掛る(読み)カカル

デジタル大辞泉 「掛る」の意味・読み・例文・類語

かか・る【掛(か)る/懸(か)る/係る】

[動ラ五(四)]

㋐上が固定された状態で、高い所からぶらさがる。上から下へさがる。「壁に絵が―・っている」「カーテンの―・っている部屋」
㋑中空など、高い所に位置する。「月が中天に―・る」
㋒目につくように高い所に掲げられる。「高札が―・る」「はりつけに―・る」
(「繋る」とも書く)船が停泊する。係留される。「客船が桟橋に―・っている」

㋐火に当てるために容器が上からつるしさげられる。また、火の上に据え置かれる。「ガスに鍋が―・っている」
㋑《竿秤さおばかりにぶらさげて計量するところから》はかりに受けとめられる。…の目方がある。「重すぎてはかりに―・らない」「4キロ―・る(=目方がほぼ4キロある)」

㋐(「架かる」とも書く)物が一方から他方へまたぐように渡される。「橋が―・る」
㋑ひも・縄などが物のまわりにかけ渡される。「水引の―・った祝いの品」
㋒張り巡らすようにして作られる。一時的に設営される。「クモの巣が―・る」「小屋が―・る」
㋓《仮小屋を作って行われたところから》興行される。上演・上映される。「見世物が―・る」「評判の映画が―・っている」

㋐ほかのものの上にかぶさる。一面を覆う。「イチゴミルクが―・っている」「霧が―・る」
㋑水や粉などが飛び散って当たる。ふりかかる。「しぶきが―・る」「ほこりが―・る」
仕掛けなどで捕らえる。また、捕らえられた状態で動きが止まる。「大きな魚が―・る」「網に―・った鳥」「たこが木の枝に―・る」
仕組まれたはかりごとに陥る。はまる。「相手のわなに―・る」「計略に―・る」「暗示に―・る」

