出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
5層建ての仏塔。日本の仏塔は木造が一般的で3層と5層のものが多いが,古代の寺で百済大寺や法勝寺では九重塔,国分寺には七層塔も建てられた。内部に仏舎利を奉安することを本来の目的とし,古くは伽藍の中心的存在であったが,7世紀末から双塔式伽藍ができ,やがて回廊外に置かれるようになる。しかし,塔の建立は功徳とされ,平安時代には多数の仏塔が生まれ,これを巡礼する行も広まった。外観は基壇,塔身,相輪からなる。中央に心柱(しんばしら)または刹柱(さつちゆう)が独立し,その上部が相輪となる。初層は方三間とし,内部に四天柱(してんばしら)をたて,中に仏壇をつくる。周囲に裳階(もこし)をめぐらす例(法隆寺,海住山寺)もある。心柱は飛鳥・白鳳時代には掘立柱(掘立柱建物)が多く,白鳳時代から基壇面に心礎を据えるものができる。平安後期からは三重塔では心柱を初層天井上で支える例が多くなるが,五重塔の心柱はのちまで心礎を用いる。高さは京都教王護国寺(東寺)の55m余が最大で,奈良室生寺の16m余が最小である。実物の約10分の1の大きさをもつ元興寺極楽坊五重小塔,海竜王寺五重小塔などもある。現存の近世以前の五重塔は弘前から山口まで22例ある。
中国では木造塔は少ないが,山西省応県八角塔(応県木塔)などの五重塔の例があり,雲岡石窟などの浮彫にも各種の塔の形がみられる。高句麗の実例は知られず,百済では扶余などに,新羅では慶州などに木造塔の遺構と石塔の実例がある。
執筆者:沢村 仁
幸田露伴の小説。1891-92年(明治24-25)《国会》に連載。露伴24歳の作で,彼の全作品中でも最もよく知られる初期の代表的小説。のっそり十兵衛と呼ばれる腕はいいが世渡りの才覚のつたない大工が,恩義ある親方の川越の源太と張り合って,辛苦の末ついに谷中(やなか)感応寺の五重塔をみごとに完成するという物語。主人公の十兵衛は妥協を知らぬ偏屈な名人気質で,一編は近代的な意味での芸術家小説として読むこともできよう。しかし彼に対立する源太も,ただ主人公を引き立たせる脇役ではなく,良識に富んだ立派な社会人として描かれている。前者の代表する個人の孤独な情熱と,後者の健全な社会秩序の感覚とが,創造的な緊張関係を結んだことを,塔の建立が比喩的に示している。
執筆者:川村 二郎
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出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…このうち利生塔は,真言・天台など旧仏教の大寺に設ける方針であったが,山城,相模,駿河などでは五山派の禅寺に設けられた。現在遺構はないが,京都八坂法観寺の五重塔ほか28ヵ国の利生塔の所在が認められる。全体では五重塔が多かったが,三重塔の場合もあった。…
…現在の建築基準法に従って建てられる木造建築は,平面的なねじれを生じないように,また2階建ての場合上下階の強度に不つりあいが生じないように,壁や筋かいの配置に十分の配慮が払ってあれば,地震に対する不安はほとんどないといってよい。 五重塔は古来地震で倒れたという記録がない。その耐震性は第1に,心柱が上から下まで貫通していて,五つの層に同じような変形を強制し,どこかの層が局部的に倒壊するのを防止しており,同時に周期を長くしていること,第2に塔を構成している柱,なげし,斗肘木(ますひじき)などの部材が相互に緩く結合されていて,いわゆる〈ガタ〉によってエネルギーを吸収していることと考えられる。…
…なお,経巻を舎利の代りに納めたものがあり,これを法舎利という。
[木造塔]
木造塔は三重塔,五重塔,多宝塔が多く,七重塔は東大寺および各国国分寺に,九重塔は百済大寺および法勝寺に建てられたが今はなく,十三重塔は興福寺や笠置寺などにもあったが,今は多武峰(談山神社)に一つを残すだけである。平面は方形が普通で,西大寺,法勝寺などに八角塔があった。…
…感応寺は江戸の富くじ興行で有名となり,湯島天神,目黒不動とともに江戸の三富と呼ばれた。また,当寺にあった五重塔は幸田露伴の《五重塔》のモデルとして知られる。【中尾 尭】。…
※「五重の塔」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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