狂言・平曲などに行われたが、本文表記は「は」のままなのが普通。

な[助動]

[助動]
断定の助動詞「だ」の連体形。

断定の助動詞「なり」の連体形「なる」の音変化「なん」の、撥音の無表記。→ななりなめりならし
《中世語》断定の助動詞「なり」の連体形「なる」の音変化。
連銭れんぜん芦毛あしげ馬ニ金覆輪きんぶくりんノ鞍ヲ置イテ」〈天草本平家・二〉
完了の助動詞「ぬ」の未然形。→ななむなむなまし
打消しの助動詞「ず」の未然形の古形。→なくなくになな

な[副]

[副]
あとに動詞の連用形(カ変・サ変は未然形)を伴って、禁止の意を表す。…するな。
「妹があたりは袖振らむ木の間より出て来る月に雲―たなびき」〈・一〇八五〉
「な…そ」の形で、動詞の連用形(カ変・サ変は未然形)を間にはさんで、相手に懇願しつつ婉曲に禁止する意を表す。どうぞ…してくれるな。
「ほととぎすいたく―鳴きそが声を五月の玉にあへくまでに」〈・一四六五〉

な[接尾]

[接尾]時を表す名詞に付いて、並列するのに用いる。「朝」「朝

な[感]

[感]なあ」に同じ。「、わかっただろう」

な[接尾]

[接尾]《上代語》人を表す名詞に付いて、親愛の意を添える。「せ」「いもろ」

な[五十音]

五十音図ナ行の第1音。歯茎鼻音の有声子音[n]と母音[a]とから成る音節。[na]
平仮名「な」は「奈」の草体から。片仮名「ナ」は「奈」の初2画から。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「な」の意味・わかりやすい解説

五十音図第5行第1段の仮名。平仮名の「な」は「奈」の草体から、片仮名の「ナ」は「奈」の初めの2画からできたものである。万葉仮名では「奈、那、南、難、儺、寧、乃、娜、男(以上音仮名)、七、名、魚、菜、嘗(以上訓仮名)」などが使われた。ほかに草仮名としては「(奈)」「(那)」「(難)」「(南)」などがある。

 音韻的には/na/で、舌先と上歯茎との間を閉じた舌内鼻音の[n]を子音にもつ。中央語では室町時代の末ごろまで連声(れんじょう)が盛んで、これによって生じた「な」もあった(「善悪(ゼンナク)」「恩愛(オンナイ)」「淳和(ジュンナ)」……)。

[上野和昭]

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