コレラ(読み)これら(その他表記)cholera

翻訳|cholera

精選版 日本国語大辞典 「コレラ」の意味・読み・例文・類語

コレラ

  1. 〘 名詞 〙 ( [オランダ語・英語] cholera [ドイツ語] Cholera 「古列亜」「虎列剌」「虎列拉」「虎烈剌」「虎狼痢」「酷烈辣」などと当てた ) 感染症法での二類感染症の一つ。コレラ菌の感染による。菌が水や飲食物とともに口から侵入して発病する。嘔吐と激しい下痢を繰り返し、水分が失われて衰弱をきたし、呼吸困難になる。皮膚がたるんでしわだらけのコレラ患者特有の顔となり、筋肉のけいれんを起こし、発病後一、二日で死亡することもある。コロリ。コロ。コレラ病。《 季語・夏 》 〔医語類聚(1872)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「コレラ」の意味・わかりやすい解説

コレラ
これら
cholera

コレラ菌の経口感染によっておこる急性下痢症。感染症予防・医療法(感染症法)で3類感染症に分類される。かつては世界保健機関(WHO)が指定した国際検疫感染症検疫伝染病)の一つであったが、2005年に改正された世界保健規則に基づき対応が要請されなくなったことから、2006年(平成18)に検疫法が改正され、翌07年6月に検疫感染症から除外された。

 1883年にコッホがエジプトで分離培養に成功したコレラ菌がコレラの原因菌で、ビブリオ属の基準種である。この菌はアジアコレラ菌または古典コレラ菌ともよばれ、もともとインドのガンジス川デルタ地帯の風土病として土着していたコレラの原因菌であるが、1817年以降、6回の世界的大流行を起こし、日本にも侵入した。このアジアコレラは大流行が終息すると流行地からまったく姿を消し、インドのベンガル地方にのみ小流行が残存することを繰り返していたが、1961年に始まったエルトールコレラによる7回目の流行期では、今日に至るまでアジア、アフリカ、南米地方で散発的な流行が続いて、コレラ菌はインド以外の地域にも定着し始めた。エルトールコレラ菌は1905年にシナイ半島の港町エルトールで分離培養されて命名された菌で、コレラの病原としては1937年にインドネシアセレベス島スラウェシ島)で流行をおこして知られたものである。

 なお、アジアコレラ菌とエルトールコレラ菌の差異は、後者が(1)ヒツジの赤血球を溶血する溶血素を産生する、(2)ファージⅣに抵抗性がある、(3)ポリミキシンに抵抗性があるという点だけで、他の性状は同じである。また日本の細菌学者により、抗原構造から血清学的に3型に分類される点も同じである。すなわち、エルトールコレラ菌も抗アジアコレラ菌群血清(O‐1)で凝集するが、その成分A、B、Cの組合せから原型(AC、稲葉型)、異型(AB、小川型)、中間型(ABC、彦島型)の3型に分類される。

 一般にエルトールコレラ菌によるコレラは、アジアコレラ菌によるものよりも症状が軽いことが多いが、両者ともにコレラとして国際検疫伝染病では同一に扱われる。

 コレラは、インド、インドネシア、フィリピンのほか、アフリカのいくつかの国に常在し、毎年数万人の患者が発生しているが、1991年にはペルーを中心とした南米にも流行が広がった。

[柳下徳雄]

