翻訳|sonnet
ヨーロッパの抒情詩における伝統的な詩型の一つ。小曲もしくは十四行詩と訳される。語源は不明だが,おそらく〈小さな歌〉の意で,民間歌謡を起源とするらしいが,13世紀末ころからイタリアで定型詩として確立された。ダンテは《新生》の中で初期のソネットの作例を示すが,とりわけペトラルカがこれを多用したのが名高く,彼の影響(ペトラルキスモ)とともに,この詩型もヨーロッパ全土にひろまって,とくに恋愛詩に用いられた。フランスでは16世紀にクレマン・マロがこれを導入して以来,デュ・ベレー,ロンサールらのプレイヤード派によってフランス風ソネsonnetが完成され,17世紀には宮廷やサロンを中心に流行した。その後衰えたが19世紀半ばから復活,高踏派の詩人たちをはじめ,ボードレール,マラルメ,ベルレーヌ,エレディア,バレリーらがすぐれた作例を示した。イギリスではシェークスピアが《ソネット集》においてイギリス風もしくはシェークスピア風ソネットを定着させ,ミルトンらを経て19世紀にはワーズワース,キーツ,D.G.ロセッティらがこの形式を用い,とりわけエリザベス・ブラウニングの《ポルトガル女のソネット》が名高い。ほかに16世紀には,イタリアではミケランジェロ,スペインではボスカン,ポルトガルではカモンイスらがこれを愛用した。ドイツではゲーテらの作例があり,20世紀に入ってはリルケの《オルフォイスにささげるソネット》がある。
ソネットの形式は,等韻律の詩句を四行詩2連,三行詩2連の順に並べるもので,脚韻はABBA,ABBA,CCD,EDE(またはEED)と配置するのが最も厳密な形とされ,ボアローが〈完璧なソネ一編は長詩に匹敵する〉と述べたほどの圧縮洗練された形式美を示す。また最後の1行には,一編の結びとして,とりわけ鮮やかで水際だった詩句が求められる。しかし西欧の詩としては比較的短い形式なので,実際には幾編もの連作として発表されることが多い。初期のイタリアではABBA,ABBA,CDC,CDC(またはCDE,CDE)の韻が用いられた。またシェークスピアのそれは,ABAB,CDCD,EFEF,GGの形をとり,四行詩3節のあとへ二行詩1節を添えたようになっている。
日本では明治末に蒲原有明や薄田泣菫がヨーロッパ詩の影響下にソネットを試み,みごとな形式美をもつ作品を残したが,脚韻配置までは手が届かなかった。昭和期には立原道造のソネットが名高いが,これは事実上自由詩に近く,わずかに様式へのあこがれを示したものと見るべきだろう。しかし,その清新で繊細な抒情はこの詩型にふさわしいものとなった。第2次大戦直後に刊行されたマチネ・ポエティク(中村真一郎,福永武彦ら)の詩作には押韻ソネットの試みが見られる。現代では谷川俊太郎に詩集《六十二のソネット》がある。
→抒情詩
執筆者:安藤 元雄
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14行からなる代表的定型詩。13世紀イタリア民謡が原形で、その美しいメロディーによって恋歌に頻用され、とくにペトラルカ、ダンテらにより完成をみてから、ルネサンス期ヨーロッパ一円に流行。構成は4行、4行のオクターブ、3行、3行のセステットで、あわせて14行。1行は、イタリアで11音節、フランスで12音節、イギリスで10音節からなり、脚韻はペトラルカ方式では、abbaと厳しい制約がある。内容的には、一つの詩想を歌い上げ起承転結の節目正しい一つのまとまりにつくりあげる。その構成は、まず主題が出され、次に展開があり、一転して新しい詩想が導入され、エピグラム風の力ある帰結を迎える。恋愛詩が多く、数十の連作となることもある。
ペトラルカの『カンツォニエーレ』がもっとも優美な作として知られ、フランスのロンサール、ドイツのシュレーゲルらも秀作を残している。イギリスには16世紀初期に導入され、シェークスピアによってイギリス風韻律ababがくふうされ、ミルトン、ワーズワース、キーツ、ブラウニング夫人ら後継詩人の作も多い。日本でも蒲原有明(かんばらありあけ)、上田敏(びん)らによる実験的試作があるが、日本語の押韻のない言語的性格から、ソネットはあまり発展をみていない。
[船戸英夫]
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…また,華麗な文体で書かれたジョン・リリーの恋愛物語《ユーフュイーズ》やフィリップ・シドニーの牧歌的ロマンス《アーケイディア》はイギリス最初の小説として,1611年に公刊された《欽定訳聖書》とともに,文学史上特記さるべき地位を保っている。詩の分野では,絵画的描写と音楽美にあふれたエドマンド・スペンサーの長大な寓意叙事詩《神仙女王》が名高いが,ソネットをはじめとするさまざまな詩形の短い抒情詩も流行した。17世紀にはいると,当時の新旧思想の対立を背景に知的奇想と逆説的機智を特徴とするいわゆる〈形而上詩〉が盛んになり,それを代表するジョン・ダンの詩は20世紀初頭の近代詩運動に大きな影響を及ぼした。…
…作品の主題は主として〈宮廷風恋愛〉であり,高貴な婦人への思いが歌われたが,愛の性質・様態をめぐる観念的・自然科学的詮索が好んで行われた。詩型としてはカンツォーネが多く,またそれと並んでソネットが用いられ始めたのが注目される。同派の作品は知的技法に基づき,主題的・文体的にきわめて様式化されている点が特徴である。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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