団扇(読み)ウチワ

デジタル大辞泉 「団扇」の意味・読み・例文・類語

うち‐わ〔‐は〕【団扇】

《「打ち羽」の意という》
あおいで風を起こす道具。ふつう、細く削った竹の骨に紙や絹を円形に張って作る。 夏》「もてなしの―の風のやや及ぶ/汀女
軍配団扇ぐんばいうちわのこと。
紋所の名。1図案化したもの。丸に団扇、桑名団扇などがある。
[類語]扇子舞扇末広渋団扇扇面

だん‐せん【団扇】

うちわ
軍陣で用いた軍配団扇ぐんばいうちわ
「大将―おっ取って」〈浄・国性爺

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精選版 日本国語大辞典 「団扇」の意味・読み・例文・類語

うち‐わ‥は【団扇・団】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「打ち羽」の意とも )
  2. あおいで風を起こしたり、かざしとしたりする道具。多くは細く削った竹の骨に、紙または絹布を張って柄を付けたもの。円形が多い。材料や産地によって種々の呼び名がある。《 季語・夏 》
    1. [初出の実例]「団扇 唐令云団扇方扇〈団扇宇知波〉」(出典:十巻本和名抄(934頃)六)
    2. 「豊田相模公打輪一本進之、随分物なり」(出典:大乗院寺社雑事記‐長祿二年(1458)七月五日)
  3. 武将が軍勢を指揮するのに用いた具。また、相撲の行司が勝負の決定を示すのに用いる具。軍配団扇
    1. [初出の実例]「代々持来などとて団扇并奉行職預らるまじき事」(出典:朝倉孝景条々(1471‐81)英林壁書)
    2. 「『是非御前ばかりの行司せい』とおしゃったれば『団はなし』と申て、ただの扇で出た」(出典:随筆・胆大小心録(1808)一三八)
  4. 能楽に使う小道具の一つ。唐人、仙人、天狗などの持ち物で、唐団扇、羽団扇、葉団扇、魔王団扇などがある。「天鼓(てんこ)」「鞍馬天狗」などに用いる。
  5. を図案化した紋所の名。桑名団扇、米津団扇、唐団扇などがある。
    1. 丸に団扇@米津団扇@桑名団扇@並び団扇
      丸に団扇@米津団扇@桑名団扇@並び団扇

団扇の語誌

に挙げた「十巻本和名抄‐六」のように、中国語「団扇」に対する和名が「うちは」で、その後慣用的表記となった「団扇」は意味を示す表記であった。漢字の音や訓と直結しない表記のため、戦後の国語政策によって「当用(常用)漢字表」外となり、現在では仮名書きが一般的となっている。


だん‐せん【団扇】

  1. 〘 名詞 〙
  2. うちわ。
    1. [初出の実例]「団扇含愁詠、秋風怨有余」(出典:文華秀麗集(818)中・婕妤怨〈嵯峨天皇〉)
    2. [その他の文献]〔晉書‐楽志〕
  3. 武将が軍陣で用いた指揮用の軍配団扇(うちわ)
    1. [初出の実例]「千葉の介は鞭の役、土肥の遠平だんせん持ち」(出典:浄瑠璃・曾我五人兄弟(1699頃)一)
  4. だんせんがた(団扇形)」の略。
    1. [初出の実例]「懐中のはさみを出して、㡡のすそを、だんせんに切ッたり、丸く切ッたりして」(出典:洒落本・遊婦里会談(1780))
  5. 紋所の名。をかたどったもの。
    1. [初出の実例]「だんせんのはたさして、児玉党七騎にて追懸奉る」(出典:虎明本狂言・青海苔(室町末‐近世初))

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改訂新版 世界大百科事典 「団扇」の意味・わかりやすい解説

団扇 (うちわ)