症状

潜伏期は1~3日で、初発症状も主症状も嘔吐(おうと)と下痢、その結果生じる脱水による症状である。健康人の胃液中では数秒間で死滅するというコレラ菌が、経口摂取後に胃を通過して十二指腸へ達すると、ややアルカリ性を好むコレラ菌は猛烈に増殖し、1ミリリットル当り1000万から1億という菌数に達する。これらの菌が産生する菌体外毒素(コレラエンテロトキシン)が十二指腸以下の小腸粘膜に作用して水分と電解質の吸収を著しく妨げ、大量の水様下痢を誘発する。一般に発熱はなく、腹痛もあまりない。普通の下痢便で始まり、回数と量が増えるにつれて、便の色も、においもなくなり、米のとぎ汁様となる。下痢とともに嘔吐もみられるが、吐くときはいきなり噴出して苦痛を伴うことはない。1日20~30回、5~10リットルにも及ぶ水様便と嘔吐のために体液と電解質の喪失量がきわめて大きく、げっそりとやせた感じになる。すなわち、皮膚の弾力が低下し、つまむとそのままで元に戻らず、顔は目の周りや頬(ほお)がくぼみ、鼻や頬骨(きょうこつ)がとがる(コレラ顔貌(がんぼう))。皮膚は冷たくなり、手は湯水でふやけたようにしわだらけの外観を呈する。血圧が低下し、脈拍も頻数で微弱となり、手足はひどく冷たく感ずる。声もしわがれてくる。尿量が減少し、やがてなくなる。おもに下肢のけいれん(こむらがえり)がおこり、筋肉の痛みを訴える。こうした状態を呈していても意識は失われていないことが多い。一方では、こうしたコレラ特有の症状を伴わない軽症下痢(1日数回の軟便)患者や、まったく症状のみられない保菌状態だけのこともある。このような場合は、便の細菌検査なしには診断できない。

[柳下徳雄]

治療

重篤な状態に陥っても適切な輸液で水分と電解質を補給すれば、速やかに回復する。しかし治療の開始が遅れると、状態が不可逆的となり、重症例では死亡する。したがって、輸液のできる病院(感染症指定医療機関)にできるだけ早く入院させることが必要である。失われた水分量の目安としては、体重減少が利用される。10%以上減少していれば重症で約5000ミリリットル、8%以上なら中等度で4000ミリリットル、5%以上なら軽症で2500ミリリットルをそれぞれ2時間以内に補給する。輸液中でも下痢が続いて水分が失われるので、排便量や血漿(けっしょう)比重を測定して追加輸液を続けるが、テトラサイクリンアクロマイシン)やノルフロキサシン(バクシダール)などの抗生物質や抗菌剤は下痢と排菌の期間短縮に役だつが、脱水の改善には直接関与しない。電解質の補給には、成人と小児で水様便中の電解質濃度に差があるので、過不足のないよう補給量に注意する。とにかく輸液が治療の第一である。輸液療法が行われる以前は、致命率が50%に及ぶこともあったが、輸液療法が行われるようになってからは適切に治療が行われれば1%以下である。しかし、国によってまた流行によって差があり、世界の平均致命率は約10%である。

[柳下徳雄]

予防

かつては予防接種が重視されたが、ワクチンの効果は絶対ではなく、有効期間も3、4か月と短いため、1973年5月に国際衛生規則が改正され、流行地への出入の際の予防接種は強制されないことになった。また、コレラの免疫は一時的で、罹患(りかん)した人も数か月たてば再感染の可能性がある。したがってコレラの予防は、感染経路を断つこと、すなわちコレラ菌の経口侵入の機会を防ぐよりほかないわけで、流行地では、なま物などの飲食を避け、水道水も煮沸して用いたほうが安全である。

[柳下徳雄]

『山本俊一著『日本コレラ史』(1982・東京大学出版会)』『見市雅俊著『コレラの世界史』(1994・晶文社)』『竹田美文監・武田純一郎編著『腸管感染』(1998・アイカム)』

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改訂新版 世界大百科事典 「コレラ」の意味・わかりやすい解説

コレラ
cholera

コレラ菌によって起こる,きわめて伝染力の強い下痢疾患で,法定伝染病の一つであった。病原体であるコレラ菌Vibrio commaは欧文のコンマ(読点)状をしたグラム陰性の杆菌で,一端に1本の鞭毛(べんもう)をもち,幅0.5μm,長さ2μmくらいの大きさ。コレラ菌にはアジア型コレラ菌(または古典型コレラ菌)とエルトール型コレラ菌の2型があり,かつてのコレラは前者によるものが多かったが,近年のものは主としてエルトール型菌による。

