ドーピング(読み)どーぴんぐ(その他表記)doping

翻訳|doping

デジタル大辞泉 「ドーピング」の意味・読み・例文・類語

ドーピング(doping)

[名](スル)スポーツ選手が競技出場前に運動能力を増進させるための刺激剤・興奮剤などを服用すること。不正行為として禁止されている。→反ドーピング
半導体に不純物を添加すること。→ドーパント

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共同通信ニュース用語解説 「ドーピング」の解説

ドーピング

スポーツにおいて、禁止されている薬物や手段を使って競技力を高める行為。公平なスポーツの価値を損ない、選手の健康を害する恐れもある。世界反ドーピング機関(WADA)が禁止薬物のリストを毎年公表し、違反には成績抹消や資格停止などの処分が科される。通常はアスリートから尿と血液を採取して分析する。遺伝子を扱う技術の発展に伴い、特定の遺伝子を体内に入れて身体機能を増強する「遺伝子ドーピング」への懸念も高まっている。

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精選版 日本国語大辞典 「ドーピング」の意味・読み・例文・類語

ドーピング

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] doping ) 各種の運動競技で、出場選手が運動能力を増進させるために、事前に興奮剤・刺激剤を服用すること。不正行為として禁止されている。→ドープ‐チェック

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドーピング」の意味・わかりやすい解説

ドーピング(スポーツ)
どーぴんぐ
doping

スポーツにおいて、禁止された薬物や方法を不正に使用すること。ドーピングの語源は、南部アフリカの先住民が祭礼のときに飲む強い酒ドープdopとの説がある。ドーピングを禁止して根絶する活動をアンチ・ドーピングanti-doping活動という。「anti-doping」の日本語訳は「アンチ・ドーピング」あるいは「ドーピング防止」が使われる。2013年時点の代表的な禁止物質には、筋肉増強作用のある「蛋白(たんぱく)同化男性化ステロイド薬」(男性ホルモンを含む)、持久力を向上させる「エリスロポエチン」、筋肉などの成長と代謝を向上させる「成長ホルモン」、他の禁止物質の使用を隠蔽(いんぺい)する作用のある「利尿薬」、興奮作用のある「興奮薬」などがあり、禁止方法としては、持久力を増加させる「輸血」(自己血輸血を含む)、隠蔽作用がある「点滴静注」、競技能力を高める可能性のある「遺伝子ドーピング」などがある。禁止物質と禁止方法は毎年見直されるが、近年は大きな変更は少ない。

[赤間高雄]

ドーピングとアンチ・ドーピング活動の歴史

スポーツにおけるドーピングは19世紀後半から記録されている。1960年のオリンピック・ローマ大会で興奮薬使用による自転車競技選手の死亡事故が起こり、選手の健康を守る観点からオリンピックにおけるドーピング規制が議論され、1968年の冬季オリンピック・グルノーブル大会と夏季メキシコ大会から正式にドーピング検査が実施されるようになった。しかし、その後もドーピングは後を絶たず、1988年ソウル大会の陸上男子100メートルで驚異的な記録を出したベン・ジョンソンBen Johnson(1961― )が蛋白同化男性化ステロイド薬の検出によって金メダルを剥奪(はくだつ)された。2004年のアテネ大会では男子ハンマー投げのアヌシュAnnus Adrián(1973― )がドーピング違反によって金メダルを剥奪され、日本の室伏広治(むろふしこうじ)(1974― )が繰り上がりで金メダルを獲得したことは、クリーンな選手の権利がアンチ・ドーピング活動によって守られた例である。

[赤間高雄]

ドーピングが禁止される理由

スポーツはフェアプレーを基本として一定のルールのもとで正々堂々と勝敗を競うから、人々はスポーツに価値や魅力を感じる。ドーピングはそういったスポーツの価値を損なわせる行為であるから禁止されているのである。アンチ・ドーピング活動はスポーツの価値やスポーツの完全性sport's integrityを守るために行われている。また、ドーピングとして使用される薬物はさまざまな副作用を引き起こすので、選手の健康を守る観点からもドーピングを禁止する必要がある。そして、ドーピングは薬物乱用を助長して社会的な悪影響があることからも禁止されている。

[赤間高雄]

現在のアンチ・ドーピング活動

現在のアンチ・ドーピング活動は、1999年に設立された世界ドーピング防止機構World Anti-Doping Agency(WADA)に、ほぼすべてのスポーツ競技と世界各国が加盟して、統一された世界共通の規則のもとで実施されている。日本はWADAの常任理事国で、2006年(平成18)に「スポーツにおけるドーピングの防止に関する国際規約」を締結し、2011年に施行された「スポーツ基本法」において、国は日本アンチ・ドーピング機構(JADA)と連携してアンチ・ドーピング活動を推進するとされている。

