江戸・吉原における上級遊女の別称。語源としては、遊女に従属する新造(しんぞう)や禿(かむろ)が姉女郎を「おいらがの(私の)」とよんだのがなまったとする説などがあるが、明らかではない。いずれにしても口語体から発生したらしく、漢字は当て字である。洒落本(しゃれぼん)には、姉妓、姉娼、全盛、妹妓など多数の当て字が使われている。そのなかで、ものいう花(美女)の魁(かしら)という意味をもつ花魁が、広く使用されて代表的文字となった。語源の伝承にもあるように、花魁は尊称的美称であって職名でないため、どの階級の遊女がこれに相当するかは一定していない。花魁の称が一般化した明和(めいわ)(1764~72)ごろは、吉原では太夫(たゆう)が衰滅して散茶(さんちゃ)がこれにかわった時代であるが、散茶のなかの最上格である呼出しを、初めは花魁とよんだという。呼出しは張り見世をしない別格であったが、のちには次位の昼三(ちゅうさん)や、その下の座敷持(ざしきもち)なども花魁とよぶようになった。ただし、いずれも2部屋以上の座敷を与えられ、新造2~3人、禿2~3人を従え、座敷には各種の調度をそろえ、寝具は重ねふとんであった。
[原島陽一]
遊興には揚屋(あげや)に招くことに定められていた上級遊女が、従者らを連れて一団となって揚屋へ往復するのを旅行に見立てて道中と称することは元禄(げんろく)(1688~1704)ごろに始まる。吉原の花魁道中は、この形式を借りた宣伝ショーである。吉原でも、初めは客に招かれて引手茶屋との間を往復する実用的な行進であったが、トップスターである花魁が盛装をし、大ぜいの従者を連れて行列する光景に観光的要素をみいだし、これを独立させた。茶屋に行く必要がないのに、道中を目的として行進したのである。そのために、扮装(ふんそう)は豪華となり、従者の数も増し、外八文字(そとはちもんじ)という独特の歩き方が考案され、多数の見物人を集めることになった。明治以後は、毎晩は行わずにしだいに行事化していったが、洋装の道中なども試みられた。
[原島陽一]
吉原における上級遊女の別称。新造,禿(かむろ)などが専属の姉女郎を〈おいらの〉〈おいらがとこ〉などと呼んだのがなまって〈おいらん〉になったというが,ほかにも語源説があり,詳細は不明。どの説にしても口語に始まったのは確かで,漢字は当て字である。洒落本などには姉女良・姝妓・花嬢・壱両壱分など多くの用字例がみえるが,その中で花魁だけが残って定着した。語源とともに使用の起源も明確でなく,元禄(1688-1704)以前の用例が挙げられているが,一般化したのは1760年代の宝暦・明和ごろのようで,これは最高妓とされた太夫が吉原で消滅した時期と一致する。太夫の格をつぐ遊女は散茶(さんちや)であったが,散茶は呼出し,座敷持ちなどの階級に分かれていたため,散茶の上級妓を花魁と称して区別したのであろうか。洒落本《魂胆惣勘定》(1754)に〈おいらがとこ〉の里ことばが紹介されたように,そのころ流行した洒落本によって花魁という別称が普及したことは疑いない。ただし,尊称的美称であって職名ではないから,どの遊女が花魁と別称されるかはっきりせず,座敷持ち以上または部屋持ち以上という約束はあっても,それ以下の下級妓をさした場合もあり,その混乱は時代とともに拡大した。花魁が最高格として処遇されたなごりは花魁道中にある。花魁道中の原形は太夫の揚屋入りにあるが,これを観光ショーとして独立させたもので,そのために豪華さを増した。簪(かんざし),笄(こうがい)で頭を飾り,高価な衣類に襠(かいどり)を着,黒塗りの高下駄をはいて,新造,禿や傘持ちなどの従者をつれて仲の町をねり歩いた。これは上級妓のみに許された特権で,この特権をもつ呼出しは張見世(はりみせ)を免除されていた。このほか花魁は専従の禿・新造の人数や,使用する寝具などについての特権をもっていた。道中を演じる花魁との遊興には,揚代のほかに引手茶屋での芸者の費用や祝儀などを要したので高額であった。
→遊女
執筆者:原島 陽一
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