㋐(「…の手にかかる」の形で)傷つけられたり、殺されたりする。「敵の手に―・る」
㋑(「目にかかる」の形で)目にとまる。見られる。「勘当したからは二度と親の目に―・るな」「お目に―・る(=お会いする)」
偶然に物にさわる。「うっかり手が―・ってしまった」
10
㋐他から作用・動作が及ぶ。「技が―・る」「ちっとも誘いが―・らない」
㋑送られてきて、こちらに届く。「声が―・る」「電話が―・ってくる」
㋒付いている仕掛けが働いて、本体が動かないように固定される。「錠が―・る」
㋓装置が作動して機能を発揮しだす。「車のエンジンが―・らない」「ひと晩じゅうラジオが―・っている」
11 何かが心にしっかりと付いてその状態にとどまる。「気に―・る」「心に―・る日本の将来」
12
㋐望ましくないことがこちらの身に及んでくる。身にふりかかる。「迷惑が―・る」「疑いが―・る」
㋑負担すべきものとして押し付けられる。課せられる。「税金が―・る」
13 (「罹る」とも書く)病気や災難などを身に受ける。とりつかれる。「伝染病に―・る」
14 時間・費用・労力などが必要とされる。費やされる。要する。「手の―・る仕事」「完成に10年―・る」
15
㋐ものの働き・力が加わる。「芸に磨きが―・る」
㋑頭から押さえつけるような態度に出る。「かさに―・る」
16 攻撃的に挑む。攻めていく。「束になって―・る」「攻略に―・る」
17
㋐物事に着手する。しはじめる。「仕事に―・る」「取り壊しに―・る」
㋑その事に当たる。従事する。「今―・っている仕事」
18 ある範囲・場所・期間にまで及ぶ。経過してきてその所・時間に至る。「鼻に―・った声」「急勾配に―・る」「工事が来春まで―・る」
19 重みなどがそちらに加え乗せられる。力などが向けられる。「体重が―・った姿勢」「み消しの圧力が―・る」
20
㋐物心の両面にわたって頼みとする。他のものに頼る。養ってもらう。「老後は子供に―・る」
㋑処置・処理をまかせる。扱われる。「医者に―・る」「あの人に―・ってはかなわない」
21 議案などが公の場に持ち出されて取り扱われる。「案件が委員会に―・る」「裁判に―・る」
22 重大な結果が予想される。「優勝の―・った大一番」「懸賞が―・る」「この建物には保険が―・っている」
23
㋐そのような性質・傾向を帯びる。「赤みの―・った黄色」
㋑交配される。「四国犬にマスチフの―・った土佐犬」
24
㋐(係る)物事がかかわる。重要なところに関係をもつ。「存否に―・る問題」
㋑その人によって作られる。その人の手になる。「空海大師の開基に―・る」
25 (係る)文章中のある語句の文法上の働きが、あとの他の語句と関係をもつ。修飾する。「『青い空』の『青い』は形容詞連体形で、『空』に―・る」
26 多く、動詞の連用形接続助詞「て」を添えた形に付いて、初めからそのような状態で、またはそのように思い込んで、事に対する意を表す。「相手をのんで―・る」「だめだと決めて―・る」
27 神霊が人間に乗り移る。
「神して、皇后に―・りてをしへまつりて曰く」〈仲哀紀〉
28 気分や調子が乗る。
「声も調子に―・り、能も心づくころなれば」〈花伝・一〉
29 他の動詞の連用形のあとに付いて用いる。
㋐今にも…しそうになる。また、ちょうど…する。…しはじめる。「おぼれ―・る」「崩れ―・る」「通り―・る」「立ち―・る」
㋑ある動作を他に向ける。何かに向かって…する。「飛び―・る」「寄り―・る」
[可能]かかれる[ラ下一]
[補説]「掛かる」以外の表記は、次の観点で使い分けることが多い。
懸かる…中空にある。また、重大な結果につながる。「空に月が懸かる」「優勝が懸かる」
係る…関係する。「人命に係る問題」
繋る…船をつなぐ。「船が桟橋に繋る」
架かる…一方から他方へわたす。「橋が架かる」
罹る…病気などにあう。「風邪に罹る」
[下接句]息が掛かる意地に掛かる御座敷おざしきが掛かる御目おめに掛かるかさに懸かる肩に掛かる気に掛かる食って掛かる口が掛かる口に税は掛からぬ口のに掛かる声が掛かる心に掛かる手が掛かる縄に掛かるはしにも棒にも掛からない人手に掛かるふんどしを締めてかかるやいばに掛かる
[類語](12被る浴びる/(13病む患う寝つく病を得る重るこじれるこじらせる発病発症罹病罹患/(16挑む突っかかる向かう立ち向かうぶつかる対する対抗する対決競争敵対相手取る向こうに回す向こうを張る競う比べる競合角逐かくちく勝負り合い競技プレー争う張り合うせめぎ合う渡り合う遣り合う先を争うしのぎを削る火花を散らす/(17始めるしだすやりだす取り掛かるしかかるしかける開始する着手する幕開き開幕始まる踏み出すスタート出出し立ち上がり手始め皮切り口切り封切り起動始動発動幕がふたく・蓋を開けるしょ・ちょ端を発する口火を切る火蓋を切る幕を切って落とす狼煙のろしを上げる手を付ける御輿みこしを上げる/(24関連連関連係相関関与交渉かかわりつながり結び付き掛かり合い引っ掛かり絡み当該当事掛かりっきり関するかかわるまつわるかかずらあずか絡む掛かり合う関わり合う巡るかまける

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精選版 日本国語大辞典 「掛る」の意味・読み・例文・類語