コレラは,コレラ菌が産生するコレラ毒素(コレラエンテロトキシン)によって起こる下痢を主症状とする。経口的に摂取されたコレラ菌は,健康人の場合には通常胃液によって殺される。しかし胃を通過し小腸に達すると,盛んに増殖して毒素を産生し,腸粘膜上皮細胞膜の透過性を亢進させる。その結果,細胞内の水分および電解質は腸管腔へ多量に放出されて下痢の原因となる。発症までの潜伏期は24時間以内から5日で,通常1~2日である。重症の場合,腹部の不快感と不安感に続いて,突然の下痢と嘔吐で始まりショックに陥る。重篤な脱水症状を起こし,便は〈米のとぎ汁様〉で,白色ないし灰白色の水様便となり,多少の粘液が混じり,特有の甘くて生臭いにおいがある。下痢便の量は1日10lないし数十lに及ぶこともある。便回数も頻繁で,発症後24時間以内に最高に達する。通常,腹痛は訴えない。激しい脱水症状のために皮膚の弾力が失われ,血圧下降,脈拍微弱,チアノーゼを呈し,四肢は冷たくなる。指先の皮膚にはしわが寄り〈洗濯婦の手〉と呼ばれる外観を示すようになる。顔貌は目が落ち込み,ほおがくぼんで〈コレラ顔貌〉を呈する。四肢の筋肉がときおり痛みを伴う痙攣(けいれん)を起こす。意識は正常のことが多いが,ときには昏睡状態に陥ることがある。口のかわき,声がれを訴える。軽症の場合には,症状は2~5日で消失するが,下痢便は重症のときにみられるような典型的な水様便ではなく軟便であることが多い。下痢回数も1日数回程度である。

コレラを治療するには,まず大量に喪失した水分と電解質とを速やかに補給する必要がある。そのための輸液としては乳酸ソーダ加リンゲル液(ハルトマン液)が最もよい。また,それと併用して投与される抗生物質としてはテトラサイクリンが使われる。コレラ菌は糞便や吐物などとともに排出され,それに汚染された飲食物を摂取することによって感染する。したがって汚染地域では生水や生魚などを絶対に摂取しないことがたいせつであり,またコレラ菌は熱に弱い(60℃,30分で容易に死滅する)ので,すべて加熱処理した飲食物をとるべきである。なおワクチンもあるが,その効果は絶対的なものではないから,あまり期待してはいけない。

コレラは国際伝染病の花形であるが,ペストや天然痘や結核のように,歴史に長く記録された古顔でなく,19世紀に初めて国際舞台に登場してきた。コレラは元来インドのガンガー(ガンジス)川流域,とくに下ベンガル地域に盤踞していた風土病的性格の伝染病であった。ところが19世紀の近代文明の進歩,とりわけ交通の活発化とともに,国際交流の波に乗って文明諸国に流行していった。つまりコレラのパンデミー(世界的流行)は,いわば世界の〈近代化〉の一現象ともいえる。19世紀初頭から20世紀初頭にかけての約100年間,コレラはその故郷から数回にわたって飛び出し,近代化を急ぐ世界中の人々に手ひどい打撃をくりかえし与え,ペストの脅威をようやく忘れかけた文明人を再び伝染病の恐怖に震え上がらせた。とくにイギリスのインド経営および東南アジア進出が,コレラ・パンデミーの引金になったことは否定できない事実といえる。コレラ史の運命の年つまり1817年は,あたかもイギリスがインド支配に成功した第3次マラーター戦争の年でもあった。

