混濁流(乱泥流ともいう)によって深海底に運ばれた陸源性の堆積物をいい,乱泥流堆積物ともいう。普通の海底堆積物は陸源砕屑物(砂,泥など)や海中の生物の遺骸が一粒また一粒と,ゆっくりとではあるが次々と長時間かけて沈積してできたものである。このようにして浅海底,特に比較的急な斜面に堆積した物質が,地震,暴風,洪水などの衝撃によって不安定となり,海水を巻き込んで海底に沿って下方に動き出す。この砂,泥と海水の混合した密度の高い流れを混濁流あるいは乱泥流という。この流れは海谷を生じる原因としてR.A.デーリーが1936年に想像したものであるが,1929年のグランド・バンクス地震その他の大地震による海底電線の切断により,実在すると考えられている。また深海底で採取された多くの柱状堆積物では泥の中に砂層(深海砂と呼ぶ)が挟まれており,その砂中に浅海底にすむ生物(有孔虫など)の死殻が多く発見されている。その堆積物の粒度変化をみると,砂層とその下の泥との間に著しい変化があるのに,砂層とその上の泥との間では徐々に上方に細粒となっている(分級堆積graded beddingという)。これらの事実は浅海堆積物が深海底に二次的に移動・堆積したことを証明している。最近は音波探査による深海底の調査が進み,大陸斜面上の平坦面や大陸斜面のふもとに広く発達する深海平原の堆積物は“音響的に不透明な層”であって,これは泥層と砂層が交互に堆積していることを示し,また深海砂が何層も採取されている。しかし深海平原の周囲の高い所には深海砂は分布していない。個々の深海砂(典型的なタービダイト)の厚さは,混濁流の中軸付近では厚く(ときに数m),粒度も粗いが,軸を離れる(100km以上の場合あり)につれて薄く(1cm以下),細粒となり,ついに消滅する。
このようにして,混濁流の海底浸食作用(結果として海谷を生じる)は意義が薄くなり,逆に既成の海谷を通って深海底の凹所を埋める運搬・堆積作用(結果として平坦面を生じる)が重要視されている。したがって,タービダイトの分布は深海平原の分布とかなり一致し(典型的なものはアラスカ湾,カリフォルニア沖,大西洋の両岸),堆積物の供給源である大陸と大洋底の間に堆積物の移動を妨げる島弧や海溝のない所に分布するようである。
執筆者:内尾 高保
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…この堆積物重力流のうち,混濁流とは,粘着性粒子(粘土)と非粘着性粒子(砂,礫(れき))の混合物で,粘着力が有効に働かない程度の粘土含有率を示すものである。その堆積物は基底部で粒径が大きく,上方へ向かい細粒化する級化層理を示し,タービダイトと呼ばれる。粒子流は非粘着性の砂または礫のみを含む。…
※「タービダイト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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