かか・る【掛・懸・係・繋】

  1. 〘 自動詞 ラ行五(四) 〙
  2. [ 一 ] ある場所、ある物、人などについて事物や人が支えとめられる。また、あるものにかぶせる。
    1. ある場所に物の一部がついて垂れ下がる。
      1. [初出の実例]「今しはとわびにし物をささがにの衣にかかりわれをたのむる〈よみ人しらず〉」(出典:古今和歌集(905‐914)恋五・七七三)
      2. 「御帳にかかれるくす玉も」(出典:徒然草(1331頃)一三八)
      3. 「大きな白いカアテンのかかった窓から」(出典:東京の三十年(1917)〈田山花袋〉私と旅)
    2. 事物が他の物の表面におおいかぶさる。また、おおうようになびく。
      1. [初出の実例]「つのさはふ石村(いはれ)の山に白たへに懸有(かかれる)雲は皇(すめらみこ)かも」(出典:万葉集(8C後)一三・三三二五)
      2. 「なよよかなる御ぞに髪はつやつやとかかりて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若紫)
      3. 「寝床には雪の様な敷布(シート)が掛(カカ)ってゐる」(出典:満韓ところどころ(1909)〈夏目漱石〉二二)
    3. 倒れないように物や人に支えられる。もたれる。すがる。よりかかる。
      1. [初出の実例]「車さしよせて乗らんとて、かきおこされて、人にかかりてものす」(出典:蜻蛉日記(974頃)上)
      2. 「樹の根に縋(カカリ)て腰をかがめ」(出典:海道記(1223頃)竹の下より逆川)
    4. 船が、いかりをおろしてまたは岸につながれてとまる。停泊する。
      1. [初出の実例]「うなはらやはかたのおきにかかりたる唐舟(もろこしぶね)にときつくるなり〈源兼昌〉」(出典:永久百首(1116)雑)
      2. 「やがて堤に船をこぎよせ、しばらくかかりて見合せけるが」(出典:滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)六)
    5. 開かないように、鍵や錠でとめられる。
      1. [初出の実例]「箪笥の鍵の掛かる処へ入れてゐると」(出典:身上話(1910)〈森鴎外〉)
    6. ( 竿秤(さおばかり)にぶら下がるというところから ) はかりにのせられる。また、物の重さがはかりの目盛りに現われる。
      1. [初出の実例]「ヒャクメ cacatta(カカッタ)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
      2. 「此はかりでをのれが身がかからふか。すねをひけとねめつくる」(出典:浄瑠璃・釈迦如来誕生会(1714)三)
    7. 鳥がとまる。
      1. [初出の実例]「タカガ キニ cacaru(カカル)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    8. 高い所に掲げられる。日や月が空にあることにもいう。
      1. [初出の実例]「よろづのやしろに額のかかりたるに」(出典:大鏡(12C前)二)
      2. 「上弦の月峯にかかり」(出典:海道記(1223頃)大岳より鈴鹿)
    9. ( 鍋など上からつるしたところから ) 煮たきするために、火の上に置かれる。
      1. [初出の実例]「突然(いきなり)火鉢にかかって居た鉄瓶を投げますと」(出典:落語・閉込み(1897)〈三代目柳家小さん〉)
  3. [ 二 ] 機能を持つもののはたらきの支配下に入る。そのはたらきの対象となる。
    1. 人の心や目などにとまる。
      1. [初出の実例]「瓜食(は)めば 子ども思ほゆ〈略〉眼交(まなかひ)に もとな可可利(カカリ)て 安眠(やすい)し寝(な)さぬ」(出典:万葉集(8C後)五・八〇二)
      2. 「かくや姫のみ御心にかかりてただひとりずみし給ふ」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
      3. 「さ様に叡慮にかからせましまさん事、何条事か候べき」(出典:平家物語(13C前)六)
    2. 話題や議題として出される。
