翻訳|program
音楽,演劇,映画用語。プログラムという言葉は,本来,演奏会で演奏される曲目構成やさまざまな舞台芸術の公演における上演演目,上演次第,あるいは映画館での番組などを指す言葉であるが,日本のこれらの分野で定着した〈プログラム〉という言葉は,それよりもむしろ,演奏曲目とその周辺情報,あるいは上演(上映)演目とその周辺情報などを載せた小印刷物(英語ではチラシ,ビラの形態のものも含み,この意味ではplaybillともよばれる)を指すことが多い。例えば演奏会なら,その日時,会場,曲目,演奏者などが記載されるのが普通で,こうした基本的な情報のみを載せた紙が配布されるようになったのは,18世紀後半からといわれる。今日のような,楽曲解説等が書きこまれるようになったのは19世紀半ば以降のことである。印刷物の形態としても,一枚の紙,あるいは二つ折り4ページに印刷されたものから,しだいに小冊子(すなわちパンフレット。略して〈パンフ〉とも)の形式が普通となり,今日にいたっている。しかし,欧米では今日でも一部の大型音楽祭の総合プログラムを除くと,一般に簡素な作りのものが多く,その点で日本の場合は小さな音楽会でもプログラムは群を抜いて華美である。
なお,このような事情は演劇の場合もほぼ同様であると言ってよいが,日本ではかつて歌舞伎において〈番付〉が大いに発達したことは特筆される点である。
執筆者:成沢 玲子
かつての無声映画全盛時代,活動弁士として活躍した徳川夢声は,映画ではそれまでほとんど行われていなかったプログラムの作成・頒布というアイデアによって,大いにその声価を高めたといわれている。1917年(大正6),彼は東京・赤坂の葵館において,活弁の通例であった開映前の解説(=前説(まえせつ))を廃し,その代りに4ページ立ての解説プログラムを作成した。前説の多くは類型化し陳腐化していたから,この新しい試みは一種の〈知的な趣向〉として受け入れられ,また美文調ではない独特の語り口ともあいまって,夢声は大いにインテリ層の支持を集めることとなった。
この夢声のエピソードは,プログラムというものが持つ意味を考えるうえで興味深い。夢声はいわば事前解説の代りにプログラムを考えたわけであるが,そのような事情は今日も同様で,われわれ自身も映画や芝居を見る前にしばしばプログラムを求め,それによりこれから始まる物語や登場人物,役者についての予備知識を得るのであるし,そしてさらには見終えた後も,プログラムを利用することで映画や芝居の追体験をするのである。このことについてロシア出身の民俗学者・記号論学者P.ボガトゥイリョフは,小論《演劇の記号学》のなかで,演劇上演で舞台上の登場人物の性格づけを行うための手段として,台詞(せりふ),身ぶり,舞台衣裳などを基本的要素として挙げたうえで,さらに現代の演劇では〈印刷されたプログラムでその人物について記述するという,演劇的ではない,いわば文学的な手法が加わる〉と補足して述べている。
夢声のエピソードに示されるもう一つの重要な点は,プログラムが一種〈知的なもの〉,あるいは〈近代的なもの〉と考えられている点である。確かに,プログラムの発展と,演劇や音楽における近代的批評の発展とは,ある部分でつながりを持っているし,あるいは物理的な点から言えば,近代における種々の印刷メディアの興隆という背景をぬきにしては,プログラムの発展も考えにくい。だが,より根本的な問題として考えるべきことは,前説にせよプログラムにせよ,そもそもなぜ作品についての事前の解説が必要であるのかという点である。作品に即しての解説が必要となるのは,そこに多少とも作品の理解あるいは感得の上での障害を多くの人々が感じるからであり,このような状況は,人々が芝居を見るための前提としての共通意識,あるいは共同幻想を自然に保有している社会,またそのような共通の〈神話〉に依拠して芝居が行われる社会にあっては,想定しにくい状況である。江戸の歌舞伎全盛時代,あるいはヨーロッパ中世の受難劇の上演におけるように,演劇が〈民衆の祭壇〉として利用されている社会にあっては,作品は単に作品そのものとして提示されればよいのであって,興行者等が作品そのものに関する解説を流布することなどは,基本的には必要とされぬはずである(歌舞伎の番付は,そのようなものとは性質が異なる)。つまり,プログラム,あるいは広く〈解説文化〉の成立は,いろいろな意味での〈近代化〉という事態と深く関わっている。
