候ふ(読み)ソウロウ

デジタル大辞泉 「候ふ」の意味・読み・例文・類語

そうろ・う〔さうらふ〕【候ふ】

[動ハ四]《「さぶらう」の音変化》
身分の高い人のそばに控える。伺候する。
「鈴の綱のへんに、布衣ほういの者の―・ふは何者ぞ」〈平家・一〉
ある」「いる」の丁寧語
㋐対話や消息に用い、聞き手に対し、言葉遣いを丁重・丁寧に表現する。ございます。あります。
「これなるいそべにやうありげなる松の―・ふ」〈謡・松風
㋑自己の存在をいう場合に、へりくだる気持ちをこめたり、重々しく表そうとする気持ちを含めたりする。おります。
「いろをし、ここに―・ふ」〈徒然・一一五〉
補助動詞
形容詞連用形や断定の助動詞「なり」の連用形「に」などに付く。「…である」の意の丁寧語。後世は候文として、重々しく表現する消息文などに多く用いられた。…でございます。
「何事にて―・ふぞ」〈謡・松風
㋑他の動詞の連用形に付いて、その動作を丁寧に、また、重々しく表現する。これも候文に多用された。…ます。
「国へ帰りて早一月にも相成り―・う」〈藤村
「聞こえ―・ふ名馬を見―・はばや」〈平家・四〉
[補説](1) 現代でも、時に候文の重々しい口調を利用して、冷やかすような表現として用いることがある。「若い者は、仕事は楽なほうがいいの、転勤はいやでそうろうのと、勝手なことばかり言う」などはこの例。(2) 鎌倉初期ごろ「さぶらふ」から変化したが、平家物語では男性が「さうらふ」を、女性は「さぶらふ」を用いている。

さぶら・う〔さぶらふ〕【候ふ/侍ふ】

[動ハ四]《「さもらう」の音変化》
身分の高い人や敬うべき人のそばに控える。お仕えする。また、宮中など尊い場所にいる。伺候する。
「女御更衣あまた―・ひ給ひける中に」〈桐壺
貴人のそばにうかがう。参上する。
「今日明日すぐして―・ふべし」〈・夢浮橋〉
品物などが貴人のもとにある。お手もとに存在する。
「御前に―・ふものは、御琴も御笛も、みなめづらしき名つきてぞある」〈・九三〉
対話や消息に用い、聞き手に対して自己の存在する意をへりくだり、また、言い方を丁重にする語。「ある」「いる」の意の丁寧語。あります。ございます。おります。
「いかなる所にか、この木は―・ひけむ」〈竹取
(補助動詞)
㋐形容詞の連用形や断定の助動詞「なり」の連用形「に」などに付く。補助動詞「ある」の意の丁寧語。…でございます。
「あさましく―・ひしことは」〈大鏡花山院
㋑動詞の連用形に付いて、その動作を丁寧に表現する。…ます。
「からい目を見―・ひて」〈・三一四〉
[補説]丁寧語「さぶらふ」は平安中期ではまだ使用例が少なく、通常は「はべり」が用いられたが、平安後期からその使用が増して「はべり」と交替してゆく。中世になると、「さぶらふ」は「さうらふ」に変化するが、平家物語などでは女性語として用いられる。

さ‐もら・う〔‐もらふ〕【候ふ/侍ふ】

[動ハ四]《「」は接頭語。「もらふ」は動詞「も(守)る」の未然形「もら」に上代の反復継続の助動詞「」の付いたもの》
ようすを見守り、よい機会をうかがい待つ。よい風向きや潮時、また逢瀬などのくるのを待つ。
「夕潮に船を浮け据ゑ朝なぎ向け漕がむと―・ふとわがる時に」〈・四三九八〉
主君や貴人のそばに仕えて命令を待つ。伺候する。→さぶら
うづらなすいひもとほり―・へど―・ひねば」〈・一九九〉

さむら・う〔さむらふ〕【候ふ/侍ふ】

[動ハ四]《「さぶらう」の音変化》「そうろう」にあたる、中世の女性語。多く補助動詞として用いる。…でございます。
「小野の小町が成れる果てにて―・ふなり」〈謡・卒都婆小町

ぞうろ・う〔ざうらふ〕【候ふ】

[連語]《断定の助動詞「なり」の連用形に、補助動詞「そうろう」の付いた「にそうろう」の音変化》…であります。…でございます。
「身をまったうして敵を滅ぼすをもって、よき大将軍とはする―・ふ」〈平家・一一〉