      1. [初出の実例]「ヒトノ クチ、または、コトバニ cacaru(カカル)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    3. とがったもの、巻きつくようなものなどにひっかかる。特に、獣、鳥、魚などが、わな、網、針などにとらえられる。
      1. [初出の実例]「時に川鴈有りて、羂(わな)に嬰(カカリ)て困厄(たしなむ)」(出典:日本書紀(720)神代下(兼方本訓))
      2. 「鰺のあの字もかからない」(出典:自然と人生(1900)〈徳富蘆花〉湘南随筆)
    4. ( [ 二 ]の比喩的用法 ) 仕組んだ計画にはまる。
      1. [初出の実例]「彼は今日迄嫂(あによめ)の策略にかかった事が時々あった」(出典:それから(1909)〈夏目漱石〉一一)
    5. 力を持つものによって危害を受ける。傷つけられたり、殺されたりする。
      1. [初出の実例]「わが身は女なりとも、かたきの手にはかかるまじ」(出典:平家物語(13C前)一一)
    6. 裁判などに持ち出される。また、機械などで処理される。「裁判にかかる」
    7. 一方的な力をふるうものにとりあつかわれる。
      1. [初出の実例]「女にかかっちゃア思ひの外弱いかも知れねへ」(出典:人情本・閑情末摘花(1839‐41)初)
      2. 「あきまへんわい〈略〉兵隊さんにかかるとなア」(出典:兵隊の宿(1915)〈上司小剣〉七)
  4. [ 三 ] 生命や経費など、大切なものが、相手のなりゆきのままとなる。
    1. 他人の世話になる。助けてくれるものとして頼みにする。たよる。
      1. [初出の実例]「若き時に女親(めおや)はうせ給ひにけり。継母の手にかかりていますかりければ」(出典:大和物語(947‐957頃)一四二)
      2. 「供(くれう)供米にもかかり、施物の外、いかでか身をたすくべき」(出典:米沢本沙石集(1283)一〇末)
      3. 「只併(しかしながら)神明仏陀の擁護に懸れり」(出典:太平記(14C後)六)
    2. 医者に診察、治療をしてもらう。
      1. [初出の実例]「へたの医師(くすし)にかかりつつ」(出典:仮名草子・竹斎(1621‐23)下)
    3. 貴重なものの成否が、なりゆきに左右される。
      1. [初出の実例]「此の度の戦は実に天下忠安危の係る所なれば」(出典:小学読本(1884)〈若林虎三郎〉四)
    4. 費用、時間、人手などが消費される。必要である。
      1. [初出の実例]「第一まア手がかからねへで、貧乏人には能(いい)利方だ」(出典:滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二)
      2. 「電車の終点から歩くと二十分近くも掛(カカ)る山の手の奥丈あって」(出典:門(1910)〈夏目漱石〉三)
  5. [ 四 ] 作用の目標となる。また、影響力の大きい作用が及ぶ。
    1. 反応を求めるような作用が及ぶ。
      1. [初出の実例]「実(げ)に有難(ありがたい)と声がかかり」(出典:滑稽本・古朽木(1780)二)
      2. 「恰も別世界から電話がかかった様なもので」(出典:坑夫(1908)〈夏目漱石〉)
      3. 「些(ちっ)とも私、此の節かかって来ないんですもの」(出典:日本橋(1914)〈泉鏡花〉九)
    2. ずっと続いて、ある箇所、時期から他の箇所、時期にまでわたる。
      1. [初出の実例]「よく咲きこぼれたる藤の花の、夏にかかりてかたはらに並ぶ花なき」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜下)
    3. 一方から他方へ通り越す。通り過ぎる。
      1. [初出の実例]「御嶽、熊野、かからぬ山なくありくほどに」(出典:能因本枕(10C終)五)
      2. 「有時、法印下山の時分、大なる重箱をもってかかり」(出典:咄本・昨日は今日の物語(1614‐24頃)上)
      3. 「ちょっと鼻にかかる、あまったれたような話しぶりと」(出典:青べか物語(1960)〈山本周五郎〉 SASE BAKA )
    4. ある場所や時期の初めの部分に至りつく。さしかかる。
      1. [初出の実例]「都へ帰り入、北国にかかて、終に奥へぞ下られける」(出典:平家物語(13C前)一二)
      2. 「白川の関にかかりて、旅心定りぬ」(出典:俳諧・奥の細道(1693‐94頃)白川の関)