 世界共通のアンチ・ドーピング規則としてWADAが策定したのが、世界ドーピング防止規程World Anti-Doping Code(WADA規程)である。WADA規程では、ドーピング検査陽性以外に、証言などによるドーピングの証明、ドーピング検査拒否、ドーピング検査妨害、共犯関係のスタッフの行為などもドーピングに該当するとしている。WADA規程には、より具体的な規則として、「禁止表」、「治療目的使用に係る除外措置Therapeutic Use Exemptions(TUE)」、「検査」、「プライバシーと個人情報の保護」、「分析機関」の五つに関する国際基準がある。

 禁止表はドーピング禁止物質と禁止方法のリストで、毎年改訂される。禁止物質や禁止方法とされる条件は、(1)競技能力を向上させる、(2)競技者の健康に害を及ぼす、(3)その使用がスポーツ精神に反するとWADAが判断する、の3要件のうち二つ以上を満たすことである。

 ドーピング検査には、競技会検査(おもに試合後に行われる検査)と競技会外検査(事前通知せずに練習場所や宿泊場所で実施される検査)がある。競技会検査では禁止表に掲載されたすべての禁止物質と禁止方法が対象となるが、競技会外検査では一部の禁止物質は対象外である。検査では、尿と血液のどちらかあるいは両方を検体として採取し、検体は分析機関に搬送されて禁止物質の有無が分析される。血液中や尿中の禁止物質を直接検出する検査方法に加えて、近年新しい検査方法として、アスリート・バイオロジカル・パスポートAthlete Biological Passport(ABP)が導入された。ABPは、もともと生理的に血液中や尿中に存在している物質を継続的に測定してその変動によって禁止物質や禁止方法を使用した結果を検出する方法で、従来の検査方法では検出がむずかしいエリスロポエチン、自己血輸血、成長ホルモンなどによるドーピングの摘発に有効と考えられている。

 競技者が病気の治療として禁止物質や禁止方法を使用する場合には、申請して承認されれば、治療目的の使用が許可される。その使用許可をTUEという。ドーピング検査で禁止物質が検出されても、その競技者がその禁止物質に対するTUEを取得していればドーピングとはならない。

[赤間高雄]

アンチ・ドーピング教育啓発

ドーピング検査で違反者を摘発するだけではドーピングは根絶できない。アンチ・ドーピング活動では、ユース世代へのアンチ・ドーピング教育啓発が重要となっている。日本の学校教育においては、高等学校学習指導要領にドーピングに関する記述が盛り込まれ、2013年度(平成25)から実施されている。

[赤間高雄]


ドーピング(元素)
どーぴんぐ
doping

金属材料学的には他元素を意識的に微量加え、母材の性質を制御すること。たとえば、半導体の電気的性質(n型、p型)は含有する不純物の種類とその量により決定されるので、高純度シリコンやゲルマニウムにドナー(電子供与体)あるいはアクセプター電子受容体)となる不純物(ドーパントdopant)を制御して少量加え、希望の半導体特性を保たせる。そのほか白熱灯用タングステンフィラメントの組織安定化のためにアルカリ金属を微量加えることもドーピングの一種である。

[及川 洪]

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改訂新版 世界大百科事典 「ドーピング」の意味・わかりやすい解説

ドーピング
doping

スポーツ選手が競技を行う際,体力を集中的に発揮させることを目的として,ある種の薬物の内服や注射などを行うこと。19世紀の中ごろから,試合に勝つために選手にいろいろな薬物などを投与することが広まってきた。初めは競走馬や競走犬に薬物を与えることをドーピングと呼んでいたが,それがスポーツ界でも用いられるようになった。ドーピングの方法としては,中枢神経興奮剤,交感神経興奮剤,麻薬鎮痛剤,精神安定剤(トランキライザー)などの薬物を投与するほかに,電気刺激などの物理的方法や催眠術,暗示などの心理的方法もあるが,現在は主として薬物などが用いられており,このときに用いられる薬物をドープdopeという。20世紀に入ってからドーピングによる選手の死亡事故その他の弊害が増加したため,ドーピングを規制する運動が起こった。1964年東京で開催されたスポーツ科学会議で〈ドーピングとは,選手の競技能力をたかめるために,人体に生理的に存在しない物質や,生理的物質であっても異常な量や方法でそれを選手に投与すること〉と定義され,国際オリンピック委員会(IOC)でも68年のオリンピアードからドーピングの検査を開始した。1997年現在,IOCではドーピング薬物と禁止方法として次のものをあげている。まず,禁止薬物として,(1)興奮剤,(2)麻薬鎮痛剤,(3)タンパク同化剤,(4)利尿剤,(5)ペプチドならびに糖タンパクホルモンとその同族体,次に,禁止方法として,(1)血液ドーピング,(2)薬理学的・化学的・物理的操作,そして,一定の規制の対象となる薬物として,(1)アルコール,(2)マリファナ,(3)局所麻酔剤,(4)コルチコステロイド,(5)β遮断剤である。検査は主として選手の尿をとって化学的に分析をする方法がとられる。ドーピング検査は従来競技会において行われていたが,近年はトレーニング期に使用するタンパク同化剤がドーピングの主役となったため,1980年代からはトレーニング期においても,タンパク同化剤を主な対象として抜きうち的に検査を行うことが多くなっている。
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百科事典マイペディア 「ドーピング」の意味・わかりやすい解説

