上げる(読み)アゲル

デジタル大辞泉 「上げる」の意味・読み・例文・類語

あ・げる【上げる/揚げる/挙げる】

[動ガ下一][文]あ・ぐ[ガ下二]
そのもの全体または部分の位置を低い所から高い方へ動かす、また、移す。
㋐物の位置を低い所から高い所に移す。「箱を棚に―・げる」「幕を―・げる」「すだれを―・げる」⇔下ろす
㋑方向を高い方へ移す。「顔を―・げてにらむ」「目を―・げる」
㋒垂れた髪を上の方で結う。「前髪を―・げる」
㋓地上から伸ばしたり飛ばしたりして、空中に浮かべる。「たこを―・げる」「花火を―・げる」
㋔水上や水中から陸上に移す。「船を浜辺に―・げる」⇔下ろす
㋕高い場所に、形を成すようにつくりおく。「棟を―・げる」
㋖家の中に入れる。「客間に―・げる」
㋗(揚げる)芸者などを宴席に呼ぶ。「芸者を―・げてどんちゃん騒ぎ」
㋘《「アップロード」から》インターネットなどで、通信回線を介してデータをホストコンピューターに送信する。「サーバーに圧縮ファイルを―・げる」
所有者や高位の者の手元に収める。
㋐好ましい結果を得る。「収益を―・げる」
㋑(挙げる)検挙する。「犯人を―・げる」
上の段階や等級へ進ませる。「息子を大学に―・げる」
程度を高める。
㋐他と比較して高い状態になる。「右肩を―・げる」「潮が―・げてくる」
㋑今までより高い状態にする。「地位を―・げる」「家賃を―・げる」⇔下げる
㋒褒める。「―・げたり下げたり」⇔下げる
㋓いちだんと望ましい状態にする。「男ぶりを―・げる」「腕を―・げる」⇔下げる
㋔勢いをつける。盛んにする。「気勢を―・げる」「調子を―・げる」
㋕声を高く発する。「悲鳴を―・げる」

㋐《頭に血を上げる意から》のぼせて夢中になる。「血道を―・げる」
㋑吐く。戻す。「酒を飲みすぎて―・げる」
物事を終わりにする。
㋐仕上げる。完成する。「仕事を―・げる」
㋑その範囲内でまかなう。「会費を安く―・げる」
㋒(挙げる)力などを出し尽くす。「全力を―・げる」「町を―・げて応援する」
㋓(挙げる)子を得る。「男子を―・げる」
人の目についたり、広く知られるようにする。
㋐(上げる・揚げる)掲げる。「国旗を―・げる」
㋑有名にする。「名を―・げる」
㋒(挙げる)事を起こす。「兵を―・げる」
㋓(挙げる)執り行う。「結婚式を―・げる」
㋔(挙げる)表し示す。「例を―・げる」「証拠を―・げる」
㋕効果や実績を現す。「成果を―・げた」
㋖(挙げる)推挙する。「候補者を―・げる」
(揚げる)揚げ物を作る。「てんぷらを―・げる」
神仏や敬うべき人などに、ある行為がなされる。
㋐神仏に供える。「供物を―・げる」⇔下げる
㋑「与える」「やる」を、その相手を敬っていう語。「洋服を―・げる」
10 地方から都に行く。上京する。
「京にとく―・げ給ひて」〈更級
11 戸や格子を上部に開きあける。
「格子なども―・げながら冬の夜を居明かして」〈・一七九〉
12 勢いよく馬をはねあがらせる。
「中道口をはづさせて―・げけり」〈著聞集・一〇〉
13 動詞の連用形のあとに付いて複合語をつくる。
㋐その動作が終わる意を表す。「仕事を早くし―・げる」「一日で織り―・げる」
㋑十分に、しっかり、などの意を添える。「丁稚でっちからたたき―・げる」「調べ―・げる」
㋒他に分かるようにはっきりと言葉で示す。「共同宣言としてうたい―・げる」
㋓(「申す」「存ずる」などに付いて)へりくだった意味を表す。「お願い申し―・げます」「右のように存じ―・げております」
14補助動詞)動詞の連用形に接続助詞「て」が付いた形に付いて、主体が動詞の表す行為を他者に対し恩恵として行う意を表す。「てやる」の丁寧な言い方。「仕事を手伝って―・げる」「君のかわりに行って―・げよう」
[補説]9㋑は本来、敬うべき対象に物をさし上げるの意で、「犬にえさをあげる」のような言い方はしなかった。現在では「与える・やる」の美化語として使う人が増えている。
[下接句]頭を上げるアドバルーンを揚げる団扇うちわを上げる腕を上げるうみ波を揚げず得手えてに帆を揚げる追風おいてに帆を上げる男を上げる凱歌がいかを揚げる気炎を揚げる軍配を上げる呱々ここの声をあげる腰を上げる順風に帆を上げるしりを上げる棚に上げる血道を上げる手を上げるとこを上げる名を揚げる名乗りを上げるを上げる熱を上げる狼煙のろしを上げる旗を揚げるピッチを上げる一旗ひとはた揚げる兵を挙げる星を挙げる御輿みこしを上げる味噌みそを上げる三日にあげずメートルを上げる諸手もろてを挙げるやぐらを上げる槍玉やりだまに挙げるを挙げて
[類語](1持ち上げる引き上げる押し上げる突き上げる差し上げる振り上げる吊り上げる打ち上げる放り上げる吹き上げる吸い上げる巻き上げる揺り上げるもたげる/(2逮捕検挙召し捕る手が後ろに回る捕まえる捕る捕らえる引っ捕らえる取り押さえる生け捕るからめ取る引っくくとらまえる捕獲する拿捕だほする捕縛する検束するぱくるしょっぴく引っ立てる/(5)㋑むかむかもたれるむかつく胸が焼ける胸焼け吐き気気持ち悪いむかっとえずく戻す吐く吐き出す反吐へど嘔吐吐瀉としゃげろつわり悪阻おそ二日酔い悪酔い込み上げるべろんべろんぐでんぐでん/(9与える授ける恵む施すやる差し上げるくれるくださる賜る供する供与提供授与恵与

