別名ツバクロ,ツバクラ,ツバクラメなど。スズメ目ツバメ科の代表種で,好んで人家に営巣するため,非常によく親しまれている。ユーラシア,北アメリカ両大陸の温帯から亜寒帯およびアフリカ北部で繁殖する。一般に渡り鳥で,アフリカ周辺以外のものはそれぞれの大陸の熱帯から南半球にかけて越冬する。日本でも代表的な夏鳥で,九州南部では3月上旬ころ,本州中部では3月下旬~4月上旬,北海道では5月上旬ころ渡来する。種子島から北海道にかけて繁殖するが,北海道では数が少ない。本州中部太平洋側,四国,九州の各地では越冬群も見られる。しかし,これらは日本より北方で繁殖したものが冬鳥として渡来したもので,日本で繁殖したものは南方へ去ると考えられる。繁殖中は市街地や村落で生活し,繁殖が終わると河原,湖沼,水田,海岸などに群れて集まり,また平野部の段丘,海岸崖地,森縁など段差のあるところにもよく飛来する。全長約16cm。上面は青藍色ないし黒色,額とのどは赤栗色,下面は白色。体型は細長くスマートで,尾は長く深く二叉して燕尾をなす。くちばしは短く扁平で,開くと大口になる。脚は小さく弱いが,地面を歩くことはできる。しかし,スズメ目中もっとも空中生活に適応し,旋回能力や機敏性では,アマツバメ(アマツバメ目)を上まわる。アブ,ハエ,カ,トビケラ,ヨコバイ,小甲虫などの昆虫を空中で捕食し,飲水,水浴も飛びながら行う。ツバメ類中,飛行領域はもっとも低く,地面すれすれに飛ぶこともある。繁殖はすべて雌雄で分担し,人工建造物にのみ営巣する。巣は泥と植物片でつくったわん形で,産座には羽毛や細根を敷く。1腹の卵数は平均5~6個,抱卵期間は14~15日,育雛(いくすう)期間は21~23日,巣立ち後も数日は育雛する。通常一夏に2回繁殖する。7~8月河原のアシ原などに数百数千と集結した後,10月下旬までに渡去する。声はチュビッとよくとおり,さえずりは複雑である。種小名のrusticaは〈田舎の〉という意味で,ヨーロッパでイワツバメDelichon urbica(都会のツバメ)が都市部に営巣するのに対し,田園地帯で営巣することによる。
ツバメ科は世界で約80種があり,ツバメ亜科とカワラツバメ亜科に分けられる。後者は東南アジアとアフリカに分布する2種だけからなる。前者は極地とニュージーランド以外の全世界に分布し,熱帯産を除いて長距離の渡りを行う。すべて空中生活に適応し,空中昆虫を捕食する。体型はスマートで,体色は黒色か褐色系が多い。繁殖習性はさまざまなタイプがある。日本には,ツバメのほか,リュウキュウツバメ,コシアカツバメ,ショウドウツバメ,イワツバメが分布している。リュウキュウツバメH.tahiticaはインド,東南アジアから南太平洋のタヒチ島まで分布し,日本では留鳥または夏鳥として沖縄諸島および奄美大島で繁殖している。習性はツバメによく似ているが,市街地には少なく,海岸の崖地に多い。全長約14cm。体色,体型ともツバメに似るが,下面は淡褐色で尾が短い。コンクリート建造物や海岸の洞窟内に営巣。巣はツバメと同形の上部の開いたわん形で,イワツバメほどの集団性はない。声はジュビッとやや濁る。
執筆者:内田 康夫
ツバメは詩歌では同じ渡り鳥のガンと対照的に扱われる。渡りの真実が正しく認識されていなかった時代には,ツバメは常世(とこよ)国から飛来するとか,渡りはせずに樹木の穴や泥の中に潜って越冬するとか考えられた。農民にとっては害虫を捕食する益鳥であり,人家の軒下などに営巣するので,人間の身近な場所で保護されてきた。ツバメを殺すと盲目になったり火難にあったりするという俗信は,こうした保護思想の現れと見られる。さらにはツバメの営巣を家運の勃興する吉兆と見,反対にツバメの渡来の途絶をその家が没落する凶兆と考えた。また,ツバメは夫婦仲のよい鳥とみなされ,毎年雌雄をたがえず飛来すると考えられた。《今昔物語集》には,雄を殺して雌のみ放したところ,翌春1羽で飛来してその貞操を示したという話がある。また,ツバメの子育てのようすは間近に観察できるので,子に対する愛情の深い鳥としても認識された。そこで,雛が落ちないようにその足を髪の毛で巣に結びつけるくふうをしているとか,卵や雛をさらった蛇を親鳥が針を使って仇討したとかいう話が伝えられている。〈雀孝行〉に分類される昔話では,美しく化粧をととのえていて親の臨終に間に合わなかった不孝の報いで,虫や土を食まなければならなくなったと語られ,ツバメの生態がよく観察されている。