このように考えるとき,近代の新しい発明である映画(特に日本に輸入された外国映画)において,事前・事後の多くの解説を必要としたことは,まったくよく理解できることだし(そしてそのような解説への欲求が,長く日本における映画批評の〈後進性〉をもたらす),また,必ずしも〈芝居好き〉とは言えない観客をかなり含む,団体客を中心とした今日の日本の大商業劇場公演において,数十ページにも及ぶ豪華なプログラムが興行上の重要な要素となっていることも,日本人の〈記念品〉としてのプログラム好き,大きな広告収入等々いろいろ理由はあるにせよ,少なくともその一因は,ここに見いだすことが可能であろう。
執筆者:川添 裕
コンピューターにおいて比較的単純で標準的な基本機能をあらかじめ命令として定めておき,これを組み合わせて所望の応用機能を実現する。コンピューターのハードウェアはこの基本機能を実行するが,その実行順序を定め所望の機能を実現する方法を記述したものがプログラムである。
ハードウェアで実行できる基本機能は加減乗除の四則演算,論理演算,ビットの取扱い,次に実行される命令の変更(ジャンプ),取り扱われるデータが正,負あるいは0であるなどの条件に応じた条件付きジャンプ命令などのきわめて単純なものである。このような単純な命令を組み合わせて,いかにして所望の複雑な機能を実現するかがプログラミングの問題である。
機械の実行する基本機能は二進数で表現されるが,この二進数もしくはそれと等価な八進数あるいは十六進数を使ってプログラムすることを機械語によるプログラムと呼ぶ。
二進数あるいは十六進数によるプログラムは人間には理解しにくいので,機械語に1対1に対応してわかりやすい名まえを命令に付与することによってプログラミングを容易にするのがアセンブリー言語である。アセンブリー言語で書いたプログラムは,プログラムの命令に1対1に対応して機械語に変換されて実行される。またアセンブリー言語では一連の命令系列に対して名まえをつけ,その名まえを指定するだけで,対応する一連の命令系列を生成することもでき,このような機能をマクロ機能と呼ぶ。
アセンブリー言語では機械語と1対1に対応した命令を使用したのに対して,より応用に適した基本機能を命令として定めておき,その組合せとしてプログラムを形成するようにしたのが,高級言語である。高級言語には科学技術用,事務処理用,自然言語の取扱い用など,想定する応用によって各種の言語が考案されている。高級言語で書かれたプログラムは一般にコンパイラーと呼ばれる変換プログラムによって機械語に変換されて実行されるのがふつうである。これとは別に高級言語で書かれたプログラムを1行ずつ読み,そのたびにその内容を解釈することによって実行する方式もあり,これをインタプリターと呼ぶ。
プログラム言語には専門家向きに多様な機能を与え,プログラムを生産性高く,機械の性能を高度に引き出すようにする方向と,非専門家が,目的別にプログラムを簡単に作り出せるようにする方向とに発展している。後者の方向でのプログラム言語は簡易言語と呼ばれ,グラフ作成,作表用のプログラム言語などが発展している。
執筆者:斉藤 忠夫
プログラムへの投資は現在ではハードウェア(コンピューターを構成する有形の装置・機器の総称)へのそれを大きく上まわっているため,プログラムの法的保護が重要な意味を有している。プログラムに関し現行法の下においては,特許法,著作権法,あるいは契約法等が保護法として考えられる。しかし特許は自然力を利用した発明のみに与えられるものであり,プログラムを利用した装置等は特許の対象となるが,プログラムそれ自体は保護されない。下級審判決の中には,プログラムを著作権法で保護したものもあるが,著作権法は,保護期間や人格権等において難点もある。また,当事者間の契約では第三者に対する効力がない。そこで,現在通商産業省の産業構造審議会(産構審)において,プログラム保護のための新しい立方が検討されており,また文化庁の著作権審議会においても著作権法の立場からの見直しがなされている。この問題はコンピューターの発達している先進国共通の難問であり,今後どのような結論が出されるか,目下のところ不明である。