ドーピング

(1)真性半導体に微量の不純物をまぜて不純物半導体をつくるとき,この不純物をまぜる操作をドーピングという。→半導体(2)スポーツ選手が競技能力や成績を高めるために薬物を使用することをいう。薬物には,筋肉増強剤興奮薬利尿薬など非常に多くの種類があるが,ステロイドホルモンを主とする筋肉増強剤が主流である。筋肉増強はすべてのスポーツに共通のメリットであるためか,この種のドーピングは後を絶たない。今のところ禁止対象薬物が増えても,似た効果を持つ薬物が新たに開発され,使用されるといった悪循環が続いている。競技の公平,スポーツの価値を損なうだけでなく,選手の体にも悪影響を及ぼす。なお,薬物を使用しない血液ドーピングも禁止されている。2005年10月の第33回ユネスコ総会において,ドーピングの撲滅を目指した〈アンチ・ドーピング条約〉が採択された。
→関連項目近代スポーツジョンソン

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ドーピング」の意味・わかりやすい解説

ドーピング
doping

スポーツ選手が試合に際し薬物を使用すること。スポーツ精神の立場と医学上の立場から,特にヨーロッパで薬物使用が問題とされ,1960年ローマ・オリンピック競技大会でデンマークの自転車選手がドーピングのために死亡した事故がきっかけとなって 1968年グルノーブル・オリンピック冬季競技大会から正式にドーピング検査が行なわれるようになった。薬物使用者は出場停止または失格となる。禁止薬物には,交感神経作動アミン,中枢神経刺激剤(→中枢興奮剤)や麻薬鎮痛剤(→鎮痛剤),筋肉増強剤のアナボリックステロイド(蛋白同化ホルモン),利尿剤などがある。1988年ソウル・オリンピック競技大会でカナダのベン・ジョンソンが陸上競技男子 100mで金メダルを獲得したものの,レース後のドーピング検査でアナボリックステロイドが検出され失格となって,世間の関心を集めた。一方で禁止薬物の成分は風邪薬などにも含まれており,知らずに服用して問題となる例もある。もとは競馬において,よい成績を上げるために競走馬に与える薬物をドープというところから用いられ始めたことばで,競馬では薬物の投与が発見されると入着は取り消され,その競走馬の関係者は処罰される。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

化学辞典 第2版 「ドーピング」の解説

ドーピング
ドーピング
doping

】半導体材料や導電性材料に少量の不純物(キャリヤー)を添加することにより電気的特性を制御することをいう.たとえば,ポリアセチレンは,わずかに電気を通す半導体的性質を示すが,ヨウ素をドープ(dope)すると,電気伝導率は1千万倍も増加し,銅と同じくらいの電気伝導率を示すようになる.多くの分子性導電体では,ドーピングにより導電体の電子数などを変化させて電気的特性を制御することができる.【】スポーツ競技において禁止薬物を使用する違反行為.[別用語参照]アナボリックステロイドエリトロポイエチンメタンフェタミン

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

知恵蔵 「ドーピング」の解説

ドーピング

禁止されている薬物を投与すること。ステロイドホルモンや成長ホルモンなどの筋肉増強剤が主流であり、テトラハイドロゲストリノン(THG)やデソクシメチルテストステロン(DMT)など、ホルモン剤の化学構造を部分変化させ合成したアナボリック・ステロイド(男性ホルモン作用をもつたんぱく質同化ステロイド)が近年主に使われている。このほか、興奮剤のエフェドラ(麻黄)は交感神経活動を活発化し、利尿作用もあるのでダイエットのために使用されることもある。また、造血ホルモンのエリスロポエチン(EPO)とその代替薬物となる貧血治療薬のダーベポエチン(DPO)は、スタミナ増強剤としてドーピングされてきた。世界アンチ・ドーピング機構(WADA)が中心になってドーピング抑制・教育・啓発活動を展開している。

(鈴木正成 早稲田大学スポーツ科学学術院特任教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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