執筆者:佐々木 清光
ツバメはガンとともに代表的な渡り鳥の一種であり,一般に仲春に訪れ,仲秋に去った。中国では,春と秋の村祭(春社,秋社)のころにあたるので〈社燕〉とも呼ばれる。ツバメのさえずり(燕語)は美しく,さらに同じ巣にもどる習性があるため,いっそう旧友と再会するようななつかしさを与えた。中国では昔,つめを切ったり,足にひもをつけて,再来を確認したという。ツバメの訪れは快適な春の象徴であり,泥をふくんで夫婦仲よく巣づくりにはげむ姿は〈双燕〉と呼ばれ,天子の訪れのない宮女や夫と離れて暮らす妻,あるいは寡婦の悲しみをそそるものとしてしばしば詠まれる。また中国の画や詩では,ツバメとシダレヤナギとの組合せが見え,動と静の対比を通して優美な感じを与える。ちなみに,古代神話によれば,殷の祖先契(せつ)は,簡狄(かんてき)がツバメの卵を飲んで生んだという。
執筆者:植木 久行
ドイツではツバメは昔から春を告げる鳥で同時に幸運をもたらし,家を守護する鳥だった。最初のツバメが到着する日には歌と歓声で迎える風習があった。ウェストファーレンでは家族全員が門に出て迎え,ツバメたちにおごそかに納屋の戸を開いた。ヘッセンでは最初のツバメの飛来を塔守が見つけ,村の役所が皆に知らせる風習があった。ギリシアのトラキアでは今日でも春を告げるツバメを歌をうたって歓迎する。ロードス島では子どもたちが,木でつくったツバメを円筒の上にまわるようにつけ,ツバメの歌をうたいながらねり歩き,食物を集める春の行事があった。ドイツではツバメは神聖な鳥で,シュワーベンでは〈主の鳥〉,シュレジエンでは〈聖母の鳥〉と呼ばれ,巣をつくる家は祝福され不幸から守られるという。ツバメが高く飛べば晴,低く飛ぶと雨,たえず鳴きながら低く飛ぶと嵐になる。これを傷つけたり殺したりすると家畜に不幸が起こるともされる。
執筆者:谷口 幸男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
広義には鳥綱スズメ目ツバメ科に属する鳥の総称で、狭義にはそのうちのツバメ属をさし、さらに狭義にはそのうちの1種をさす。
ツバメ科Hirundinidaeの鳥は17属74種に分類されるが、アフリカの36種と南アメリカの23種が多い。ツバメ属Hirundoは30種で科のうちの約40%を占めるが、アフリカの23種が圧倒的に多い。南アジアには9種と少ないが、そのうちツバメH. rustica、コシアカツバメH. daurica、リュウキュウツバメH. tahiticaの分布が広い。ツバメは北極圏、南極圏を除く全世界のほとんどの陸地でみられ、コシアカツバメは北アメリカ大陸およびオーストラリア区を除くユーラシア、アフリカ大陸に分布している。リュウキュウツバメは南アジア、ニューギニアおよび太平洋の諸島に分布している。ツバメは、翼の初列風切(かざきり)が長く伸びて飛翔(ひしょう)性に優れ、尾は外側が長くいわゆる燕尾(えんび)状をなし、燕尾服の語源ともなっている。嘴(くちばし)は小さいが扁平(へんぺい)で幅広く、口が大きく開き、空中を飛びながら昆虫類を捕食するのに便利になっている。目が大きく足が小さいことも飛翔生活をする鳥の特徴である。
種のツバメは全長約17センチメートル。頭、背面は光沢ある藍黒(らんこく)色。下面は白く額とのどは赤褐色、胸に細い黒帯がある。日本では夏鳥の代表種とされ、春3、4月に渡来し人家などに営巣する。本来は自然環境の中で営巣したはずであるが、いつのころからか人家に親しみ人にかわいがられて、現在は人為的建造物以外には営巣しないようである。春の渡来は九州などでは2月、本州北部では4月であるが、1970年(昭和45)ごろからすこしずつ早くなり、近畿地方では従来は3月中・下旬とされていた初見が、近年では3月上旬が普通となっている。アジアでの繁殖地はヒマラヤ地方、中国南部地方以北、北極圏近くに至る広大な地域であり、北方で繁殖したものは冬季は北回帰線付近以南に越冬する。営巣は普通年2回で、ときに3回の例もあるが、都会地では餌(えさ)の関係のためか5月に1回きりの所もある。巣立った若鳥は、渡りを行う7、8月から10月までの間、多数が葦原(あしはら)に集結する習性がある。越冬のため南下した個体が日本に冬季も滞留する例があり、浜名湖は滞留地としてよく知られる。そのほか、千葉県、京都府、九州などの各地に例があるが、異常寒波で大量死を招くおそれがあり、救済のため飛行機で暖地に輸送された例が少なくない。
