能の曲名。流派により〈そとわこまち〉〈そとわごまち〉とも読む。四番目物。老女物。観阿弥作。シテは老後の小野小町。高野山の僧(ワキ)が,道端の朽ちた卒都婆に腰をおろしている老婆(シテ)を見て,ほかの場所で休むように諭し,卒都婆は仏体そのものであるとその功徳を説いて聞かせる。ところが老婆は,僧の言葉に一つ一つ反論を加え,迷悟は心の問題で,世界は本来無一物と気付けば仏も衆生(しゆじよう)も隔りはないのだと論破するので,僧は恐れ敬う(〈問答・掛合・上歌(あげうた)〉)。名を尋ねると,実は小野小町だと言う。才色兼備で世の男性を魅了した小町も,今は乱れた白髪に破れ笠を頂き,よごれた袋を首に掛けて人に物を乞う身の上であった(〈名ノリグリ・ロンギ等〉)。そのうち小町の様子が変わり,自分で〈小町のもとに通おう〉と叫ぶ。それは四位少将(しいのしようしよう)の怨霊が乗り移ったのだった。少将は,むかし小町を慕って九十九夜通いつめながら,思いをとげずに死んだ恨みがあった。小町についた少将の怨霊は,生前の百夜通(ももよがよ)いのさまを繰り返す(〈立回リ等〉)。このように小町は,色が深すぎてかえってどの男の恋心にもこたえなかったため,今はその報いの苦しみを受けねばならないのだった。5曲ある老女物のうち,最も劇的で変化に富む。教理問答,美しかった昔の追憶,突如激しく襲うつきものの発作,百夜通いと,どの段も描写がすぐれている。
執筆者:横道 万里雄
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能の曲目。四番目物。五流現行曲。観阿弥(かんあみ)の作。劇的な波瀾(はらん)に満ちた狂女物で、老女物として重く扱われる。高野山(こうやさん)の僧(ワキとワキツレ)が、津国(つのくに)(大阪府)安倍野(あべの)に着く。そこへ百歳に及び乞食(こじき)の境涯に落ちぶれた小野小町(シテ)が登場、人目を恥じつつ都を出てきたが、苦しいからと朽ち木に腰をおろす。僧は、それが仏体を刻んだ卒都婆であることに気づき、ほかで休むように説得するが、小町は逆に居直り、仏教論争のすえに僧を言い負かしてしまう。こうした会話のおもしろさを描いて、観阿弥は比類ない作家である。小町は「極楽の内ならばこそ悪(あ)しからめ、そとは(卒都婆に掛ける洒落(しゃれ))何かは苦しかるべき」と僧を嘲笑(ちょうしょう)する。名を尋ねられた彼女は、小野小町のなれの果てであることを語り、いまの身の上を嘆くが、突如狂乱状態となる。小町が課した百夜通いの、その最後の夜に死んだ深草少将の怨霊(おんりょう)が取り憑(つ)いたのである。少将の姿となってその苦難と死のありさまが再現されるが、やがて小町は仏道に心を寄せ、後世を願う態で終曲となる。昔は後半が違う展開であったことが、世阿弥(ぜあみ)の芸談『申楽談義(さるがくだんぎ)』によって知られる。なお三島由紀夫の『近代能楽集』の「卒塔婆小町」は、第二次世界大戦後の優れた戯曲の一つとされる。
[増田正造]
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出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…《通(かよい)小町》は,小町に恋した深草少将が,100夜通えば望みをかなえてやるという小町のことばを信じて,通いつめた99夜目にはかなくなったという話で,美女の薄情・驕慢な性格を描いている。《卒都婆小町》は,朽ちた卒都婆に腰かけた乞食の老女が仏道に入る話であるが,その老女は深草少将の霊にとりつかれた小町のなれの果てであったという筋。また《関寺小町》は,関寺の僧が寺の近くに住む老残の小町から歌の道を聞くという物語であり,《鸚鵡小町》も,新大納言行家が関寺近くに老いた小町を訪ねるという筋になっている。…
…このうち最も例の多いのは中入に際して自分の正体を告げるもので,《高砂(たかさご)》《井筒(いづつ)》《野宮(ののみや)》《八島(やしま)》など全体の2割強を占めている。次いで,《通(かよい)小町》《松風》などの中心部にある物尽しが多く,本来の論義の形は《鵜飼》《卒都婆(そとば)小町》に見られる程度である。【松本 雍】。…
※「卒都婆小町」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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