スズメ目ヒタキ科ツグミ亜科の鳥。シベリア北東部の林で繁殖し,中国や日本で越冬する。全長約24cm。上面は暗褐色で,眉は白い。下面は白っぽく,胸とわき腹に黒斑がある。翼は明るい褐色。雌雄同色。日本には10月ころ渡来する。渡来当初は比較的大きな群れで生活し,木の実を食べることが多い。しかし,しだいに分散し,農耕地,河原,明るい林などで数羽の群れか単独で生活するようになる。地上で数歩足早に歩いて立ち止まり,昆虫などの小動物をつかまえて食べる。都会の公園や住宅地でもふつうに見られ,餌台に熟したカキやパンくずを置いてやると喜んで食べる。驚いたときなどに,クェックェッという声をよく出す。渡去する前の4~5月ころには,美しい声でのびやかにポピリョン,ポピリョン,キョロキョロなどとさえずることがある。繁殖地では深いやぶの中の1m以下の高さの枝か地上に枯草で巣をつくり,5~6月に1腹4~5個の卵を産む。
第2次世界大戦前には,山の尾根などにときには数kmも霞網を張りめぐらして,渡来してまだ大群で移動しているツグミを食用のために大量に捕獲していた。その数は狩猟統計によれば,多い年で400万羽以上に達した。大正時代から霞網猟の禁止が一部有識者から唱えられていたが,実際に禁止になったのは1947年であった。しかしその後も密猟があとを絶たないので,自然保護などの面から社会問題化している。
広義には,ツグミ属Turdus(約90種)およびその近縁の属の鳥の総称としてツグミということがある。ツグミ類は日本に8種分布する。そのうち,トラツグミ,マミジロ,クロツグミ,アカハラ,アカコッコの5種が繁殖し,ツグミとシロハラが冬鳥として渡ってくる。またマミチャジナイが春秋に通過する。
ツグミ亜科Turdinaeは両極とニュージーランドを除く世界全域の陸地に広く分布し,降雨林から砂漠,ツンドラに至る幅広い環境にすむ。日本には上記の8種のほか,コマドリ,アカヒゲ,ノゴマ,コルリ,ジョウビタキ,ルリビタキ,イソヒヨドリなどが見られる。
執筆者:竹下 信雄
茂みに隠れて鳴くツグミは内気の象徴で,孤独な隠者にも擬せられる。しかし春告げ鳥のうちでももっとも美しい声をもち,そのさえずりによって人々に恋心を芽ばえさせるといわれる。なかでもウタツグミやクロウタドリは古代ローマ時代から愛玩され,また美味な食物とされた。イギリスでは〈ツグミのパイ〉と称して,大きなパイの中に封じ込め殺さずに焼きあげた王族用の料理があったといわれ,パイを切るとツグミが飛びだすのを楽しんだ習俗が童謡《マザーグースの歌》にも出てくる。
執筆者:荒俣 宏
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広義には鳥綱スズメ目ヒタキ科ツグミ亜科に属する鳥の総称で、狭義にはそのうちのツグミ属をさし、さらに狭義にはそのうちの1種をさす。ツグミ亜科Turdinaeは、コマドリなど小形の種からトラツグミなどやや大形の種まで310種を含み、嘴(くちばし)や尾の長さと形から全体の容姿に至るまで際だった特徴がなく、標準的な小鳥の形をもっている。雌雄異色の種が多く、雄は特徴のある美しい声でさえずる。ヒタキ科のなかではもっとも地上性で、地上で昆虫など小動物を採食するが、木の実も食べる。ツグミ属Turdusは大形の約60種からなり、世界中に分布する。ミミズを好んで食べる種が多い。
種としてのツグミT. naumanniは、この属の代表的な1種で、エニセイ川より東のアジア大陸に繁殖分布し、中国、朝鮮半島、日本などで越冬する。全長約24センチメートル。雌雄同色。上面は黒褐色で、赤褐色の斑紋(はんもん)がある。のどと眉斑(びはん)は淡黄白色。胸には黒い横帯があり、白い腹には黒い三角形の斑が散在する。日本へは、10月ごろ大きな群れで多数渡来し、山地の木の実を求めて群れで移動する。冬には群れは分解して、耕地や川原など開けた場所で単独で生活するようになる。5月に小群をつくり、渡り去る。1947年(昭和22)まで認められていたかすみ網猟は、秋にさえずるように仕立てたおとりのツグミなどを使い、毎年数百万羽のツグミを捕殺して、食用に供していた。現在は、かすみ網猟は禁止され、ツグミも狩猟鳥から除外されている。
[竹下信雄]
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