精選版 日本国語大辞典 「候・侍」の意味・読み・例文・類語
さぶら・う さぶらふ【候・侍】
[一] 伺候する相手や、存在する場所(その場所の主)を敬って用いる謙譲語。
① 貴人や敬うべき人のおそばに控える。おつき申している。また、宮中など、敬うべき場所にいる。伺候する。
② (結果的に、貴人のおそばにいることになるところから) 貴人のおそばにあがる。参上しておそばにつき従う。
③ 品物などが、貴人や敬うべき人のもとにある。お手もとにおありである。
※枕(10C終)九三「御前(ごぜん)にさぶらふものは、御琴も御笛も、みなめづらしき名つきてぞある」
[二] 対話や消息文で、聞き手を敬って用いる丁寧語。存在する場所がどこであれ、単に「ある」「いる」の意を丁重にいう。話し手側の「ある」「いる」については、へりくだる気持も含まれる。あります。ございます。
※竹取(9C末‐10C初)「翁、御子に申すやう『いかなる所にか此木は候けん。〈略〉』と申す」
※枕(10C終)三一四「侍る所の焼け侍りにければ、がうなのやうに、人の家に尻をさし入れてのみさぶらふ」
① 補助動詞として用いる「ある」を、聞き手に対し丁重に表現する。…(で)ございます。
※源氏(1001‐14頃)浮舟「おはしまさん事は、いと荒き山ごえになん侍れど、殊に程遠くはさぶらはずなん」
② 他の動詞に付いて、その動作を、聞き手に対し丁重に表現する。…ます。
※宇津保(970‐999頃)楼上下「三人侍しは、大あねはなくなりさぶらひにき」
[語誌](1)(二)(三)の用法は、中古にはまだその勢力が弱く、この用法には通常「はべり(侍)」が用いられていた。「さぶらう」がこれに交替しはじめるのは中古後期(院政期)ごろからで、敬意も「はべり」より高くなっていく。中世にはいると「はべり」は口語から消え、「さぶらう」あるいはこれの変化した「そうろう」が専用されるようになる。
(2)「さぶらう」が「そうろう」に変化したのは、中古末から中世前期にかけてと思われる。ただし「平家物語」には、男性用語が「そうろう」、女性用語が「さぶらう」という使い分けがあったとされ、中世になっても女性は「さぶらう」を用いていたと考えられる。「ロドリゲス日本大文典」にも「書き言葉で女子にのみ使われる」とある。
(2)「さぶらう」が「そうろう」に変化したのは、中古末から中世前期にかけてと思われる。ただし「平家物語」には、男性用語が「そうろう」、女性用語が「さぶらう」という使い分けがあったとされ、中世になっても女性は「さぶらう」を用いていたと考えられる。「ロドリゲス日本大文典」にも「書き言葉で女子にのみ使われる」とある。
さ‐もら・う ‥もらふ【候・侍】
① 様子をうかがい、時の至るのを待つ。
(イ) よい機会をうかがう場合。
(ロ) 船が風波の静まるのをうかがい待つ場合。
※書紀(720)雄略七年(前田本訓)「風(かせ)候(サモラフ)と称(い)ふに託けて、淹留(ひさしくととまること)月を数(へ)ぬ」
② 貴人のおそばにいて、その命令を待つ。自動詞的に、君側に待機するの気持で用いる。
※万葉(8C後)二・一九九「うづらなす いはひもとほり 侍候(さもらへ)ど 佐母良比(サモラヒ)得ねば」
[語誌]「もらふ」の語構成から、守り続ける、じっと見守るの意が原義で、①の用法が本来的なものと考えられる。それが転じて②の用法が生まれ、後に「さぶらふ」となり、さらに「さうらふ」と変化する。「さもらふ」の語形は上代だけに見え、平安時代以降は見られない。
さむら・う さむらふ【候・侍】
〘自ハ四〙 「さぶらう(候)」の変化した語。「ある」「いる」の意の謙譲・丁寧語で、中世の女性専用語。あります。ございます。多く、補助動詞として用いる。…(で)ございます。…です。→候(そうろう)。
※謡曲・卒都婆小町(1384頃)「これは〈略〉小野の小町が成れる果てにてさむらふなり」
[補注](1)特に、謡曲中で女性が用いている語であるが、謡曲の女性があらゆる場合に「さむらう」を用いるわけではなく、通常は「そうろう」を用い、また、同じ詞の中に両者の用いられたものもあって、使い分けの規準は明確でない。感情が激している場合や改まって言う場合に用いることが多いようだとする説もある。
(2)近代になってからも、「にごりえ〈樋口一葉〉二」の「あだなる姿の浮気らしきに似ず一節(ふし)さむろう様子のみゆるに」のような、「きちんとかしこまっている」の意かと思われる用例がある。
(2)近代になってからも、「にごりえ〈樋口一葉〉二」の「あだなる姿の浮気らしきに似ず一節(ふし)さむろう様子のみゆるに」のような、「きちんとかしこまっている」の意かと思われる用例がある。
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報