    5. 敵対して、相手に向かって行く。攻め進む。おそいかかる。
      1. [初出の実例]「鰐(わに)来て虎に懸ると見る程に」(出典:今昔物語集(1120頃か)二九)
      2. 「大長刀うち振ってかかりければ」(出典:平家物語(13C前)一一)
    6. 交渉する。抗議を申し込む。
      1. [初出の実例]「けふは茶屋へかかってきっとたださねばならぬ」(出典:洒落本・二蒲団(1801))
    7. 雨、雪、涙などが落ちてきてあたる。また、水や泥がはねたりしてあたる。
      1. [初出の実例]「蓑も何も涙のかかりたるところは血の涙にてなむありける」(出典:大和物語(947‐957頃)一六八)
      2. 「いそなれぬ心ぞたへぬ旅ねするあしのまろ屋にかかる白浪〈源師賢〉」(出典:新古今和歌集(1205)羇旅・九二六)
      3. 「内務省も焼けて居る。大蔵省も来る時に火が掛った」(出典:東京灰燼記(1923)〈大曲駒村〉四)
    8. 神が乗り移る。憑(つ)く。
      1. [初出の実例]「時に神有(まし)て、皇后に託(カカリ)て誨(をしへ)まつりて曰く」(出典:日本書紀(720)仲哀八年九月(熱田本訓))
    9. ( の比喩的用法 ) 情愛、恩恵などが及ぶ。
      1. [初出の実例]「沈む身と何歎きけん佐保川の深き恵みのかかりける世に〈藤原内経〉」(出典:風雅和歌集(1346‐49頃)雑下・一八二一)
      2. 「其死を憂ふる体の、容子(やうす)にも見ゆる故、人情愛憐のかかる理で」(出典:文明開化(1873‐74)〈加藤祐一〉初)
    10. ( の比喩的用法 ) 好ましくないこと、病気、災害、刑罰、迷惑などが身に及ぶ。ふりかかる。
      1. [初出の実例]「我か子疾に嬰(カカレ)り」(出典:大唐西域記巻十二平安中期点(950頃))
      2. 「文王は羑里(ゆうり)にとらはれ、公冶長は刑戮(けいりく)にかかれり」(出典:浄瑠璃・出世景清(1685)四)
      3. 「思はぬさいなんにかかりたるときの」(出典:尋常小学読本(明治三七年)(1904)八)
      4. 「二重支払ひの詐欺にかかった時」(出典:真理の春(1930)〈細田民樹〉手形の手品師)
    11. 強制する力、重み、また色あいなどが加わる。「圧力がかかる」「責任がかかる」
      1. [初出の実例]「痩骨の肩にかかれる物先(まづ)くるしむ」(出典:俳諧・奥の細道(1693‐94頃)草加)
      2. 「まがひ八丈のきいろへくろみのかかりたる小そで」(出典:安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉三)
    12. 機械が働くようになる。また、道具を働かせた結果が現われる。
      1. [初出の実例]「玄関の土間に箒目がたった、どの鍋の蓋にたわしがかかった〈略〉といふ風な」(出典:今年竹(1919‐27)〈里見弴〉伸び行く)
      2. 「エンジンがかかるまでに」(出典:曠野(1964)〈庄野潤三〉六)
    13. 文法で、ある語句の働きが、他の語句に及んでいく。⇔受ける
      1. [初出の実例]「うまじものあべ川とかかり、あさもよし、きとうけて、昼くふもよし」(出典:滑稽本・浮世風呂(1809‐13)三)
    14. 能楽で、謡曲が拍子に合わない部分から合う部分へ移る。拍子に乗る。現在では、主に謡(うたい)や囃子(はやし)が勢いづいて力を強めたり、テンポを速めたりするのにいう。
      1. [初出の実例]「やうやう声も調子にかかり」(出典:風姿花伝(1400‐02頃)一)
    15. 音曲と所作とがうまく合う。
      1. [初出の実例]「惣して浄るりは人形にかかるを第一とすれば、外の草紙と違ひて文句みな働を肝要する活物なり」(出典:難波土産(1738)発端)
    16. 交尾する。
      1. [初出の実例]「媱乱にして、あれこれにかかりあるいたなりぞ」(出典:土井本周易抄(1477)五)
  6. [ 五 ] 造作や設備が、ある場に作り設けられる。
    1. 両端が支えられて、間に渡される。一方から他方へつながる。また、架設される。
      1. [初出の実例]「新両国の橋かかりければ みな出(いで)て橋をいただく霜路哉〈芭蕉〉」(出典:俳諧・泊船集書入(1698‐1715))
      2. 「産婆の宅には電話が掛(カカ)ってゐたけれども」(出典:道草(1915)〈夏目漱石〉八〇)