そうら・う〔さうらふ〕【候ふ】

[動ハ四]そうろう

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「候ふ」の意味・読み・例文・類語

さぶら・うさぶらふ【候・侍】

  1. 〘 自動詞 ハ行四段活用 〙 ( 上代の「さもらう(候)」が変化して、主として中古から中世にかけて用いられた語 )
  2. [ 一 ] 伺候する相手や、存在する場所(その場所の主)を敬って用いる謙譲語
    1. 貴人や敬うべき人のおそばに控える。おつき申している。また、宮中など、敬うべき場所にいる。伺候する。
      1. [初出の実例]「門下(みかきのもと)に侍(サフラヒ)、非常(おもいのほか)に備ふ」(出典:日本書紀(720)景行五一年正月(北野本訓))
      2. 「人々御前にさぶらはせ給ひて」(出典:源氏物語(1001‐14頃)須磨)
    2. ( 結果的に、貴人のおそばにいることになるところから ) 貴人のおそばにあがる。参上しておそばにつき従う。
      1. [初出の実例]「武蔵といひ侍る人の御曹司に、いかでさぶらはん」(出典:蜻蛉日記(974頃)下)
    3. 品物などが、貴人や敬うべき人のもとにある。お手もとにおありである。
      1. [初出の実例]「御前(ごぜん)にさぶらふものは、御琴も御笛も、みなめづらしき名つきてぞある」(出典:枕草子(10C終)九三)
  3. [ 二 ] 対話や消息文で、聞き手を敬って用いる丁寧語。存在する場所がどこであれ、単に「ある」「いる」の意を丁重にいう。話し手側の「ある」「いる」については、へりくだる気持も含まれる。あります。ございます。
    1. [初出の実例]「翁、御子に申すやう『いかなる所にか此木は候けん。〈略〉』と申す」(出典:竹取物語(9C末‐10C初))
    2. 「侍る所の焼け侍りにければ、がうなのやうに、人の家に尻をさし入れてのみさぶらふ」(出典:枕草子(10C終)三一四)
  4. [ 三 ] [ 二 ]の性質の敬語を補助動詞として用いる。
    1. 補助動詞として用いる「ある」を、聞き手に対し丁重に表現する。…(で)ございます。
      1. [初出の実例]「おはしまさん事は、いと荒き山ごえになん侍れど、殊に程遠くはさぶらはずなん」(出典:源氏物語(1001‐14頃)浮舟)
    2. 他の動詞に付いて、その動作を、聞き手に対し丁重に表現する。…ます。
      1. [初出の実例]「三人侍しは、大あねはなくなりさぶらひにき」(出典:宇津保物語(970‐999頃)楼上下)

候ふの語誌

( 1 )[ 二 ][ 三 ]の用法は、中古にはまだその勢力が弱く、この用法には通常「はべり(侍)」が用いられていた。「さぶらう」がこれに交替しはじめるのは中古後期(院政期)ごろからで、敬意も「はべり」より高くなっていく。中世にはいると「はべり」は口語から消え、「さぶらう」あるいはこれの変化した「そうろう」が専用されるようになる。
( 2 )「さぶらう」が「そうろう」に変化したのは、中古末から中世前期にかけてと思われる。ただし「平家物語」には、男性用語が「そうろう」、女性用語が「さぶらう」という使い分けがあったとされ、中世になっても女性は「さぶらう」を用いていたと考えられる。「ロドリゲス日本大文典」にも「書き言葉女子にのみ使われる」とある。


そうろうさうら・ふ【候】

  1. 〘 自動詞 ハ行四段活用 〙 ( 中古の「さぶらう(候)」が変化して、中古末か中世初期ごろから用いられるようになった語。歴史的かなづかいは、以前は「さふらふ」とされたが、今では「さうらふ」とするのが通説。→語誌( 2 ) )
  2. [ 一 ]
    1. 伺候する相手や、存在する場所の主を敬って用いる謙譲語。貴人や敬うべき人のおそばに控える。伺候する。
      1. [初出の実例]「怖し気なる音にて『候ふ』と答て、我が立頸を取て、引き持行く」(出典:今昔物語集(1120頃か)一六)
      2. 「かの聴聞の夜、御つぼねの内より人の御覧じしりて、さふらふ女房をつくりたてていだし給ひて」(出典:徒然草(1331頃)二三八)
      3. 「『いかに弁慶』『御前に候ふ』」(出典:謡曲・舟弁慶(1516頃))
    2. 対話や消息文において、話しかたを丁重にし、聞き手を敬ったり、儀礼的に自己の品位を保ったりするのに用いる丁寧語。話し手側の存在をいう場合のものには、へりくだる気持の含まれることもある。あります。ございます。
      1. [初出の実例]「あっぱれ、其馬はおととひまでは候し物を。昨日も候し、けさも庭のりし候つる」(出典:平家物語(13C前)四)
  3. [ 二 ] [ 一 ]の性質の敬語を補助動詞として用いる。
    1. 補助動詞として用いる「ある」を、聞き手に対し、丁重に表現する。…(で)ございます。
      1. [初出の実例]「小松殿、よい馬に鞍おいて、伊豆守のもとへつかはすとて、『さても昨日のふるまひこそ、優に候しか。是はのり一の馬で候。〈略〉』」(出典:平家物語(13C前)四)
    2. 他の動詞に付いて、その動作を、聞き手に対し丁重に表現する。…ます。
      1. [初出の実例]「いかにかうはうちとけてわたらせ給ひ候ぞ」(出典:平家物語(13C前)九)