 コレラの第1次パンデミー(1817-23)はカルカッタに始まり,北上したあと西進してシリアに達し,一方,東進したコレラは東南アジアを経て中国に進入し,その余波は1822年(文政5)日本に及び,日本最初のコレラ流行となった。続いて第2次パンデミー(1826-37)では,北進したコレラはついにロシアに進入し,南下してヨーロッパを襲い,イギリスを経てアメリカにまで渡り,太平洋岸に達し,世界制覇を遂げた。その後もパンデミーをくりかえし,第3次パンデミー(1840-60)は日本に達し,1858年(安政5)の大惨害を起こした。コッホがコレラ菌を発見するのは第5次パンデミー(1881-96)の時である。第6次パンデミー(1899-1926)まで,その原因菌として主流をなしたのはアジア型コレラ菌であったが,1961年から始まりすでに20年以上続いている第7次パンデミーは,エルトール型コレラ菌によるものである。これは61年インドネシアのセレベスを中心として広がり,東南アジア,アフリカの各地に毎年流行がみられている。

 1858年のコレラの大流行は〈安政コレラ〉ともいわれ,日本疫病史でも最大のものの一つに数えられる。オランダの医師ポンペが《日本滞在見聞記》に記録しているように,長崎に入港した米艦ミシシッピ号が持ち込んだ。病勢は激甚を極め,九州,四国から大坂,京都,江戸,さらに遠く箱館(函館)にまで及び,多数の死者を出したため,民衆は〈ころり〉と呼んで恐れた。江戸だけでも死者10万余あるいは26万余人を数えたという。幕末動乱の時だけに,コレラが朝野に与えた衝撃は深刻であった。ついで62年(文久2)の流行を経て明治維新を迎えるが,明治日本にとってコレラは国家社会の大問題となった。77年,79年,82年,86年,90年,91年,95年と絶えず大流行をくりかえし,明治44年間のコレラの総死者数は37万余,日清・日露の大戦の死者数をはるかに上回った。これに対し,明治政府は警察行政的に対処し,民衆の反感を買い,各地で〈コレラ一揆〉と呼ばれる騒擾事件が起こり,やがて条約改正による海港検疫権の確立とともに大流行は終息していった。〈コレラは衛生の母〉といわれるが,日本でもコレラは衛生行政の原点となった。

 第2次大戦後,日本では1946年いわゆる〈復員コレラ〉として戦地から引き揚げてきた兵士たちが持ち込んだコレラが流行し,死者560人にも達した。その後,日本からコレラは姿を消していたが,77年有田市,78年東京上野の池之端文化センターを中心とする流行,また神奈川県の鶴見川のコレラ菌汚染など,コレラ汚染地域からの旅行者,輸入食品の汚染が問題となり,輸入伝染病としてコレラが注目されるようになった。
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内科学 第10版 「コレラ」の解説

コレラ(Gram 陰性悍菌感染症)