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精選版 日本国語大辞典 「上げる」の意味・読み・例文・類語

あ・げる【上・揚・挙】

  1. 〘 他動詞 ガ下一段活用 〙
    [ 文語形 ]あ・ぐ 〘 他動詞 ガ下二段活用 〙
  2. [ 一 ] 下の方から上の方へ移す。
    1. 低い所から高い所へ移す。上へやる。
      1. [初出の実例]「大和(やまと)へに 西風(にし)吹き阿宜(アゲ)て 雲離れ 退(そ)き居りとも 我忘れめや」(出典:古事記(712)下・歌謡)
      2. 「みすあげさせ給て」(出典:源氏物語(1001‐14頃)若菜下)
    2. (垂れた髪を)結う。上の方で結ぶ。
      1. [初出の実例]「髪(みぐし)を結(アケ)、髻(みづら)に為(な)し」(出典:日本書紀(720)神代上(水戸本訓))
      2. 「くらべこし振分髪も肩すぎぬ君ならずして誰かあぐべき」(出典:伊勢物語(10C前)二三)
    3. 空中に浮かぶようにする。また、雲が空に広がる。
      1. [初出の実例]「天下に兵乱おこって、烽火をあげたりければ」(出典:平家物語(13C前)二)
      2. 「『父(とと)さん、ぽつぽつ降って来ましたわいな』『大分東を上げて来たから、今に一降やるかも知れぬ』」(出典:歌舞伎・日月星享和政談(延命院)(1878)序幕)
    4. 水上、水中から陸上へ移す。陸上げする。水上げする。
      1. [初出の実例]「あげおいたる舟の陰を」(出典:平家物語(13C前)一一)
      2. 「フネノ ニヲ aguru(アグル)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    5. 外から家の中に入らせる。
      1. [初出の実例]「初めてのお方を同道申た。きつう取込そふに見へるが、一つ上ます座敷が有(ある)か」(出典:浄瑠璃仮名手本忠臣蔵(1748)七)
    6. 遊女、芸妓などをよび入れる。また、よんで遊ぶ。
      1. [初出の実例]「丸屋の七左衛門かたに太夫の吉野を揚(アゲ)(おき)」(出典:浮世草子・西鶴織留(1694)一)
    7. 寺子屋、学校などに入れる。
      1. [初出の実例]「寺にあげて手ならひをさすれども、芸能のかたは殊の外に不器用なり」(出典:仮名草子・浮世物語(1665頃)一)
    8. ( 血を頭にのぼせる意 ) のぼせてぼうっとする。「血道をあげる」
      1. [初出の実例]「あないみじ。気(け)あげさせ給ふな」(出典:栄花物語(1028‐92頃)若ばえ)
    9. 下に敷いてあるものを取りのける。
      1. [初出の実例]「それじゃア蒲団をあげて、きれいにしよふじゃア有ませんか」(出典:人情本・春色恵の花(1836)二中)
    10. 胃から物をもどす。吐く。
      1. [初出の実例]「何う云ふ訳だらうと思って居ると黄色い水をゲッゲと吐(ア)げるんだ」(出典:落語・皺め(1896)〈三代目柳家小さん〉)
  3. [ 二 ] 物を取りあげる。また、罪人を召しとる。
    1. 官が領地、役目などを取りあげる。没収する。
      1. [初出の実例]「少しの事を言ひ募り、殿の御扶持を上げられて」(出典:歌謡・新編歌祭文集(1688‐1736頃)一五)
    2. ( から転じて ) 物をむりに取りあげる。巻きあげる。奪いとる。盗みとる。
      1. [初出の実例]「今鋭(すすど)ふ成て油断せぬ故、大抵では上げられぬぞい」(出典:歌舞伎・幼稚子敵討(1753)五)
    3. 犯人をつかまえる。召しとる。
      1. [初出の実例]「チョイト旦那、今ねヱ彼の女が引致(アゲ)られました、久松警察へ」(出典:落語・たぬき娘(1900)〈初代三遊亭円左〉)
