コウボウ(英語表記)Hierochloe odorata(L.)P.Beauv.

改訂新版 世界大百科事典 「コウボウ」の意味・わかりやすい解説

コウボウ
Hierochloe odorata(L.)P.Beauv.

丘陵地や山地草地に見るイネ科の多年草。コウボウは牧野富太郎によれば香茅の意味で,この草に一種の甘い芳香があることによるが,漢名の茅香や,英名のsweet grass,vanilla grassも同じ理由による。また,もう一つの英名holy grassは“聖なる草”の意味のラテン語の属名の直訳で,北ヨーロッパではキリスト教徒祭日に教会のまわりにこの草をまいたかつての習慣に由来する。地下に細長い根茎がある。茎は高さ30cmくらいで細く,葉は3枚くらいで,長さ10cmくらいの線形,白っぽい緑色で,細い毛がまばらに生える。初夏の頃,長さ6cmほどの円錐花序を出し,そのきわめて細い枝の先に淡緑色の小穂を数個ずつつける。小穂には半透明の薄い膜質の苞穎(ほうえい)と,3個の小花があるが,頂の1個の小花のみ結実する。植物体の芳香は含まれる精油のクマリンのためといわれる。ユーラシア,北アメリカなど北半球の温帯に広く分布し,アメリカのインディアンはコウボウで籠を編む。また,葉をウォッカに入れ芳香をつけたり,中国では穂を薬用とする。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「コウボウ」の意味・わかりやすい解説

コウボウ
こうぼう / 香茅
[学] Anthoxanthum nitens (Weber) Y.Schouten et Veldkamp var. sachalinense (Printz) Yonek.
Hierochloe odorata (L.) Beauv. var. pubescens Krylov

イネ科(APG分類:イネ科)の多年草。根茎は細長く横にはい、稈(かん)は直立して高さ20~50センチメートル。4~6月、稈の先に広卵形の円錐(えんすい)花序をつくり、まばらに小穂をつける。小穂はやや扁平(へんぺい)で、3個の小花があり、両側のものは雄性で褐色の毛があり、中央のものは両性で小さく、光沢がある。包穎(ほうえい)は膜質で幅広く、小花を包む。北海道から九州にかけてやや湿った砂質草地に生え、広く北半球の温帯に分布する。名は、全草が乾くとかすかな香気が漂うことによる。近縁のミヤマコウボウA. monticola (Bigel.) Veldkamp subsp. alpinum (Sw. ex Willd.)〔H. alpina (Sw.) Roem. et Schult.〕は葉舌が1~2ミリメートルしかなく、日本の高山およびユーラシア大陸の寒冷地帯に分布する。

[許 建 昌 2019年8月20日]


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