(8)コレラ(cholera)
定義・概念
 血清群がO1群あるいはO139群に属し,コレラ毒素(cholera toxin)を産生するコレラ菌(Vibrio cholerae)の腸管感染症である.
原因
 コレラ菌はGram陰性桿菌で多くの血清群があるが,コレラとよぶ疾患を引き起こすのは,そのなかで血清群O1あるいはO139に属し,コレラ毒素を産生する菌である.O1群は古典型とエルトール型の2つの生物型に分けられ,さらに,抗原性の違いによって小川(Ogawa),稲葉(Inaba),彦島(Hikojima)の3血清型に分類される(Vibrio cholerae O1 El Tor Ogawaなどのように表記).血清群O139コレラ菌はベンガル型コレラ菌ともよばれる.O1群とO139群以外のコレラ菌や,コレラ毒素を産生しないコレラ菌の感染症はコレラとは診断しない.
 古典型コレラ菌とエルトール型コレラ菌はそれぞれの生物型に特異的なコレラ毒素(古典型コレラ毒素とエルトール型コレラ毒素)を産生する.しかし,1990年代前半から生物型はエルトール型であるが,古典型のコレラ毒素を産生するコレラ菌(エルトール変異型といわれる)が分離されるようになった.わが国でもコレラの輸入感染例から分離されるコレラ菌は,1995年以降にはエルトール変異型が主流になっている(森田ら,2011).
疫学・統計的事項
 現在は1961年にインドネシアから始まったエルトール型のO1コレラ菌による第7次流行の中にある.2006年から2010年までの統計によれば,この間に日本で報告されたコレラ患者総数は118人で,70%が海外感染,30%が国内感染である(国立感染症研究所感染症情報センター,2011).海外感染例では,インド,フィリピンなどアジア諸国で感染した患者が多数を占めている.
感染経路
 コレラ菌が混入した飲食物を介して経口的に感染する.
病態生理
 コレラ菌が腸管粘膜上皮細胞に接着し増殖する際に産生するコレラ毒素(エンテロトキシン)が本症の主原因と考えられている.コレラ毒素以外にコレラ菌はzonula occludens toxin,accessory cholera toxinなどのさまざまな種類の毒素も産生する.コレラ毒素は1分子のAサブユニットと標的細胞である腸管粘膜上皮細胞に接着するための5分子のBサブユニットから構成されている.腸管粘膜上皮細胞内に侵入したAサブユニットは種々の過程を経て細胞内のアデニル酸シクラーゼを活性化させ,さらにサイクリックAMP依存性プロテインキナーゼが活性化される.その結果,杯細胞からClイオンが分泌され,上皮細胞のNaイオンとClイオンの吸収も阻害されて下痢をきたすと推測されている(島田ら,2009).しかし,それ以外の機序を推測する考えもある.なお,コレラ菌は腸管の粘膜細胞内へ侵入しない.
臨床症状
 感染してから症状が出現するまでの潜伏期は1〜3日である.水様性下痢と嘔吐が主症状であるが,症状は症例によって軽症から重症までさまざまである.通常,血便や腹痛,発熱は伴わない.典型例では米のとぎ汁様の下痢がみられる.中等症例や重症例では大量の下痢により,カリウムをはじめとした電解質と水の喪失をきたし,脱水および代謝性アシドーシスの状態となる.重症例では痙攣や意識障害がみられる.輸入感染症としてのコレラはエルトール型によるものがほとんどで軽症例が多かったが,エルトール変異型の増加につれ,重症例の出現も考慮する必要がある.さらに,胃切除を受けた患者や胃酸分泌を抑制する薬剤を服用している患者では,そうではない患者に比べて重症化することがある.
検査成績
 一般的な血液検査でコレラに特異的な検査所見はない.
診断
 臨床症状から確定診断することは不可能で,患者の便や吐物からコレラ毒素産生能のある,またはコレラ毒素遺伝子を保有するO1群あるいはO139群コレラ菌を検出することで診断する.コレラ毒素産生に関する検査は各地の衛生研究所で行っている.
治療・予後
 輸液療法が重要で,中等症や重症例では脱水に対し経静脈的輸液を行う.重症例では大量の輸液を行う.軽症や中等症例に対し,電解質液にブドウ糖を加えた経口輸液(ORS)が使用され有用性が高い.感染者には抗菌薬を投与する.抗菌薬療法として,わが国ではフルオロキノロン系抗菌薬やテトラサイクリン系抗菌薬を3日間経口投与する方法が一般的である(成人患者への投与例:レボフロキサシン300~500 mg/回,1日1回,3日間経口投与,ミノサイクリン100 mg/回,1日2回,3日間経口投与など). 胃切除を受けた患者や胃酸分泌を抑制する薬剤を服用している患者では重症化し死亡することがあるが,現在の日本においては一般的に予後良好な疾患である. コレラの除菌確認については,抗菌薬投与終了後48時間以後に24時間以上の間隔で行った糞便の培養検査で,コレラ菌が連続して2回以上検出されなければ,コレラ菌を保有していないとみなされる.
予防
 ほかへの感染を防止する目的で,感染者には手洗いの励行を勧め,医療従事者も感染者診療後は手洗いを励行する.便や吐物で汚染された可能性のある物体に触れる際には手袋を着用し,手袋を脱いだ後に手洗いを行う.
 コレラが流行している地域で活動する予定がある人には,経口の不活化ワクチンを投与する方法もある.経口のコレラワクチンは国内では未認可であるが,いくつかの施設において自費で投与を受けることが可能である.
法的対応
 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(通称:感染症法)」により,コレラは三類感染症に指定されている.コレラの患者あるいは無症候性病原体保有者を診断した医師は直ちに保健所へ届け出を行うこととなっている.また,食中毒と診断した場合には,食品衛生法の規定に従い直ちに(24時間以内に)保健所へ届け出る必要がある.[大西健児]
■文献
国立感染症研究所感染症情報センター:コレラ 2006~2010年.病原微生物検出情報,32: 95-98, 2011.
森田昌知,泉谷秀昌,他:現在のコレラ流行株について.病原微生物検出情報,32: 99, 2011.
島田俊雄,荒川英二:Vibrio cholerae.食品由来感染症と食品微生物(仲西寿男・丸山 務監修),pp225-241, 中央法規,東京,2009.

