イカ(烏賊)(読み)いか(英語表記)squid

翻訳|squid

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イカ(烏賊)」の意味・わかりやすい解説

イカ(烏賊)
いか / 烏賊
squid
cuttlefish

軟体動物門頭足綱のうちコウイカ目およびツツイカ目に属する動物の総称。体は胴、頭、腕(足)部の3部からなる。胴は袋状の外套膜(がいとうまく)に包まれた内臓塊からなり、外套膜と内臓の間の空間は外套腔(こう)で、ここに1対のえらがあり、その基部にえら心臓がある。生殖物質も排出物も外套腔から管状の漏斗(ろうと)を通じて外界に排出される。コウイカ目sepioidea中のコウイカ属などでは外套膜の背側に石灰質で舟形の貝殻が埋まっているが、ツツイカ目Teuthoideaでは薄質で透明なヤナギの葉形をした膠質(こうしつ)の軟甲がある。後方には菱(ひし)形や丸形のひれがあり、種類によっては外套膜側縁全長に及ぶ。頭部には大きく発達した目が両側にあって、腕が頭部から直接生えている。腹側にある漏斗は腕と相同の器官で、排出機能のほか、外套腔内の水を噴射して推進するのに役だつ。漏斗の側部には、外套膜に包まれた胴部と接着するための軟骨器(ソケット)があり、ここに外套膜の内側にある軟骨器(ボタン)がはまっている。頸(くび)は背中側でも外套膜と連結していて、背中線上に頸(けい)軟骨がある。腕は形の似た4対の通常腕のほか、第3腕と第4腕(腹腕)の間からでる1対の触腕があり、計5対あるのが普通である。

 触腕はコウイカ目ではポケット内に収められているが、ツツイカ目では常時は短縮していて攻撃捕食などの場合にのみ伸長する。触腕の掌部は多少広がっていて2列以上の吸盤がある。通常腕の吸盤とともに触腕の吸盤も柄のついたカップ状で中にキチン質の環がはまっており、その内縁にある小歯によって他のものに吸着する。ときには吸盤が鉤(かぎ)状に変形している種類もある。

 腕に囲まれて中央部にある口には上下によく発達した顎板(がくばん)があり、その形から俗に「からす・とんび」といわれる(英語では「オウムの嘴(くちばし)」という)。口の中には歯舌があって、普通7個の小歯が1横列に並び、これが連なってひも状になっている。食道にはそ嚢があり、胃は体の最後部にあって、肝臓などの輸管がある。腸は短く肝臓の上にあり、直腸の背面には墨汁嚢(ぼくじゅうのう)があって、身に危険が迫ったときは漏斗から噴出する墨汁をおとりにして敵の目標をそらす。頭部には脳があり、頭蓋(とうがい)軟骨で包まれている。雌雄異体で雄の腕のうちいずれか1本または2本が変形して交接腕になっていて、これで精莢(せいきょう)を雌に渡す。雌はこれを種類によって口唇、囲口膜、頸(けい)部、輸卵管入口、外套膜上などで受け取り、産卵に際して活性化した精子を使う。卵は普通卵嚢(らんのう)に入れて産出されるが卵黄が大きく、外套長60センチメートルになるコブシメSepia latimanus(コウイカ科)では、直径1センチメートルを超える無脊椎(むせきつい)動物中最大の卵を産む。卵割は盤割(ばんかつ)に近く直達発生で、孵化(ふか)時は親のミニチュアとしてでてきて、幼生期を通らず、変態もしない。

[奥谷喬司]

生態

イカ類はすべて海産で、沿岸帯から深海まですむ。最大の種はダイオウイカの1種アーキトゥティスArchiteuthis sp.で外套長6メートル、全長16メートルを超え、最小種はヒメイカIdiosepius pygmaeusで外套長1.6センチメートルぐらいである。浅海表層性の種は筋肉が発達して遊泳力に富み、ときには海面上を跳躍飛翔(ひしょう)するものまである。肉食性で、おもに甲殻類、魚類、イカ類を食べる。発光性の種もあり、沿岸性のケンサキイカLoligo edulisやミミイカEuprymna morseiなどは発光細菌を保持して発光するが、ホタルイカWatasenia scintillansやユウレイイカChiroteuthis imperatorなどには発光器があって自身で発光する。

[奥谷喬司]

