2月初めの午(うま)の日をいう。稲荷(いなり)の祭日とされ、稲荷講の行事が行われるが、その習俗はかならずしも稲荷とは関係なく、土地によりさまざまである。この日初午団子をつくり、子供たちが集まって太鼓をたたくことが広く行われる。長野県では初午の日を道陸(どうろく)(祖)神の火事見舞いといって、小正月(こしょうがつ)のどんど焼に小屋を焼かれた見舞いとして餅(もち)を搗(つ)いてこの神に供える祭りとしている。また蚕玉祭(こだままつり)といってカイコの神を祀(まつ)っている所もある。栃木県の旧安蘇(あそ)郡野上村(現佐野市)では、初午にシミズカリといって大根や鮭(さけ)のおじやをつくり神前に供える。初午の日が早いと火事が多いといわれ、月の初めにあたると二の午の日に延期する例があり、5日過ぎればよいともいう。青森県の津軽地方では、屋根に水桶(みずおけ)をあげたり水をまいたりしている。岐阜県の高山市では初午の日には茶を飲まないといい、鳥取県南東部(八頭(やず)郡を中心とした地域)では茶釜(ちゃがま)を洗って乾かすという。
ほかに、変わった風習として、新潟県南魚沼(みなみうおぬま)市の六日町地区では、多くの家が屋敷神を祀っているが、初午には豊年を祈願して小豆飯(あずきめし)と鰊(にしん)を供える。鳥取県日野郡では初午粉といって、米の粉を神前に供える。奈良県宇陀(うだ)市菟田野(うたの)区では初午の日に、25歳の男と19歳の女が、厄年のため近所の社寺にお参りする。長崎県壱岐(いき)島では、世上祭(せじょうまつり)といって初午に豊作を祈る。熊本県の各地では初午の市(いち)が立ち、湯豆腐、いなりずしなどを売り出している。これらの習俗からみて、初午の日とは、その年の豊作を予祝する意味の祭りであったといえる。
[大藤時彦]
2月初めの午の日,およびその日の行事をいう。全国的に稲荷信仰と結びついているが,旧暦の2月初午は農事開始のころにあたり,そのために農神の性格をもつ稲荷と結びつきやすかったのであろう。関東地方では稲荷講が盛んで,稲荷の祠に幟(のぼり)を立て油揚げや赤飯などを供えて祭り,参加者が飲食を共にしている。スミツカリという独特の食品を供える所もある。子どもが稲荷祠で太鼓をたたいて過ごしたり,ときには籠(こも)ったりもする。稲荷神社としては京都の伏見稲荷大社や愛知の豊川稲荷が有名であるが,また各地には大小さまざまの稲荷があり,信仰を集めている。稲荷信仰とは別に,長野,山梨,埼玉などの養蚕地帯では,この日を養蚕祈願の日とし,蚕影様(こかげさま),オシラ様などの祭りをしたり,繭玉を作って屋内外の神に供えたりしているし,東北地方や東海地方には,馬(午)にちなんで蒼前様(そうぜんさま)や馬頭観音に参る所があるが,いずれも農事に関係したことである。近畿地方南部などでは,餅投げなど厄払いに関するいろいろな呪法が行われる。初午だけでなく二の午,三の午までする所もあり,また2月ではなく,奄美大島のように4月初午をいう所や11月初午をする所もある。高知県には家に水をかけるなど火防の行事をする所が多いが,初午の早い年は火事が多いという火に関する俗信は全国的である。茨城・福島県などではこの日は茶を飲まない,ふろをわかさないなどというが,これは火を扱うのを避けようとする気持ちからであろう。
執筆者:田中 宣一
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