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六訂版 家庭医学大全科 「コレラ」の解説

コレラ
Cholera
(感染症)

どんな感染症か

 コレラ毒素を産生するコレラ菌によって起こる急性胃腸炎です。菌に汚染された水や、加熱不十分な魚介類の飲食により感染します。現在では海外旅行でかかってくる人が大部分ですが、輸入食品を介して食中毒として発生することもあります。発展途上国では日常的に流行しており、WHO(世界保健機関)は検疫伝染病として監視していましたが、規則改正により2007年より対象からのぞかれました。

 1992年にはインドで新型コレラが発生し、日本にも持ち込まれました。感染症法では、国内でも発生状況の監視が必要な3類感染症に指定されています。

症状の現れ方

 典型的な場合には、2~3日の潜伏期間ののち、下痢と嘔吐で突然発病します。米のとぎ汁のような大量の下痢便が何回も出て、急激に体液を失い、脱水症状が現れます。腹痛はなく、体温はむしろ低下します。眼球が陥没し、声がかすれ、皮膚がしわしわになり、さらに進行すると意識障害やけいれんなどがみられ、死に至る場合があります。

 腹痛や発熱がないため、医療機関への受診が遅れる傾向があります。最近ではほとんどが軽症例ですが、高齢者、胃の手術後、胃潰瘍薬の服用などで胃酸が十分でない場合には、症状が重くなる傾向があります。

検査と診断

 下痢や嘔吐がひどい時は受診してください。

 便からコレラ菌を検出し、コレラ毒素をもっていることがわかった段階で診断されます。検査には少なくとも2~3日かかります。診断が確定したら医師は保健所に届け出ます。血液や尿の検査所見は脱水の程度により異なります。

治療の方法

 治療は輸液により全身状態を改善することと、抗菌薬により除菌を行い、下痢の期間を短縮させ、感染拡大を防止することです。

 とくに大切なのは輸液で、嘔吐や下痢がひどい場合には乳酸リンゲル液を静脈内に点滴で注入します。脱水が強い場合には1日に10ℓ以上の輸液が必要になることがあります。下痢がひどくなければ経口輸液として、スポーツ飲料を1日2~4ℓ飲用します。スポーツ飲料には薄い糖分と塩分が入っているので、腸から水分が吸収され、脱水に効果があります。

 抗菌薬は、下痢期間短縮、早期排菌停止に効果があります。ニューキノロン系薬、テトラサイクリンまたはミノサイクリンを短期間使います。子どもでこれらの薬が使えない場合には、WHOはエリスロマイシンを推奨しています。

