呉れる(読み)クレル

デジタル大辞泉 「呉れる」の意味・読み・例文・類語

く・れる【呉れる】

[動ラ下一][文]く・る[ラ下二]
人が自分に、または自分の側の者にものを与える。「いつも姉が小遣いを―・れる」「友達が妹に花を―・れた」
自分が相手にものを与える。また、相手に対してある行為をしたり、加えたりする。相手を与え手より低い者として卑しめる気持ちを込めた言い方で、「くれてやる」の形になることも多い。「鳥にえさを―・れる」「盆栽に水を―・れる」「平手打ちを―・れてやる」
補助動詞)動詞の連用形に接続助詞「て」を添えた形に付く。
㋐人が自分に、または自分の側の者に対して何かをすることを表す。「手伝って―・れる」「秘密にしておいて―・れ」「母がセーターを編んで―・れる」
㋑こちらが、相手に不利益になるようなことを与えることを表す。「痛い目にあわせて―・れるぞ」
[補説](1) 対等の間柄か、または目下の関係にある人に対して用いる。目上の人に対したり、尊敬の意を表す場合は「くださる」を用いる。(2) 下一段活用であるが、命令形は「くれ」を用いるのが一般的。(3) 3㋐は、その行為が好意的、恩恵的になされる場合が多いが、「とんでもないことをしてくれたなあ」のように、その行為を受ける側が被害をこうむったり、不利益になるときにも用いることがある。
[類語]寄越よこ与える授ける取らせる・もらえる・恵む施すやる供する供与する・提供する・授与する・恵与する(尊敬)下さる下されるたまわあげる謙譲差し上げる

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「呉れる」の意味・読み・例文・類語

く・れる【呉】

  1. 〘 他動詞 ラ行下一段活用 〙
    [ 文語形 ]く・る 〘 他動詞 ラ行下二段活用 〙
  2. [ 一 ] 人に物を与える。やる。
    1. ある人が、話者または話者側の者に、物を与える。
      1. [初出の実例]「汝が持(も)たる八坂瓊の曲玉を予に授(クレ)よ」(出典:日本書紀(720)神代上(水戸本訓))
    2. 一般に、人または動植物に物を与える。受け手の身分や地位が与え手より低い場合、または、話者が受け手を軽蔑(けいべつ)している場合に用いることが多い。
      1. [初出の実例]「この長櫃(ながひつ)のものは、みな人、わらはまでにくれたれば」(出典:土左日記(935頃)承平五年一月七日)
      2. 「そんな帽子お前に呉(ク)れてやる」(出典:帽子(1906)〈国木田独歩〉)
    3. 緊張を解く。余裕を与える。ゆるめる。
      1. [初出の実例]「馬の足のおよばうほどは、手綱をくれてあゆませよ」(出典:平家物語(13C前)四)
    4. 染めつける。
  3. [ 二 ] 補助動詞として用いる。多く動詞の連用形に接続助詞「て」を添えた形に付く。
    1. 話者または話者側の者に対してなされた他者の行為の下に付けて、その行為が好意的になされたり、こちらに利益や恩恵をもたらしたりするものであることを表わす。感謝や懇願の意を含むことが多い。
      1. [初出の実例]「如何にもして杣山(そまやま)の城へ入進(いれまゐら)せてくれよ」(出典:太平記(14C後)一八)
      2. 「龍太夫と云おしの処へいって、〈略〉かくのしだい故留めてくれろといふがいい」(出典:夢酔独言(1843))
    2. 話者または話者側の者に及んだ他者の行為の下に付けて、その行為が非好意的になされたり、こちらに不利益や損害をもたらしたりするものであることを表わす。
      1. [初出の実例]「こんなにわづらってくれちゃア、実にどうも困りきるぜ」(出典:人情本・仮名文章娘節用(1831‐34)三)
    3. 話者が他人に対してする行為の下に付けて、その行為が非好意的になされたり、相手に不利益や損害をもたらしたりするものであることを表わす。相手への敵意や、あなどり、あてつけの気持を伴う。やる。
      1. [初出の実例]「ひげをむしりてくれんとてきっさきをそろへてかかりけり」(出典:虎明本狂言・髭櫓(室町末‐近世初))

呉れるの補助注記

現代の共通語では他者が話者に物を与えることを表わすが、古くは話者が他者や動植物に対して物を与える意をも表わした。話者が他者に物を与える場合、現代の共通語では「やる」を用いることが多いが、方言では「くれる」で表わす地方も少なくない。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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