コシアカツバメは全長約18.5センチメートル。西日本には各地に普通の鳥で、4月に夏鳥として渡来し、遅くとも11月に渡去する。巣は2階以上の高層建物に好んでつくるが、ツバメの椀(わん)形に対し横に寝かせたとっくり形であるのでトックリツバメの異名をもつ。
リュウキュウツバメは全長約13センチメートル。その名のとおり琉球(りゅうきゅう)諸島で繁殖するが、分布の北限にあるため日本での個体数は多くない。しかし東南アジア一帯では多数が各地に生息する。飛翔する姿はツバメに似るが胸に黒帯がなく、翼下面の黒色がツバメと異なる。
[坂根 干]
ツバメの渡りは季節感の指標であった。中国ではツバメは春の社日(しゃにち)にきて、秋の社日に去るといい、日本でも、社日の日にはツバメが集まっているという伝えがある浜が新潟県にあった。日本ではツバメは常盤(ときわ)の国を往来するといい、縁起のよい鳥と感じていた。ギリシアには、子供たちが家々を訪れながら歌う、ツバメとともに3月がきたことを喜ぶ歌がある。スウェーデンなど北ヨーロッパでは、ツバメは9月になると水の中に引きこもるという。中国にも、ツバメは水に入ってハマグリになるという伝えがあった。ツバメは水界とかかわり深い鳥と考えられ、竜が好むので、祈祷(きとう)家はツバメを用いて竜を招き、雨を祈ったという。日本で秋田県や福島県に生きたツバメを池などに投じて雨乞(あまご)いをしたのも、同じ信仰であろう。渡りの習性から、異郷(他界)と現世を結ぶ神秘的な鳥とされたもので、アルタイ系諸民族で、ツバメが創世神話の主役を演じているのも、共通の宗教基盤によるものであろう。サハ人やアルタイ人では、ツバメに変身した悪魔またはツバメが、海底の泥をくわえてきて大地をつくったという。ツバメを水に潜る鳥とする伝承である。ブリヤート人では、ツバメが天神から火を盗んできたといい、そのお礼に、人間はツバメが家の中に巣をかけることを喜ぶという。ツバメが天界と地上と水界を結んでいる。日本でもツバメが家に巣をかけると家が繁盛するといって喜び、巣棚を用意する風習さえあった。神奈川県には新築祝いの歌に、ツバメが巣をかけて雛(ひな)をかえしたという詞章を伝えていた村もある。ツバメがお礼に巣の中に貝を残しておくという伝えは、関東や中国地方にあり、その貝は安産の御守りになるという。『竹取物語』にいうツバメの子安貝も、安産の御守りという意味である。子育てを身近にみるツバメに安産の信仰を結び付けたもので、中国でも、ツバメのきたとき、子授けを神に祈り、またツバメの卵を飲むと子供を生むとも伝える。スマトラのバタク人は、子供を授かり、災いを除くようにと、ツバメを放すという。古代ギリシアでも、家の不幸を払うために、家の中でとらえたツバメに油を塗って放す習慣があった。
[小島瓔]
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…自然暦の一指標として鳥は古くからよく利用されてきたが,上層階級が季語,季題に示される花鳥諷詠の文学や,パターン化された月次絵(つきなみえ)などに利用するのとは異なり,農民の場合には実生活上の必要性があった。農民生活と鳥との関係は深く,害虫を捕食するツバメなどの益鳥は,これを捕ると火事になる,盲目になるなどといって積極的に保護が加えられた。一方,スズメやガン・カモ類は田畑を荒らす害鳥としての側面が大きかったので,小正月の〈鳥追〉では憎み嫌われる鳥の代表例となっている。…
※「つばめ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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