予防のために

 菌は便のなかに排泄されるので、患者さん自身が手洗いを励行すれば他人への感染を予防できます。患者さんが排泄の介助を必要とする場合には、介助者が手洗いを励行します。

 ワクチンはありますが、その効果は十分とはいえず、海外での飲食物に注意するほうが賢明です。

相楽 裕子


コレラ
Cholera
(食中毒)

どんな食中毒か

 コレラ菌O1およびO139に汚染された水、魚介類、食品の摂取によって起こる下痢症です。保菌者の便、まれには患者さんの吐物も感染源になる可能性があります。

症状の現れ方

 突然発病し、発熱を伴わず、激しい水様下痢と嘔吐が起こります。水様便は便臭がなく、米のとぎ汁のように見えます。大量の水分と電解質が失われるので、典型的な例では、嗄声(させい)(しわがれ声)、無尿、排腸筋などの筋肉のけいれんが起こります。近年はこうした定型例よりも、極めて軽少なもの、あるいは無症状に経過する例のほうがはるかに多くみられます。

検査と診断

 新鮮な排泄便から選択培地を用いてコレラ菌を分離、同定します。

治療の方法

 水分および電解質が大量に失われている場合には、迅速かつ大量な輸液が必要になります。市販の輸液では乳酸加リンゲル液が適当です。経口的輸液としては、1ℓの飲料水にブドウ糖20.5g、NaCl3.5g、NaHCO3 2.5gおよびKCl1.5gを溶解したものが用いられます。

 抗菌薬による治療は下痢およびコレラ菌の便中排菌期間を著しく短縮させます。ニューキノロン系薬剤、テトラサイクリン系薬剤、エリスロマイシン系薬剤、ST合剤などが用いられます。

病気に気づいた時、予防のために

 下痢が強い場合には医師の診療を受け適切な治療をしてもらう必要があります。胃の切除および胃酸の低下のある人は、症状が重症化する恐れがあります。東南アジアなどのコレラ流行地に出かける場合には、生水、氷などの摂取には注意が必要で、加熱したものを食べることがすすめられます。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コレラ」の意味・わかりやすい解説

コレラ
cholera

コレラ菌による感染症。旧伝染病予防法法定伝染病の一つで,今日では感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律で 3類感染症に分類される。患者の排泄物など,コレラ菌で汚染されたものから経口感染する。アジアコレラ,エルトールコレラなどに分けられるが,今日ではエルトールコレラが流行の主体。潜伏期は 1~3日で,激しい水様性下痢を主症状とし,脱水症に陥る。治療としては,輸液のほか,抗生物質を投与する。海外渡航者を対象にした予防接種がある。サハラ以南のアフリカや南アジア,特にインドバングラデシュでときおり流行する。旅行者が国外感染して日本にも持ち込まれることもある(→輸入感染症)。1883年にロベルト・コッホがコレラ菌を発見し,感染源となる飲料水を汚染から守るなどの対策がとられるようになったが,過去 2世紀の間に 7回の世界的流行があった。日本では「ころり」(虎狼痢)とも称され,安政5(1858)年,1877~79年,1886年などに大流行,1877年以降,さまざまな防疫規則が施行された。