一般には,細い竹を手に持つ部分だけ残して,細かく幾本かの骨に割り,これに紙,絹などを張ったもので,夏に涼をとる具。しかし歴史的に見るとその形態,用途はかならずしも一定ではなく,変遷がみられる。扇という漢字は〈おうぎ〉と読まれ,〈うちわ〉とはちがったものと思われやすいが,古代の中国では,この扇がいわゆる〈うちわ〉であった。涼をとる用途にも用いられたが,太陽の光を防いだり,風塵をさけたり,高貴の人や女性などが顔をかくしたりする道具に使用し,儀式的なものともなり,ときには葬式の飾りにもなっていた。その起源は古く,周時代にすでに存在したようである。漢時代には班固の《竹扇詩》などをはじめ,うちわを詩に詠じたものも多い。《西京雑記》は,長安の丁緩が七輪扇をつくり,うちわを今日の扇風機のようにまわして涼をとる器具を発明したと伝え,《晋書》には書道で有名な王羲之が六角扇に字を書いたと見えている。漢,六朝,唐時代には,うちわが盛んに用いられ,さまざまの種類ができ各種の用途に用いられた。諸葛孔明は白羽扇で三軍を指揮した。朝鮮にもこのうちわが伝わり,高麗中期には松扇といって松の木などを細かく削って編んだものがあった。朝鮮中古の男子は家にいてうちわで涼をとり,女性や子どもは美しい色彩のうちわを持っていたと伝え,長柄の大うちわを枕もとにおいて,カやハエを払う風習もあった。

 日本には中国から伝わり,正倉院や京都太秦の広隆寺などに遺品も残り,《万葉集》にも扇として〈うちわ〉を歌っている。奈良,平安時代の貴族の間でも,涼をとるだけでなく,日光をよけたり顔をかくしたり,また飾りのためにも,うちわを用いた。女性の持物としても,唐風として,この唐うちわを使用した。ビロウ(蒲葵)の葉の蒲葵扇(びろうせん)(檳榔扇とも書く),鳥の羽の羽扇(うせん),絹を張った美しい色彩のものなどが用いられていた。平安時代に扇子が発達して,うちわの使用は減じたようであるが,主殿頭(とのものかみ)というような官吏は,天皇の行幸列のために儀式的なうちわを管理していた。戦国時代以後,武将は陣中で軍配うちわを使用するようになった。このうちわは鉄あるいは皮でつくり,これを漆塗りにし,日,月,九曜星などを描いて鉄の柄をつけ,打紐を通した。軍陣を指揮するほか,敵の矢をさけたりした。相撲の行司が勝敗を宣するうちわも軍配うちわといい,形は武将のそれと同じである。昔から天狗の絵によくみられるうちわは羽扇であり,修験道の山伏は法貴扇(ほつきせん)といううちわを持つ。

 その後,とくに竹細工と紙の製造が広く行われた江戸時代には,各地にこれを材料としたうちわの製作が普及した。奈良の春日神社の社家の内職に奈良うちわが行われ,京坂でもこれをまねるようになった。熱田神宮の社家でも行われて,宮うちわと呼ばれた。山城の深草うちわ,備中の夏川うちわなど,各地に地方色豊かな名物ができるようになった。祭礼や盆踊にも祭うちわ,踊うちわが特別にできることもあった。江戸うちわは盛大で,貞享(1684-88)から元禄(1688-1704)にかけて江戸の女はうちわを手にすることが流行し,女性向きのものを発達させた。さまざまな形もでき,享保(1716-36)ころには柄のないうちわまで現れた。扇面に浮世絵や,役者の似顔を描いたものなどがあった。網代(あじろ)でつくった網代うちわ,絹を張った絹うちわなどもある。とくに柿渋を塗った渋うちわは,台所の火あおぎ用として一般に用いられ,〈貧乏神の渋うちわ〉といわれて庶民の台所の代表的な道具にまでなった。そして,盆や中元の祝儀用の祝儀うちわの贈答が盛んになり,この風習は現代にも及んでおり,いつしか宣伝うちわにまで発展した。
執筆者: 南方の民族の間では,天然の植物を利用したうちわが使われる。たとえば海南島楡林やジャワ,バリなどではヤシの葉の繊維を編んだうちわがみられ,またポリネシアではシナノキの皮を編んで各種のうちわをつくり,もっぱら化粧のときに用いる。ビロウの葉でつくったうちわは古くから華南や沖縄などで使用され,中でも沖縄諸島では古くからビロウのうちわが神事に用いられ,巫女(みこ)がこれを使った。日本でもビロウのうちわが,宮中で天皇のための御飯を冷やすためや,火をおこすために用いられたことが延喜式にみえている。また修験者がビロウのうちわを護摩の火をあおぐために用いることも注目されよう。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「団扇」の意味・わかりやすい解説

