宴曲(読み)エンキョク

デジタル大辞泉 「宴曲」の意味・読み・例文・類語

えん‐きょく【宴曲】

鎌倉中期から室町時代にかけて、貴族武家僧侶の間で流行した歌謡の一。院政時代雑芸ぞうげい今様いまよう系統を引き、これに天台声明しょうみょうの節まわしを取り入れたもの。作者には天台宗の僧、明空月江などがいる。内容は物尽くし道行きの歌で、多くは七五調。初めは伴奏なしの扇拍子で、のちには尺八の伴奏で歌われた。早歌そうか

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精選版 日本国語大辞典 「宴曲」の意味・読み・例文・類語

えん‐きょく【宴曲・燕曲】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 鎌倉末期から室町時代にかけて、武家を中心に貴族、僧侶などの間に流行した宴席のうたいもの。早歌(そうか)というのが正式。雑芸(ぞうげい)や白拍子の系統を引き、天台声明(しょうみょう)の節まわしが取り入れられている。内容は物尽くしや道行きなどで、多くは七五調で凝った修辞が用いられている。初めは扇拍子で歌われた。沙彌明空(しゃみみょうぐう)によって集大成され、歌詞曲節ともに謡曲先駆をなした。現爾也娑婆(げにやさば)。理里有楽。
    1. [初出の実例]「後鳥羽帝の御作に宴曲と言物あり。〈略〉全部十冊余これある宴曲の譜あり」(出典:政談(1727頃)四)
  3. ( 「えんぎょく」とも ) 宴会の席の音曲。
    1. [初出の実例]「是れより種々の燕曲(エンギョク)ありて坐もひとしほの賑はひに」(出典:人情本・花筐(1841)初)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「宴曲」の意味・わかりやすい解説

宴曲
えんきょく

中世歌謡の一つ早歌 (そうが) の文学史上の名称。鎌倉時代中期~末期に鎌倉地方で成立し,以後室町時代を通じて,武士を中心とする階層に歌われた。 173曲の詞章が,『宴曲集』『宴曲抄』『真曲抄』『究百集』『拾菓集』『拾菓抄』『別紙追加曲』『玉林苑』の8部 16巻と外物1巻の撰集のかたちで伝えられ,ほかに『異説秘抄口伝巻』『撰要両曲巻』という秘伝書に 48編ずつの部分的替え歌がある。また,撰要目録1巻に撰者明空 (作詞作曲者である月江と同一人物との説がある) の序文と各曲の作詞作曲者名を記す。過半数の曲は明空の作詞作曲による。題材は生活の全般にわたるが,「春」「祝言」「恋路」「羈旅 (きりょ) 」「海辺」など和歌・連歌的題の一群,「馬徳」「筆徳」「車」「文武」など身近な動物や器物や諸芸などを歌う一群,「熊野参詣」「善光寺修行」「鶴岡霊威」「永福寺勝景」など特定の寺社への道行や縁起,勝景を歌った曲の一群,以上の3群が目立つ。いずれも,取り上げた題材についての佳例,来歴をあげ,賛嘆するものである。曲節は墨譜によって知られるが,拍律を主とするリズミカルなもので,なかに無拍子の部分が挿入されて,変化をつけている。

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百科事典マイペディア 「宴曲」の意味・わかりやすい解説

宴曲【えんきょく】

鎌倉・室町時代の歌謡の一種。別名早歌(そうが)。《宴曲集》その他に百数十編収録。作詞作曲者として明空(1306年に60余歳)と弟子の月江が有名。歌詞は和漢の古典によった七五調の物尽しが多く,リズミカルに,歌詞の意味が通じにくくならない程度に全体を通して旋律的に歌われた。音楽的には能のと類似している。武士や貴族の饗宴用に,また寺社の法楽として演唱された。
→関連項目郢曲

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旺文社日本史事典 三訂版 「宴曲」の解説

宴曲
えんきょく

中世に流行した遊宴用の歌曲
早歌 (そうが) ともいう。今様と謡曲との中間的なもので,室町末期,能に押されて滅んだ。作者には明空・月江らがおり,明空撰の『宴曲集』は宴曲の歌集としては最も古い。

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改訂新版 世界大百科事典 「宴曲」の意味・わかりやすい解説

宴曲 (えんきょく)

早歌(そうが)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「宴曲」の意味・わかりやすい解説

宴曲
えんきょく

早歌

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世界大百科事典(旧版)内の宴曲の言及

【早歌】より

…中世の声曲。近年は一般に〈宴曲〉ともいわれるが,うたわれた当時の文献に見える〈早歌〉が正称である。〈現爾也娑婆(げにやさば)〉〈理里有楽(りりうら)〉の別称もある。…

※「宴曲」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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