キリスト教音楽(読み)キリストきょうおんがく(英語表記)Christian music

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

キリスト教音楽
キリストきょうおんがく
Christian music

キリスト教に関連をもつ音楽。どのような宗教も程度の差はあるがその典礼や行事に音楽を用い,また音楽によって信仰心を強化し表現しているが,なかでも特にキリスト教にはその傾向が著しい。キリスト教各派はそれぞれの教義,礼拝観などに応じて独自の音楽をもつ。 (1) 狭義の教会音楽 (礼拝用音楽) (a) 典礼文による典礼音楽。カトリックのミサ,レクイエム,聖務日課の音楽。ルター派教会の聖晩餐式,聖公会の聖晩餐式,早,晩祷,その他。 (b) 便宜に応じて礼拝中に組入れられうる音楽。カトリックのモテト,ルター派教会,聖公会などの教会カンタータアンセムなど。 (c) 典礼ではないが習慣的に一定の形式のある宗教行事のための音楽。カトリックのリタニア,聖体行列など。 (2) 広義の教会音楽 (a) 芸術音楽でキリスト教的内容をもつもの。オラトリオ,その他。 (b) 宗教的民謡。キャロル,ノエルなど。

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百科事典マイペディアの解説

キリスト教音楽【キリストきょうおんがく】

キリスト諸教会の典礼(礼拝)に用いられる教会音楽をさすほか,より広く,たとえばオラトリオ黒人霊歌のように,キリスト教信仰とのかかわりの中で誕生した音楽全般をもいう。初期キリスト教の発展の中で,エジプトのコプト聖歌,コンスタンティノープルを中心とするビザンティン聖歌など,東方教会の典礼聖歌は各地でそれぞれ特色ある様式を確立した。その伝統をくみながら独自の発達をとげたのが単声のグレゴリオ聖歌(ローマ典礼聖歌)で,これを基礎にヨーロッパでは多声音楽(ポリフォニー)の形式による宗教的声楽曲が発展,ミサ曲,オラトリオ,カンタータ受難曲,またオルガン曲(オルガン参照)などがそれぞれに完成された様式を整えていった。中でもジョスカン・デ・プレパレストリーナからベートーベンに至るミサ曲を生んだローマ・カトリック教会,シュッツやJ.S.バッハの作品に代表されるルター派のドイツ・プロテスタント教会が音楽上も二つの大きな流れをつくり,またパーセルアンセムヘンデルのオラトリオに代表されるアングリカン・チャーチ(英国国教会),D.S.ポルトニャンスキー〔1751-1825〕の無伴奏合唱コンチェルトに代表されるロシア正教会なども高い芸術的成果を残した。17世紀以降は本来の典礼の目的を離れ,演奏会や式典のために大規模なミサ曲が作曲されるようになり,ベートーベンの《荘厳ミサ曲》,モーツァルトの《戴冠式ミサ曲》などの名曲が誕生,シューベルトベルリオーズ,F.メンデルスゾーンベルディブルックナードボルジャークフォーレらの宗教曲がこれに続いた。19世紀以後,純粋な教会音楽は退潮傾向をたどったが,20世紀に入ってもストラビンスキーマルタンプーランクメシアン,デュリュフレ,また近年ではグバイドゥーリナペルトグレツキらの諸作にみられるように,キリスト教信仰を基盤にした作曲活動は西洋音楽史においてなおも重要な位置を占めている。→ブクステフーデマタイ受難曲

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世界大百科事典 第2版の解説

キリストきょうおんがく【キリスト教音楽】

キリスト教は世界に分布するさまざまな宗教の中でも,とくにすぐれた音楽的伝統をもち,高い芸術的レベルの音楽文化を育成した。ただし,他の宗教にも数多くの宗派宗旨があるように,キリスト教にも,カトリックとプロテスタントの二大教会の別があり,それぞれの内部に数多くの教派があって,音楽的伝統も一様ではない。芸術的に見た場合,それらの中でとくに重要なのは,パレストリーナやベートーベンのミサ曲によって代表されるローマ・カトリック教会,バッハのカンタータや受難曲によって代表されるルター派のドイツ福音主義教会,パーセルのアンセムやヘンデルのオラトリオによって代表される英国国教会,ボルトニャンスキー教会コンチェルトによって代表されるロシア正教会などである。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

