煩う(読み)ワズラウ

デジタル大辞泉 「煩う」の意味・読み・例文・類語

わずら・う〔わづらふ〕【煩う/患う】

[動ワ五(ハ四)]
(煩う)あれこれと心をいためる。思い悩む。
両方の何れだろうかと―・って待っていた」〈漱石それから
(患う)病気で苦しむ。古くは「…にわずらう」の形で用いることが多い。「目を―・う」
わらはやみに―・ひ給ひて」〈若紫
(煩う)うまくいかないで苦労する。難渋する。
「さこそ世を―・ふと言ひながら」〈平家一一
(煩う)動詞の連用形に付いて、…しかねる、なかなか…できないの意を表す。「行き―・う」「言い―・う」
[類語](1悩む思い煩う思い詰める苦しむもだえる思い迷う思い乱れる苦悩する懊悩おうのうする煩悶はんもんする憂悶ゆうもんする苦悶くもんする苦慮する頭を痛める頭を悩ます/(2病む罹る寝つく病を得る重るこじれるこじらせる発病発症罹病罹患

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「煩う」の意味・読み・例文・類語

わずら・うわづらふ【煩・患】

  1. 〘 自動詞 ワ行五(ハ四) 〙
  2. そのことに心がとらわれて思い苦しむ。悩む。心配する。
    1. [初出の実例]「かにかくに 思和豆良比(おもひワヅラヒ)(ね)のみし泣かゆ」(出典万葉集(8C後)五・八九七)
    2. 「ヲモイノ アマリニ スデニ キヲ vazzurauaxeraruru(ワヅラワセラルル) ヤウニ アッタニ ヨッテ」(出典:天草本伊曾保(1593)イソポの生涯の事)
  3. 難渋する。苦労する。骨を折る。
    1. [初出の実例]「一の身の故を以て豈万民を煩労(ワツラハ)しめむや」(出典:日本書紀(720)皇極二年一一月(岩崎本平安中期訓))
    2. 「こぎのぼるに、かはのみづひて、なやみわづらふ」(出典:土左日記(935頃)承平五年二月七日)
  4. 病気になる。病気で苦しむ。後世病名を示して、「…をわずらう」の形でも用いる。
    1. [初出の実例]「むかし、をとこ、わづらひて、心地死ぬべくおぼえければ」(出典:伊勢物語(10C前)一二五)
    2. 「メ、または、ヅツウ ナドヲ vazzurǒ(ワヅラウ)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
  5. ( 動詞の連用形に付けて用い ) その動作・行為がすらすらと進まないで苦労するの意を表わす。…しかねる。
    1. [初出の実例]「中将、言ひわづらひて帰りにければ、いとなさけなくむもれて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)手習)

煩うの語誌

( 1 )上代では挙例「万葉集」のように、直面する困難に対する精神的苦痛、困惑を意味するが、中古にはいると、のように、病気などによる肉体的苦痛をも意味するようになる。反対に肉体的苦痛を意味した「悩む」は中古から精神的苦痛をも意味するようになり、「わずらう」と意味領域が接近する。中古和文に見られる用例からは、「わずらう」が肉体的苦痛を表現する場合、「悩む」よりも強い痛みや発作を伴う傾向が伺われる。
( 2 )精神的苦痛の場合は、「悩む」が直面する事態を我がこととして把握し、主体的にかかわる場合が多いのに対して、「わずらう」はより客観的であり、第三者的である。したがって、迷惑・困惑のニュアンスを含むことが多い。この意味特徴は近代に至るまで一貫して保たれている。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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