夏目漱石(そうせき)の長編小説。1909年(明治42)6月27日より10月4日まで、東京・大阪の『朝日新聞』に連載。翌年1月、春陽堂刊。長井代助は実業家の父の援助で無為徒食の日々を過ごしているが、職業のために汚されない自由な時間をもつことをむしろ誇りとしていた。ある日、友人の平岡が大阪での勤めに失敗して上京してくる。平岡の妻三千代と再会した代助は、改めて彼女への愛を確認し、2人の結婚に尽力した過去の虚飾を反省する。自己の自然な欲求を貫くか、「社会の掟(おきて)」に従って断念するかの二者択一に迷った代助は、ついに三千代を奪うことを決意する。しかし、三千代は病み、代助は父から義絶され、職業を探す必要に迫られる。愛における利己と利他という漱石文学の根本主題が初めて鮮明になった作品で、代助に託して語られる文明批評も思想家としての漱石の一面を彷彿(ほうふつ)する。先行作の『三四郎』、次作の『門』とあわせて三部作とみる説もある。
[三好行雄]
『『それから』(岩波文庫・旺文社文庫・角川文庫・講談社文庫・新潮文庫)』▽『越智治雄著『漱石私論』(1971・角川書店)』
夏目漱石の長編小説。1909年(明治42)6~10月,東京・大阪の《朝日新聞》に連載。翌年春陽堂刊。主人公長井代助は,西洋と日本の関係がだめだから働かないと言って,実業家の父親に寄食する高等遊民である。彼は西洋を模倣する近代日本文明に失望し,また父親が信奉する封建道徳の偽善を批判しつつ,その鋭敏な自己意識ゆえに,自分の行為の動機を失っている。父親のすすめる政略結婚をことわり,友人の妻を奪うが,それを〈自然〉の意志に動かされたのだと自覚する。彼のゆく先には社会的破滅がある。〈自然〉に殉ずるか〈社会〉と妥協するかのジレンマに苦しむ主人公の運命を,明治社会の文明批評と重ね合わせて追求した迫力ある佳作である。
執筆者:桶谷 秀昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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