日本大百科全書(ニッポニカ) 「アシ」の意味・わかりやすい解説
アシ
あし / 葦
芦
蘆
common reed
[学] Phragmites australis (Cav.) Trin. ex Steud.
イネ科(APG分類:イネ科)の大形多年草。キタヨシまたはヨシともいう。アシという名は「悪(あ)し」に通じるので、その対語として「善(よ)し」となったという。根茎は白く、地中を長くはい、地上走出枝がない。稈(かん)は直立し高さ1~3メートル、節に開出毛がない。葉は下垂し、大形で長披針(ちょうひしん)形、長さ約50センチメートル。円錐(えんすい)花序は頂生して大形、長さ15~40センチメートル。小穂は長さ10~17ミリメートル、紫色を帯びるが、のちに褐色になる。包穎(ほうえい)は3~5ミリメートルで、第1包穎は小花の2分の1より短い。日本全土の水辺に群生し、世界の暖帯から亜寒帯にかけて分布する。若芽は食用され、稈(かん)は「よしず」をつくる。ヨシ属の小穂は数個の小花からなり、基盤が小軸状に延長し、長い白毛束がある。セイタカヨシ(セイコノヨシ)P. karka (Retz.) Trin.は小穂が5~8ミリメートルしかなく、沖縄、台湾、中国大陸南部などにみられる。ツルヨシP. japonicus Steud.は地上走出枝があるので区別できる。
[許 建 昌 2019年8月20日]
文学作品には、早く記紀など、日本神話で葦原の中つ国が日本の呼称として用いられた。『万葉集』から数多く詠まれ、とくに難波(なにわ)の景物として知られていて、数奇な運命をたどった夫婦の姿を伝える芦刈説話は、『大和(やまと)物語』『今昔物語』や謠曲の『芦刈』と受け継がれている。
[小町谷照彦 2019年8月20日]
利用
日本でアシと訳されたものの多くは別の植物のことをさしている。たとえば葦舟はエジプトではカヤツリグサ科のパピルス(カミガヤツリ)を使い、またアンデスのティティカカ湖ではウルー・インディオが、同じカヤツリグサ科のトトラScirpus totora (Nee et Meyen) Kunth.を束ねてつくる。ウルー・インディオはさらにトトラの束を組み合わせて家も建てる。アンデスの芦笛はイネ科のダンチクが用いられている。
[湯浅浩史]