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家庭医学館 「コレラ」の解説

これら【コレラ Cholera】

[どんな病気か]
 食物にまじって、コレラ菌という細菌が経口感染(けいこうかんせん)する病気で、感染症予防法の2類感染症に指定されています。
●流行する季節
 熱帯では雨期、温帯では夏から秋にかけて流行しますが、海外旅行者や輸入食品によってもち込まれる日本などでは、季節的な傾向はありません。
[症状]
 コレラ菌が体内に入ってから、早ければ数時間、遅くても2~3日で発症します。
 症状は、嘔吐(おうと)と下痢(げり)で始まります。発熱と腹痛はないのが特徴です。
 軽症の場合は、1日数回ほどの下痢程度で、数日で治ります。
 重症の場合は、激しい嘔吐と下痢が、突然おこります。米のとぎ汁のような下痢便が、1日20~30回、十数ℓも出て、からだの水分がどんどん失われます。このため、脱水状態におちいって血圧が低下し、脈がほとんど触れなくなり、皮膚が冷たくなって、急に衰弱(すいじゃく)します。声がかすれるほか、皮膚がたるんでしわだらけになり、目がくぼんで頬骨(ほおぼね)や鼻すじが突出するコレラ特有の顔つきになります。
 ひどいときには、下肢(かし)(脚(あし))がけいれんして痛み、発病から1~2日で死亡することもあります。しかし、もちこたえれば、急速に回復に向かい、1~2週間で治ります。
[治療]
 2類感染症なので、状況に応じて入院します。治療は、医療保険と公費で行なわれ、自己負担はないのが原則です。
 点滴で水分を補給し、抗生物質を使用します。昔は、かかった人の50%の人が死亡しましたが、現在は1%以下です。
[予防]
 流行地では、生(なま)ものなどの飲食を避けます。予防注射もあります。

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百科事典マイペディア 「コレラ」の意味・わかりやすい解説

コレラ

法定伝染病及び国際検疫伝染病コレラ菌の経口感染による急性消化器系伝染病。中国南部およびインドに多く,時に他のアジア諸国に流行する。日本には1822年初めて侵入,以後しばしば流行し,死亡率が高いため,コロリと称せられた。激しい下痢,嘔吐(おうと)のため脱水状態に陥る。治療は体液の補給と抗生物質投与で,昔のように死亡する例はまれである。1960年代からエルトール菌(エルトール型コレラ菌)によるコレラが世界各地に流行しているが,臨床症状はほとんど同じである。ワクチンによる予防はあまり有効でない。流行地での生水,生ものの飲食をさけることが第一。近年,輸入食品の増加により,国内における感染例もみられる。
→関連項目感染症予防法疑似症細菌兵器予防接種

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栄養・生化学辞典 「コレラ」の解説

コレラ

 コレラ菌[Vibrio cholerae]によってもたらされる急性の消化器感染症.菌の生産するタンパク質毒素によって激しい下痢が起こり脱水症状で死亡する.

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世界大百科事典(旧版)内のコレラの言及

【ストヤノフ】より

…初期には象徴派詩人として《十字路の幻》(1914)などの詩集を出したが,バルカン戦争や第1次世界大戦を体験した後,しだいにリアリズムの立場へ移っていった。《マトフ大佐の銀婚式》(1933),戦争の悲惨さを描いた小説《コレラ》(1935)が有名である。社会主義政権成立後,作家同盟会長,科学アカデミー付属文学研究所長などを歴任した。…

【医学】より

…15~16世紀にイギリスだけを襲った奇病,イギリス発汗熱,また16世紀以降とくに戦争の折,および平時では監獄でしばしば流行した発疹チフス,それに1493年アメリカ発見の航海から帰ったコロンブスの一行によってもちこまれた梅毒も,たちまちヨーロッパをまきこんだ。インドのベンガル地域の地方病コレラが,19世紀には6回にわたって世界的な大流行をおこした。このような大流行に対して,治療医学はほとんどなすべき手段をもたなかった。…

【霍乱】より

…乾霍乱,熱霍乱,寒霍乱など種々の病名が記載されている。病状からみてコレラや細菌性食中毒などを含む急性消化器疾患と考えられる。現在の中国語では霍乱とはコレラのことである。…

【上水道】より

…その清濁各社競合状況の中で,チェルシー水道会社が実用に耐える砂ろ過技術を開発し,揚水した河水を大量にまとめてろ過してから配る水道を完成したのは1829年であったが,これにならう会社は少なかった。 30年代からコレラが頻繁に流行した。50年ころから,コレラは汚染された飲水により感染すること,河水でもろ過水の供給を受けている地域では患者数と死亡率がともに低いことが経験的に知られ出した。…

※「コレラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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