  4. [ 三 ] 地位、体勢、価値、程度などを高める。
    1. ある箇所をまわりより高くする。体や、体の一部を高くする。また、上に向ける。
      1. [初出の実例]「仰ぎて首を撟(アケ)、以て高視す」(出典:漢書楊雄伝天暦二年点(948))
    2. 馬を跳ねさせる。走り躍らせる。
      1. [初出の実例]「流鏑馬十六騎。揚馬訖」(出典:吾妻鏡‐寛元四年(1246)八月一六日)
    3. 地位を進める。昇進させる。
      1. [初出の実例]「冠位(かがふりくらゐ)一階上(あげ)賜ふ事を始め」(出典:続日本紀‐天平元年(729)八月五日宣命)
      2. 「クライニ aguru(アグル)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    4. 物の値段、給料などを高くする。値上げする。
      1. [初出の実例]「それだから、酒造税を昂(ア)げるのも宜(よ)からう」(出典:社会百面相(1902)〈内田魯庵〉失意政治家)
    5. 能力、勢力、速力、数量、価値などを加える。「スピードをあげる」「気勢をあげる」
      1. [初出の実例]「下から順に音をあげて行ったり」(出典:惨めな戯れ(1920)〈岡田三郎〉)
    6. 技能などを上達させる。
      1. [初出の実例]「ガクモン ナドノ イロヲ aguru(アグル)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
      2. 「能書にもせよ、人の手まで上(アゲ)る事がどうしてなるものぞ」(出典:滑稽本・古朽木(1780)一)
    7. 顔だち、身なりなどをよくする。
      1. [初出の実例]「さぞ此頃は女振を上(ア)げてゐるだらうな」(出典:雁(1911‐13)〈森鴎外〉五)
    8. あたりによく聞こえるような声を出す。高く発する。
      1. [初出の実例]「人々詠徳(ほむ)る音を誦(アケ)、家毎庚哉之歌(やすらかなりといふうた)有り」(出典:日本書紀(720)仁徳四年二月(前田本訓))
      2. 「からうた、声あげていひけり」(出典:土左日記(935頃)承平四年一二月二六日)
    9. ( 水位を高める意から、自動詞的に用いて ) 潮が満ちてくる。
      1. [初出の実例]「八つ八ぶだからてうど今あげるせへちうだ」(出典:洒落本・仕懸文庫(1791)一)
  5. [ 四 ] 人によく見えるようにする。広く知られるようにする。
    1. 手に持って高くする。高く揚げる。持ちあげる。
      1. [初出の実例]「いつしかとまたく心をはぎにあげて天の河原をけふや渡らん〈藤原兼輔〉」(出典:古今和歌集(905‐914)雑体・一〇一四)
      2. 「墨染の衣袴きて月毛なる馬にのったる僧一人、鞭をあげてぞ馳(は)せたりける」(出典:平家物語(13C前)一二)
    2. (名前を)世に広める。
      1. [初出の実例]「一人をば討ちとり、一人をば生けどって、後代に名をあげたりし物にて候」(出典:平家物語(13C前)五)
    3. 人々の前で行なう。
      1. [初出の実例]「結婚の約束は成立って、この秋か冬には其の大礼を挙げやうとして居るのも亦確かである」(出典:春潮(1903)〈田山花袋〉六)
    4. 一つ一つとりたてる。また、特別のものとして示す。
      1. [初出の実例]「然らば則ち弟(いろと)に非ずして、誰か能く大節(ことはり)を激揚(アケム)」(出典:日本書紀(720)顕宗即位前(図書寮本訓))
      2. 「大織冠・淡海公の御事は、あげて申すに及ばず」(出典:平家物語(13C前)一)
    5. (実例、証拠などを)はっきり表面にあらわす。