団扇
うちわ

夏季などにあおいで涼をとったり、かざして強い日差しを避けるために用いる道具。一般に円形が多いが、渋団扇や京団扇、軍配団扇のように変形のものもある。中国では、紀元前3世紀以前の周代より使われ、漢代には支配者の権威を表す小道具の一つにも数えられていた。六朝(りくちょう)や唐代に入るといろいろな種類が現れ、なかには七輪扇(しちりんおうぎ)といって風車のように回して涼をとる道具さえ現れた。

 日本へは奈良時代に中国から伝わり、当時の宮廷や貴族の間で使用されたことが、正倉院の遺物からもうかがえ、これには団扇を持った当時の婦人の姿も刻まれている。平安時代になると折り畳める扇が考案されたが、『病草紙(やまいのそうし)』のなかには蒲葵扇(びろうおうぎ)を持っている下級武士がみられる。当時のものは多くが円形であったため、この形のものが一般化して「団扇」という文字が定着していった。さらに応仁(おうにん)・文明(ぶんめい)(1467~1487)以後の乱世になると、武将が部下を叱咤(しった)激励するための、皮革や鉄でつくった軍配団扇が用いられるようになった。扇面に朱漆、金銀で日、月、星や文字を描き、柄(え)には組紐(くみひも)を通した。後の相撲の行司が土俵上で用いる軍配は、ここからきている。江戸時代以降もっとも普及したのは、納涼のための竹骨・紙張りの絵団扇で、宮崎友禅斎(ゆうぜんさい)(友禅染の創始者)の衣装雛型(ひながた)本のなかに団扇の絵雛型が記されるほど、当時の生活用具として発展していた。ことに夏祭や盆踊りには欠かせないもので、夏になると団扇売りの行商人が町をにぎわした。浮世絵には、夕涼みに団扇を持った女性の夏姿などがさまざまに描かれている。役者絵をはじめ錦絵(にしきえ)入りの団扇は、当時32文が相場であったが、銀でつくった小さな鈴虫をつけ、あおぐたびに虫の音を楽しむというぜいたくなものや、絹団扇、表面に漆を塗り、水をつけて用いる水団扇(岐阜団扇)、あるいは堅牢(けんろう)を目的とした火おこし用の渋団扇、町火消が延焼を防ぐための、火の粉を払う長い柄の大団扇なども出てきた。

 一方信仰用具として、修験者(しゅげんじゃ)の間では法貴扇(ほっきせん)や天狗(てんぐ)の団扇が使われ、これらは沖縄の巫女(みこ)の間でも使われた。民間では東京・府中の大国魂(おおくにたま)神社から出される烏(からす)団扇、あるいは同じ東京の日野の高幡(たかはた)不動の絵団扇など、家の門口にさして火災除(よ)けのまじないとした。また春日(かすが)神社の奈良団扇が社家でつくられ、山口県熊毛(くまげ)地方の獣皮張りの団扇は、農具として唐箕(とうみ)や脱穀器のかわりに用いられた。備中(びっちゅう)(岡山市)産の夏川(撫川(なつかわ))団扇は、柄を立てるとそのまま立っており、これであおぐ風は当たりが軟らかいという。名古屋の熱田(あつた)神宮の社家でつくる団扇は、奈良団扇をまねたものだが、これは宮団扇といわれた。

[遠藤 武]


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普及版 字通 「団扇」の読み・字形・画数・意味

【団扇】だんせん

うちわ。梁・武帝〔団扇の歌〕詩 手中の白團 淨(きよ)きこと秋の團の如し

字通「団」の項目を見る

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日本文化いろは事典 「団扇」の解説

団扇

団扇はもともと、顔を隠して威厳を正す道具でした。庶民に普及してからは、団扇は暑さを和らげたり炭をおこすのには欠かせないものとして使われていました。現在ではこのような実用的な使用は少なくなりましたが、夏の風物詩としてお祭りなどで好んで使われています。

出典 シナジーマーティング(株)日本文化いろは事典について 情報

とっさの日本語便利帳 「団扇」の解説

団扇

「うち」は動詞「うつ」から来たもの。「わ」は古くは「ハ」であったことから「羽」の意味と考えられる。つまり「打ち羽」。鳥の羽を材料に作られたものであったようだ。

出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報

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