候ふの語誌

( 1 )この語は、漢字で「候」と書かれることが多く、また、かな書きも「さふらふ」の形であるため、「さぶらふ」か「さうらふ」かの区別がつけにくい。「日葡辞書」には「Sǒrai, rǒ, ǒta(サウラウ)」の見出しが、また、「ロドリゲス日本大文典」には諸所に「sǒrǒ(サウラウ)」の表記があり、その発音がはっきりわかるが、中世前期のものでは不明である。特に、[ 一 ]の意のものは「さぶらふ」の可能性もあるが、しばらくここに収めた。
( 2 )歴史的かなづかいについては、「さうらふ」の確例はないにしても、「さうらふ」ならば語源的に関係の認められる「さぶらふ」または「さむらふ」との関係が、あり得べき音変化として解明できるが、もし「さふらふ」であったとすると音変化の説明に困難を生ずるという理由から「さうらふ」と推定する橋本進吉説によった。
( 3 )「さぶらう」との関係については「さぶらう」の語誌参照。


さ‐もら・う‥もらふ【候・侍】

  1. 〘 他動詞 ハ行四段活用 〙 ( 「さ」は接頭語。「もらう」は動詞「もる(守)」に上代の反復・継続の助動詞「ふ」の付いてできたもの。様子をうかがい待つの意 )
  2. 様子をうかがい、時の至るのを待つ。
    1. (イ) よい機会をうかがう場合。
      1. [初出の実例]「あらたまの 月かさなりて 妹に逢ふ 時候(さもらふ)と 立ち待つに」(出典:万葉集(8C後)一〇・二〇九二)
    2. (ロ) 船が風波の静まるのをうかがい待つ場合。
      1. [初出の実例]「風(かせ)(サモラフ)と称(い)ふに託けて、淹留(ひさしくととまること)月を数(へ)ぬ」(出典:日本書紀(720)雄略七年(前田本訓))
  3. 貴人のおそばにいて、その命令を待つ。自動詞的に、君側に待機するの気持で用いる。
    1. [初出の実例]「うづらなす いはひもとほり 侍候(さもらへ)ど 佐母良比(サモラヒ)得ねば」(出典:万葉集(8C後)二・一九九)

候ふの語誌

「もらふ」の語構成から、守り続ける、じっと見守るの意が原義で、の用法が本来的なものと考えられる。それが転じての用法が生まれ、後に「さぶらふ」となり、さらに「さうらふ」と変化する。「さもらふ」の語形は上代だけに見え、平安時代以降は見られない。


ぞうろうざうら・ふ【候】

  1. 〘 連語 〙 ( 「にそうろう」あるいは「にてそうろう」の変化したもの )
  2. 体言または活用語の連体形につく。…です。
    1. [初出の実例]「佐々木殿の御馬候」(出典:平家物語(13C前)九)
    2. 「これは女の歌候ふか」(出典:謡曲・関寺小町(1429頃))
    3. 「アアラ ヲビタタシノ ゴホウガドモ zǒrǒya(ザウラウヤ)」(出典:ロドリゲス日本大文典(1604‐08))
  3. 「と」「は」「や」などの助詞につく。「ぞうろう」の上に、「…の状態で」「どのようなわけで」などの意をもつ、ある語句が略されたと考えられるもの。
    1. [初出の実例]「『烏帽子の所望に参りて候』『烏帽子のご所望と候ふや』」(出典:謡曲・烏帽子折(1480頃))

候ふの補助注記

ローマ字書き以外のものでは、よみが判然としないが、慣用的に「ぞうろう」あるいは「ぞうろ」とよまれ、用法からみても「そうろう」とは区別があったものと思われる。「ロドリゲス日本大文典」にも、ニテソロ・ニソロ・デソロ・ゴザソロと同じものとして、Mais (舞)その他同類の Monogataris (物語)には、ザウラウが使われる由の記述がみられる。


さむら・うさむらふ【候・侍】

  1. 〘 自動詞 ハ行四段活用 〙 「さぶらう(候)」の変化した語。「ある」「いる」の意の謙譲・丁寧語で、中世の女性専用語。あります。ございます。多く、補助動詞として用いる。…(で)ございます。…です。→候(そうろう)
    1. [初出の実例]「これは〈略〉小野の小町が成れる果てにてさむらふなり」(出典:謡曲・卒都婆小町(1384頃))

候ふの補助注記

( 1 )特に、謡曲中で女性が用いている語であるが、謡曲の女性があらゆる場合に「さむらう」を用いるわけではなく、通常は「そうろう」を用い、また、同じ詞の中に両者の用いられたものもあって、使い分けの規準は明確でない。感情が激している場合や改まって言う場合に用いることが多いようだとする説もある。
( 2 )近代になってからも、「にごりえ〈樋口一葉〉二」の「あだなる姿の浮気らしきに似ず一節(ふし)さむろう様子のみゆるに」のような、「きちんとかしこまっている」の意かと思われる用例がある。


そうら・うさうらふ【候】

  1. 〘 自動詞 ハ行四段活用 〙そうろう(候)

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