      1. [初出の実例]「態(わざ)と悪事に一味して、まっかう手めを上げよふ為」(出典:浄瑠璃・伽羅先代萩(1785)六)
      2. 「歴史上の事実を挙(ア)げ」(出典:花間鶯(1887‐88)〈末広鉄腸〉中)
    6. (効果、実績などを)目立って現われるようにする。
      1. [初出の実例]「或る程度までの効果を挙げることが出来たのだ」(出典:星座(1922)〈有島武郎〉)
    7. ほめたたえる。称揚する。
      1. [初出の実例]「淑(よ)き匿(あ)しきを褒(アゲ)(くた)し」(出典:大唐西域記長寛元年点(1163)五)
      2. 「此玉河てふ川は国々にありて、いづれをよめる歌も其流のきよきを挙(アゲ)しなるを思へば」(出典:読本・雨月物語(1776)仏法僧)
    8. 大勢の人を集め動かして事を始める。
      1. [初出の実例]「佐殿すでに義兵をあげ給ふときこえしかば」(出典:平治物語(1220頃か)下)
    9. 推挙する。
      1. [初出の実例]「如才のない稲川君と共に、敬二は幹事に挙(ア)げられた」(出典:黒い眼と茶色の目(1914)〈徳富蘆花〉四)
  6. [ 五 ] 物事を終わりまでする。終わりにする。
    1. しあげる。なしとげる。すませる。習い終える。
      1. [初出の実例]「したがさねのしりはさみて乗り給ひぬ。さばかりせばきつぼに折り回し、おもしろくあげ給へば」(出典:大鏡(12C前)三)
      2. 「フシンヲ aguru(アグル)」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    2. ある費用ですませる。ある金額で片を付ける。
      1. [初出の実例]「壱分。ヱ。それで上(アゲ)るつもりかヱ」(出典:滑稽本・浮世床(1813‐23)初)
    3. 遊興や投資に金を使い果たす。つぎこむ。入れあげる。
      1. [初出の実例]「新地ぐるいに身代あげ、方々の借銭」(出典:浄瑠璃・心中二枚絵草紙(1706頃)中)
    4. すべてを出す。全部を集める。
      1. [初出の実例]「一国を挙げて大結合を為し」(出典:雪中梅(1886)〈末広鉄腸〉上)
      2. [その他の文献]〔史記‐刺客伝・摂政〕
    5. (貴人の膳を)取り下げる。
      1. [初出の実例]「ゼンヲ aguru(アグル)〈訳〉食卓を片づける」(出典:日葡辞書(1603‐04))
    6. 城を攻める際などに、味方の兵が城際につめより、後に続く者がないような時、危険を考慮して呼び戻す。
      1. [初出の実例]「唯今あげんとせば、彌(いよいよ)みだれあしになるべし」(出典:随筆・常山紀談(1739)四)
    7. 子孫を得る。子を産む。
      1. [初出の実例]「牝牡一耦あり、今に至るまで十二回子を挙けたれとも」(出典:米欧回覧実記(1877)〈久米邦武〉三)
    8. 酒を熟成させる。
      1. [初出の実例]「酒はつくり入れて久うをいてあぐるがよいそ」(出典:玉塵抄(1563)三)
    9. ( 揚 ) 熱い油で煮て、食べられるようにする。
      1. [初出の実例]「南ばん焼は、油にてあぐる也」(出典:大草家料理書(16C中‐後か))
  7. [ 六 ] 敬意を払うべき人に物を渡す。また、そういう人のいる場所に行かせる。
    1. 神仏に供える。奉納する。
      1. [初出の実例]「御忌の程、関白殿、日ごとに法華経一部、阿彌陀経数多、経一偈(げ)をあげさせ給て」(出典:栄花物語(1028‐92頃)鶴の林)
    2. 敬うべき人にさし出す。さし上げる。また、現代では対等、または目下の者に与える意の丁寧な言い方。
      1. [初出の実例]「急ぎ追っ付き申しこのおん腰の物を上げ申さうずるにて候ふ」(出典:謡曲・烏帽子折(1480頃))