執筆者:中山 信弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
一般にはテレビ、ラジオなどの番組や催し物の番組表などをさすが、コンピュータ用語としては、コンピュータに行わせる処理の手順を、決められた形式(プログラム言語)に従って書き表したものをいう。コンピュータは、どんな情報処理も行いうる能力を備えた機械(ハードウェア)であるが、プログラム(ソフトウェア)が与えられて初めて実際の処理を遂行する。コンピュータの応用範囲は広がる一方であり、それに応じてプログラムも小規模なものから複雑大規模なものまで多種多様に開発することが必要になっている。加えて、洗濯機、クーラーや自動車エンジンの制御、飛行機の飛行制御、新幹線の列車運行制御に至るまで、現代科学技術の多くがコンピュータをその中核に組み込んで実現されている。こうしたプログラムを誤りなく短い時間でつくりあげることは、現代工学の最大課題の一つである。なお、プログラムを作成する技術者をプログラマーという。
[筧 捷彦]
出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
(斎藤幾郎 ライター / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 (株)朝日新聞出版発行「パソコンで困ったときに開く本」パソコンで困ったときに開く本について 情報
…自然法則に反する典型的なものとしては,いったんエネルギーを与えれば永久に運動を続ける永久機関があり,このようなものは発明とはならない。現在発明性について最も問題となっているのはコンピューター・プログラムである。プログラムそれ自体はハードウェア(計算機本体)の利用方法または計算方法であり特許を取得することができない。…
…その重要性はコンピューターの普及とともにますます高まりつつ,現在に至っている。
[アルゴリズムとプログラム]
アルゴリズムは客観的に明確で,どのような場合に何をするかが手落ちなく具体的に指定されていなければならない。コンピューターは〈決定論的〉な機械にすぎないので,感性とか直観によって〈適当に〉ということは許されないのである。…
…人間にとって理解しやすいプログラミング言語を使って記述したプログラムを,実際にコンピューター上で実行するために,必要な翻訳処理や解釈実行処理を行うソフトウェアのこと。 コンピューターは,ハードウェアで作られた機械語の解釈実行系を内部に持っており,機械語で仕事の手順を直接に記述すれば,そのまま指定した動作を起こすことができる。…
…四則演算しかしないような単純な電卓をふつうコンピューターと呼ばないのはこの理由による。あらかじめ指定した計算の手順をプログラムと呼び,プログラムを書く行為をプログラミングと呼ぶ。 コンピューター以前の計算道具との,もう一つの大きな違いは,コンピューターが入出力装置や通信装置を通じて外界と相互作用できることである。…
…プログラミング言語とは,プログラムを記述するための言語である。より厳密には,人間がコンピューターに情報を伝えること,および伝える内容を記録したり人間が検討することを目的として設計した人工言語をコンピューター言語と呼び,その中でもプログラムを記述することを目的とする言語をプログラミング言語と呼ぶ。…
…何人の要員が何ヵ月かかるかを人月(マンマンス)という単位で表してソフトウェアの量を測る目安にしていたが,マンとマンスが可換でないことを示したことになる。 ソフトウェアの開発は,品質管理のPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルに合わせて,要求分析システム定義,システム設計,プログラム設計,プログラミング,ソフトウェアテスト,運用保守,といういくつかの段階からなるソフトウェアのライフサイクルで捉えると便利である。それぞれの段階間には,機能仕様書,システム設計仕様書,プログラム設計仕様書,といった定型の仕様書を用意する。…
※「プログラム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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