ドイツの天文学者ケプラーが発見した惑星の運動に関する三つの法則。ケプラーは師のティコ・ブラーエの観測結果などを整約(データを吟味、取捨、評価して整理し、より確かな資料を求めること)し、1609~1618年に発表した。
[大脇直明]
「惑星の軌道は太陽を焦点の一つとする楕円(だえん)である」――この法則の核心は、太陽が楕円の中心になく、焦点にあることである。このことは、太陽と惑星との間の力が引力で、かつ中心力であって、両天体の距離の2乗に反比例することに起因する。
[大脇直明]
「惑星と太陽とを結ぶ線分が等しい時間に掃く(横切る)面積は等しい」(面積速度一定の法則)――このことは、両天体に働く力には惑星の軌道に沿って働く力はなく、両天体を結ぶ線分に沿ってのみ働くこと(このような力を中心力という)を示し、中心力では角運動量保存則が成り立つことをいっている。
[大脇直明]
「惑星軌道の長半径(両天体間の平均距離でもある)の3乗は公転周期の2乗に比例する」――これも前述の引力と距離との関係を示している。
これらの3法則が成り立つときの両天体間の力はニュートンの万有引力であり、またそのときのみに成り立つことが理論的に証明される。このケプラーの法則はのちにニュートンらによる万有引力則や力学確立の基礎となったもので、歴史的にも重要な意義をもつ。第一法則はその後の力学により、「万有引力の下での軌道は太陽を焦点とする円錐(えんすい)曲線となる」と述べられるようになった。なお、当然のことであるが、この法則は他の天体系(たとえば連星系)でも成り立つ。とくに第三法則の比例定数は両天体の質量和に比例するので、連星の質量を求めるのに応用される。
[大脇直明]
『安楽岡雄三著『黄金数学 第3巻 宇宙科学と人間科学』(1989・創栄出版)』▽『G・W・F・ヘーゲル著、村上恭一訳『惑星軌道論』(1991・法政大学出版局)』▽『高橋憲明・広岡正彦著『力学――質点力学を中心にして』(1996・培風館)』▽『井田屋文夫著『物理学を味わう――コペルニクスの宇宙からマクスウェルの空間へ』(1997・大河出版)』▽『木下宙著『天体と軌道の力学』(1998・東京大学出版会)』▽『山本義隆著『磁力と重力の発見3 近代の始まり』(2003・みすず書房)』
惑星の運動に関してケプラーが発見した三つの法則で,惑星運動の法則ともいう。第1法則と第2法則は《新天文学》(1609)の中で,また第3法則は《世界の調和》第5巻(1619)で発表された。第1法則は〈楕円軌道の法則〉といわれ,惑星が太陽をその一つの焦点にもつ楕円軌道上を運動することをうたっている。古代ギリシアからプトレマイオスの天動説,コペルニクスの地動説に至る約2000年にわたるすべての天体運動論において,天体の軌道として円以外の曲線が考えられたことはかつてなかったことを考えると,ケプラーの第1法則のもつ意義は大きい。次に第2法則は〈面積速度の法則〉といわれ,惑星が太陽を公転するときに,太陽と惑星を結ぶ動径が一定の時間には一定の面積を描くことをうたっている(図)。したがって,楕円軌道上を運動する惑星は,動径の短い近日点の近くでは速く動き,動径の長い遠日点の近くでは遅く動く。最後の第3法則は〈調和法則〉といわれ,各惑星の半長径aの3乗と公転周期Pの2乗との比が惑星によらず一定であること,a3/P2=一定値をうたっている。ケプラーはこの第3法則を経験的に得たのだが,厳密にいうとa3/P2は各惑星で一定ではなくて,太陽と惑星との質量の和に比例してわずかに変動する。正しくはa3/P2=(G/4π2)(M+m)と表される。ここにGは万有引力定数,Mとmはそれぞれ太陽と惑星の質量である。この正しい法則はI.ニュートンによるものだが,これもケプラーの第3法則と呼ばれている。ケプラーの法則の力学的意味は,ニュートンによって明らかにされ,とくに第2法則は,惑星に働く力がつねに太陽に向かうこと,つまり惑星の運動が太陽の引力によることを示している。これに対して,第1,第3法則はどちらも,惑星に働く太陽の引力が,太陽と惑星の距離の2乗に反比例して変化することを示している。
執筆者:堀 源一郎
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