      2. 「お俊ちゃん達に進(ア)げる物がこの中に入って居る筈です」(出典:家(1910‐11)〈島崎藤村〉下)
    3. 上に差出す。返上する。
      1. [初出の実例]「年貢所当令無沙汰、下地可上之由申百姓前作職之事、一庄一郷申合、田畠可荒之造意、悪行之至、早可御成敗」(出典:六角氏式目(1567)二四条)
    4. ( 返上する意から ) ある場所に出入りすることや、ある資格をもつことを断わる。
      1. [初出の実例]「さりとは見限り果てた法師が所為(しはざ)、明日から師匠あげてのける」(出典:浮世草子・傾城禁短気(1711)三)
    5. 言いかけられたなぞなぞの答えを言わないで相手にお返しする。なぞを言いかけたものに答えを言うよう求める。
      1. [初出の実例]「或人、南無阿彌陀仏といふ謎をかけけれども、一座に解く人なければ『此謎はあげませう』といふ。『さらばとひて聞(きけ)ませう。貉(むじな)と解き申す』といへば」(出典:咄本・露休置土産(1707)一)
    6. 都へ向かって行かせる。のぼす。
      1. [初出の実例]「とかくかまへて京にあげ奉りてんといふ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)玉鬘)
    7. 屋敷などに奉公にやる。
      1. [初出の実例]「『踊(をどり)と申すものは、おちいさい内から御奉公ができてよろしうございますねへ。おいくつからお上(アゲ)なさいましたへ』『ハイ、六つの秋御奉公に上(アゲ)ました』」(出典:滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二)
    8. 他人の家を敬い、そこを訪問させる。参上させる。
      1. [初出の実例]「『きっとした証人があっては、御貸し申されませぬ』『ずいぶん申触らしまして、大ちゃくな借手をあげませふ』」(出典:黄表紙・莫切自根金生木(1785)上)
  8. [ 七 ] 補助動詞として用いる。
    1. ( 動詞の連用形に付いて ) その動作を完了する意を表わす。「染め上げる」「刷り上げる」
      1. [初出の実例]「わが門の早稲田もいまだ刈りあげぬにけさ吹く風に鴈は来にけり〈素性〉」(出典:古今和歌六帖(976‐987頃)二・田)
    2. ( 「申す」「存ず」「頼む」「願う」などの動詞の連用形に付いて ) その動作の対象を敬う気持を添える。
      1. [初出の実例]「身共は申あぐる事はならぬ程に、面々に申上い」(出典:虎明本狂言・筑紫奥(室町末‐近世初))
    3. ( 動詞の連用形に、助詞「て(で)」の付いた形に添えて ) その動作を他にしてやることの丁寧な表現。
      1. [初出の実例]「私上手で御座る。取って上げませう」(出典:歌舞伎・傾城富士見る里(1701)一)

上げるの語誌

( 1 )敬語動詞としての「あげる」は下位者から上位者への物の移動という意で用いられる謙譲表現であり、「ロドリゲス日本大文典」では「身分の低いものからシュジン、キニン等を始めとして天子に至るまで非常に貴い方に差上げるのに使はれる」とあり、当初は敬意の高い表現であった。近世以降次第に敬意が低くなり、近世後半には丁寧語と目される例も出現する。
( 2 )現代語においても、一九七〇年代前半では丁寧語としての用法は誤用としての意識が強く、女性特有の過剰敬語と考えられていたが、その後次第に男性も含めた若い層にも広く用いられるようになり、「やる」の丁寧語として定着するようになった(逆に「やる」は下卑た表現として意識されることも多い)。ただ、敬語動詞「あげる」の本質が謙譲語にあることだけは変わらず、両用法が並立している。→「あがる」の語誌

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