    2. (なわ、ひもなどが)他の物のまわりに巻きつけられる。
      1. [初出の実例]「馬の足にかかりける大綱どもをばふつふつとうちきり」(出典:平家物語(13C前)九)
      2. 「水引の掛った奉書包を取出したが」(出典:青春(1905‐06)〈小栗風葉〉秋)
    3. 張りめぐらしたり、組み立てたりして作られる。
      1. [初出の実例]「古池やかはづ飛こむ水の音〈芭蕉〉 芦のわか葉にかかる蜘(くも)の巣〈其角〉」(出典:俳諧・幽蘭集(1799))
      2. 「そこに屋台が掛かってゐて」(出典:ヰタ・セクスアリス(1909)〈森鴎外〉)
    4. ( 小屋を組み立てて行なったところから ) 芝居、演芸、見世物などが興行される。
      1. [初出の実例]「到る処梅之助の掛(カカ)る席亭は非常な大入で」(出典:をさめ髪(1900)〈永井荷風〉一)
      2. 「西部劇とイタリア映画が掛っているらしかった」(出典:最後の時(1966)〈河野多恵子〉)
  7. [ 六 ] 物事にあるつながりを持つようになる。
    1. あるつながりができる。関係する。
      1. [初出の実例]「かしこき御ことにかかりてかたじけなけれど」(出典:枕草子(10C終)二七八)
      2. 「わづらはしき事にかかりぬと思ひながら」(出典:今鏡(1170)五)
      3. 「外交の機密に係(カカ)る恐ろしいものである」(出典:福翁自伝(1899)〈福沢諭吉〉欧羅巴各国に行く)
    2. 他人の事件や仕事などに関係して、罪や損害などを受ける。まきぞえをくう。また、責任を負う。身に引き受ける。
      1. [初出の実例]「事、謀りて皇子押磐を殺すに連(カカリ)ぬ」(出典:日本書紀(720)顕宗元年五月(図書寮本訓))
      2. 「静範法師、やはたの宮の事にかかりて伊豆国に流されて」(出典:後拾遺和歌集(1086)雑三・九九六・詞書)
    3. そのことを集中して行なう。専心する。かかりきりになる。
      1. [初出の実例]「酒をのみ飲みつつ、やまと歌にかかれりけり」(出典:伊勢物語(10C前)八二)
      2. 「小事に懸り大事を捨ても大事ないか」(出典:歌舞伎・幼稚子敵討(1753)二)
    4. 処理のためにある物事に関係する。
      1. [初出の実例]「お長屋がかかって、詫言をしてもらった事が五たびだ」(出典:滑稽本・早変胸機関(1810))
    5. 物事をやり始める。着手する。とりかかる。
      1. [初出の実例]「操取たて銀本のかね 津の国のただしき山に懸ったか」(出典:俳諧・西鶴大矢数(1681)第一四)
      2. 「近日其計画に着手(カカ)る筈だと打明けて」(出典:くれの廿八日(1898)〈内田魯庵〉二)
    6. そうなることに決まっている。必ずそうなる。
      1. [初出の実例]「秩父絹じゃア切れるにかかってゐるから」(出典:滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二)
    7. ある物事によって成り立つ。そのことに関連して生ずる。
      1. [初出の実例]「『ユタ、センタラル』会社の銕道も、此人の私社にかかる」(出典:米欧回覧実記(1877)〈久米邦武〉一)
      2. 「刑法第七十七条乃至第七十九条の罪に係る訴訟の第一審」(出典:裁判所法(1947)一六条)
  8. [ 七 ] 他の動詞の連用形に付けて補助動詞的に用いる。
    1. 上の動詞の表わす動作、作用が、ある物に向けられる意を表わす。
      1. [初出の実例]「恋は今はあらじとあれは思へるを何処(いづく)の恋そつかみ繋有(かかれる)」(出典:万葉集(8C後)四・六九五)
      2. 「下法師に、狐三つ飛びかかりて」(出典:徒然草(1331頃)二一八)
    2. 上の動詞の表わす動作、作用が、始まりそうになる、また、始まってその途中である意を表わす。
      1. [初出の実例]「母北の方、異兄弟(ことはらから)たち、ただ爰になん来かかる」(出典:落窪物語(10C後)四)
      2. 「再び跳り超えむとしてまた墜ちかかりたるが」(出典:小学読本(1874)〈榊原・那珂・稲垣〉五)

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