キリスト教音楽
きりすときょうおんがく

音楽と宗教とのつながりは音楽の起源論の問題とされるほど密接であるが、とくにキリスト教との関係のなかでは注目すべき豊かな音楽の歴史が展開した。その原因の一つには、音楽は典礼を構成する不可分な要素であるとともに、民衆の参加に対し重要な役割を果たすとする、キリスト教の音楽観があげられるであろう。
 キリスト教がユダヤ教を母体として誕生したことはいうまでもないが、典礼に用いられる音楽も、当然ながら、そこから多くの遺産を受け継いだ。したがって、初期キリスト教の詩篇(しへん)唱や賛歌などの伝統や、その歌唱様式もユダヤ教の儀式のなかに起源している。ユダヤ教のそれらの音楽がもっていた特徴のいくつかは、キリスト教がヨーロッパの全域に弘布(こうふ)されたのちも、キリスト教聖歌の性格のなかに永久に残されることとなった。しかし一方では、実践的行為と深く結び付いた典礼音楽は、地域性や文化の違い、あるいは教義観の相違などによって規定され、外的には多様な表れ方をみせた。そこで、キリスト教がその長い歴史のなかで、ローマ・カトリック教会をはじめ、ギリシア正教会やロシア正教会などを代表とする東方諸正教会、ルター派やカルバン派をはじめとするプロテスタント諸教派、イングランド教会などの各派に枝分れしていくと、そこでは各派に独自の教会音楽がはぐくまれていくこととなった。そのなかで、ヨーロッパ音楽の歴史により大きな功績を残したのは、ローマ・カトリック教会とプロテスタント教会である。
 まずカトリック教会においては、中世に、ローマの政治・文化両面にわたる指導的地位の確立に伴い、ラテン語による典礼の統一および制定の努力がなされる。そしてその結果、正式な典礼聖歌として、グレゴリオ聖歌とよばれる単旋律の聖歌が編集された。その後、フランク王国による支持や記譜法の発達のおかげで、このグレゴリオ聖歌は北ヨーロッパに急速に普及していった。そして9世紀以来、初期ポリフォニーの技法によってグレゴリオ聖歌が編曲されていくことになるが、この試みこそ、西洋音楽が他の音楽と異なる重大な第一歩を意味するものである。その後ポリフォニーの技法が発展するに伴い、教会音楽にも優れた作品が加えられていくが、同時に世俗音楽の重要性が増大し、世俗的作品と宗教的作品の区別は、しばしば困難にもなっていった。それゆえ一時、カトリック教会の音楽に単純化および純粋化の動きがおこり、その成果もあって、16世紀には声楽ポリフォニーによって、グレゴリオ聖歌に次ぐ模範的教会音楽の形が示された。17世紀のバロック時代は、依然として従来のポリフォニーが支持されるとともに、新しい劇的な様式によるミサやモテット、レクイエムなどが生まれる。これらの曲種には以後の古典派、ロマン派、現代を通じて、名作が残されている。また、典礼のなかで機能的な役割を果たす典礼音楽と、オラトリオなどのように、宗教的題材に基づきながらも典礼での使用が意図されていない、非典礼音楽の区別がなされていった。全般的に古典派からロマン派にかけての時代には、教会音楽の創作は低調であった。しかし19世紀中ごろからは、教会音楽の復興運動が全世界的に広まるとともに、1962~65年の第二バチカン公会議における典礼刷新の決議によって、カトリック教会の音楽は新たな時代を迎えることとなった。以上のように、カトリック教会においては、人は教会を通して初めて救われるとし、聖職者による宗教儀式を通して神の恵みにあずかることができると考えられている。
 一方プロテスタント教会の場合、聖書に至上の権威が認められ、また信徒の救いは個人の信仰からくるとする、宗教改革の根本理念に基づいて典礼が構成された。
 ルター派では、神のことばが青少年をはじめすべての人々に受け入れられるように、コラールとよばれる自国語による簡潔な賛美歌が創作された。バロック時代、このコラールの旋律を素材としてオルガン曲、受難曲、カンタータなどの作品が多数作曲されている。
 カルバン派の場合は、典礼の革新運動はルター派以上に徹底していた。典礼は簡素な様式に改められ、ルター派同様自国語が使用された。音楽の神秘的な力を重視し、礼拝ではフランス語韻文訳詩篇歌の使用だけが許された。
 イングランド教会(聖公会)は、教義のうえでも典礼のうえでも、カトリック教会とプロテスタント諸派の折衷主義的性格をもつ。改革当初はアンセム(聖書あるいは他の宗教的テキストからとった英語の歌詞による合唱曲)などに芸術的作品が生み出されるとともに、詩篇やカンティクム(詩篇以外の聖書に含まれている歌)を歌うためのアングリカン・チャントが盛んとなった。また、カルバン派の詩篇韻文訳の導入が、英米系賛美歌の創作への原点となった。[磯部二郎]

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世界大百科事典内のキリスト教音楽の言及

【宗教音楽】より

…1000年の離散の間に,ユダヤ教徒の音楽はそれぞれの地方的特色をも加えながら,絶えずその優れた音楽性によって,人類の音楽文化に影響を与え続けている。
[キリスト教音楽]
 新約聖書における〈主の晩餐〉関係の記事やパウロの書簡などに散見する記述によって,当時のユダヤ教徒たちの歌がキリスト教の音楽の起源となったことは明らかである。しかし,ユダヤ起源の音楽と並んで,古代ギリシア・ローマの音楽文化との結びつきも重要であった。…

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