漁業

イカ類は世界の海におよそ450~500種分布している。コウイカ目に属するものは俗にcuttlefishとよばれ、ツツイカ目のものはsquidとよばれる。日本を含むアジア地区のほかラテン系民族によって食用となっている。イカ漁業は日本がもっとも盛んで、とくにスルメイカTodarodes pacificusは単一種で年間60万トンを超えたこともあり、主要漁獲物である。スルメイカをはじめ、外洋性でイカ漁業の対象となるのは、アカイカOmmastrephes bartramiやトビイカSyplectoteuthis oualaniensisなどで、いずれも夜間に灯火をつけて擬餌鉤(ぎじばり)で釣り上げる。最近この漁法は自動化に伴い船も大形化し、遠くニュージーランド、大西洋にも出漁操業している。外洋性種に対し沿岸性のヤリイカ類は小規模な釣りの対象にもなるが、おもに産卵集群を対象として定置網底引網で漁獲される。コウイカ類には主として底引網が使われる。日中コウイカ類は海底に体を横たえているので、イカ用のトロールには浮かせるための仕掛けをつけて引く。日本近海ではコウイカSepia esculentaシリヤケイカSepiella japonica、カミナリイカSepia lycidas(おもに東シナ海)などが主要な漁獲対象であるが、遠洋の大型トロール漁船によってヨーロッパコウイカSepia officinalis(市場名モンゴウイカ、大西洋産)やトラフコウイカSepia pharaonis(同アデンモンゴウ、インド洋産)が大量に漁獲されている。マッコウクジラの胃中にみつかる大形のダイオウイカ類は、中層性の孤独性種であるのみならず、体内には浮遊のためのアンモニアイオンを多量に含み、人間の食用には適さない。

[奥谷喬司]

料理

烏賊の文字については、カラスが海に浮かんでいるイカを死んでいるものと思いついばむと、イカはカラスを海中に引き込んで食べてしまったので、烏賊をイカと読むようになったという伝説がある(『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』)。

 コウイカは墨袋が大きいのでスミイカの名もある。大きい種を市場ではモンゴウイカと総称する。また生鮮時には灰褐色の背面に白い斑点(はんてん)があるシリヤケイカを関西ではホシイカといっている。スルメイカやケンサキイカをマイカといっている地方もある。

 コウイカ類は胴部の肉が厚くて美味、刺身に多く用いられる。本州の中部以南、四国、九州に多く、4~5月ごろ味がよい。アオリイカは、背面に紺色の細点が多く、腹面は白い。外套(がいとう)長30~40センチメートルぐらいの大きさとなり、4~6月ころ産卵のため沿岸に近づく。肉はやや固いが、刺身にすると美味、すし種(だね)にもする。

 ヤリイカは体が細長く後端は鋭くとがっている。春に多くとれ、生食するが、肉は薄くて柔らかい。ケンサキイカは暖海に分布するが、日本海の能登(のと)半島付近にもみられる。するめにすると最上品といわれている。外皮とひれをとったするめを「みがきけんさき」、外皮だけとったものを「はんみがき」という。スルメイカは多くはするめに加工され、塩辛にもされ、イカのなかでも漁獲量はいちばん多い。ホタルイカは、身は小さいが味はよく、生食のほか加工品にされる。富山湾で漁獲され、漁期は初夏である。

 イカの郷土料理はいろいろあり、なかでも北海道渡島(おしま)総合振興局管内森町のいかめしは有名で、駅売りもしている。函館(はこだて)のいか鍋(なべ)はイカの塩辛で調味する鍋料理である。青森のイカの鉄砲焼きは、足とわたを刻んでみそで和(あ)え、胴内に詰めて焼く。富山のイカの墨作りは、イカの塩辛のなかにイカの墨汁を加えたもので、酒の肴(さかな)に好まれる。

[多田鉄之助]

民俗

中国の漁民の古い伝えでは、イカは秦(しん)の皇帝が海に捨てた算袋(さんたい)(筆や硯(すずり)を入れる携帯用の袋)が化したものといい、そのため形も似ているし、イカの体の中には墨があるという。朝鮮には、イカの骨は、100本の骨をもっていたフグから1本だけもらったものという伝えがある。日本には、イカの墨は蛇毒を解くという伝えがあり、イカがヘビの体に墨をかけるとずたずたに切れたという話もある。

 古来、するめは縁起のよい食品とされ、祝いの膳(ぜん)に付き物であったが、愛知県豊川(とよかわ)市の御津神社では、毎年4月17日に初漁の生きたイカを神に供えるイカ祭りがあり、氏子はその日までイカを食べることを禁じられていた。イカの神詣(まい)りの話もあり、島根県松江市の手間(てんま)島では、大みそかの晩に、集まったたくさんのイカを漁民が網でとるが、手間明神(矢田(やだ)町)に参詣(さんけい)を済ませたイカには背中に黒い点があると伝えている。

[小島瓔


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