上方文学(読み)カミガタブンガク

デジタル大辞泉 「上方文学」の意味・読み・例文・類語

かみがた‐ぶんがく【上方文学】

江戸時代文学の一区分。元禄期(1688~1704)を頂点として京坂で行われた町人文学。生命力にあふれた文学で、井原西鶴浮世草子近松門左衛門らの浄瑠璃松尾芭蕉らの俳諧などがその代表。→江戸文学

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精選版 日本国語大辞典 「上方文学」の意味・読み・例文・類語

かみがた‐ぶんがく【上方文学】

  1. 〘 名詞 〙 江戸時代の文学で、上方、すなわち、京都、大坂中心に制作された文学作品の総称。元祿期(一六八八‐一七〇四)を中心にして、雅俗混交の俳諧的文体による町人文学で、井原西鶴の浮世草子、近松門左衛門の浄瑠璃などがその代表。後半期から幕末期に入ると、その文学史上の位置を江戸の文学に譲ることになるが、なお、特殊な領域では、制作活動も盛んであった。

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改訂新版 世界大百科事典 「上方文学」の意味・わかりやすい解説

上方文学 (かみがたぶんがく)

江戸時代の文学の一区分。地域的には京・大坂,時代的には元禄期(1688-1704)を中心とする江戸時代前期をさす。時代はさらに,慶長(1596-1615)ころから寛文・延宝(1661-81)ころまでの啓蒙期と,天和・貞享(1681-88)から元禄期を中心に享保(1716-36)までの発展期に分けられよう。17世紀初頭,印刷技術が輸入され出版文化が開花すると,読者層が町人階級にまで拡大した。しかし,近世文学の担い手たる町人階級はいまだ十分な成熟をみておらず,作者層となったのは前時代の文化を担っていた公卿,武家,僧侶たちであった。代表的作者に浅井了意がいる。それら作者たちによってなされた啓蒙期の小説は〈仮名草子〉と呼ばれ,教化啓蒙的,娯楽的,実用的など種々雑多な内容をもち,新しい時代のいぶきを感じさせるものがある。また,前時代からの和歌,連歌を第一級の文学ととらえ,それに至る段階として〈俳諧〉が松永貞徳らによって唱えられた。発展期に至ってようやく町人作家の誕生をみる。井原西鶴が1682年(天和2)に《好色一代男》を刊行して以降,約100年間上方を中心に行われた小説を〈浮世草子〉という。浮世草子は,仮名草子に色濃く見られた教訓・実用性を超克し,現実の世相をリアルにとらえ,人間性を深くえぐり出した小説である。また,貞徳を祖とする〈貞門俳諧〉の保守的・形式的な性格にあきたらなくなった町人階級は,その反動として現実を自由にいきいきと表現しうる西山宗因の〈談林俳諧〉を生み出した。そして談林の堕落の中,松尾芭蕉は中世的な幽幻余情の精神を旨とする〈蕉風俳諧〉を確立した。芭蕉によってはじめて俳諧も高い芸術性が与えられた。浄瑠璃では,近松門左衛門のそれに以前の古浄瑠璃には見られなかった〈血の通った人間〉が描かれるようになる。彼の人間,社会への認識の深さがそれを裏づけている。西鶴,芭蕉,近松によって黄金期を迎えたといってよい上方文学も,この3人以降は,模倣者は続出しても,本質を継承する者がなく,衰退を見,文学の中心は江戸に移り,明和安永天明(1764-89)を中心に新しい文学が生まれてくるのである。
江戸文学
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「上方文学」の意味・わかりやすい解説

上方文学
かみがたぶんがく

江戸時代の主として前半期に,元禄 (1688~1704) を頂点として,京坂地方を中心に栄えた町人文学をいう。江戸文学と対する。町人階級の台頭,印刷技術の伝来,識字者の増加などを背景に,町人みずからが文学の主体となり,いきいきした写実と活力によって前代までの文学と時代を画した。仮名草子古浄瑠璃貞門の俳諧などの新興文学に始り,井原西鶴の浮世草子,近松門左衛門,竹田出雲の浄瑠璃,坂田藤十郎の歌舞伎,西山宗因らの談林俳諧などがはなやかに開花した。

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百科事典マイペディア 「上方文学」の意味・わかりやすい解説

上方文学【かみがたぶんがく】

江戸時代の文学の一区分。江戸文学に対す。おもに元禄時代を中心に京・大坂で行われた文学の総称。町人文学の台頭が著しい。西鶴の浮世草子,近松門左衛門竹田出雲らの浄瑠璃などに代表される。

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世界大百科事典(旧版)内の上方文学の言及

【江戸文学】より

…一般的には江戸時代の文学全般を指すが,狭義にはその地域的特性を考慮して,享保期(1716‐36)を境とし,前半を上方(かみがた)文学,後半を江戸文学と呼ぶ。文字どおり江戸という都市を中心に栄えた文学の意である。…

※「上方文学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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