川越(市)(読み)かわごえ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「川越(市)」の意味・わかりやすい解説

川越(市)
かわごえ

埼玉県中央部にある市。1922年(大正11)川越町と仙波(せんば)村が合併して県下で最初に市制施行。1939年(昭和14)田面沢(たのもざわ)村、1955年(昭和30)には山田、芳野(よしの)、名細(なぐわし)、古谷(ふるや)、南古谷、高階(たかしな)、福原大東(だいとう)、霞ヶ関(かすみがせき)の9村を編入。1999年(平成11)業務核都市に指定され、2003年中核市に移行。市域南部は武蔵野(むさしの)台地、西部、北部は入間(いるま)川、東部は荒川沖積低地に位置する。JR川越線、東武鉄道東上線、西武鉄道新宿線、関越自動車道、国道16号、254号が通じ、東京との便がよい。面積109.13平方キロメートル、人口35万4571(2020)。

[中山正民]

歴史

古代は河肥、中世は河越、近世は川越と書かれた。平安時代武蔵武士団の一つ河越氏の所領であったが、その後、山内(やまのうち)、扇谷(おうぎがやつ)両上杉氏の掌握するところとなり、ついで扇谷上杉家の実権を握った太田道真(どうしん)・道灌(どうかん)親子によって河越城が1457年(長禄1)築城された。この城はその後、小田原北条氏の家臣大道寺氏の治めるところであったが、小田原北条氏の滅亡後、徳川家康の関東入府(1590)によって徳川氏の城となった。江戸時代、川越城は江戸に近く、北方の守城として重視され、歴代の城主譜代(ふだい)の重臣が配置された。城下町川越藩主松平信綱(のぶつな)によって整備され、市(いち)が開かれ、江戸との間には川越街道新河岸川(しんがしがわ)の舟運が開かれ、このような関係から「小江戸」ともよばれた。1893年(明治26)に大火が起こり、近代的商業都市に発展しようとした川越は大打撃を受けた。この火災の際、江戸末期からすこしばかりあった蔵造(くらづくり)が、火災に有効なことがわかったので、蔵造が普及し、その街並みができた。1910年(明治43)荒川の洪水によって低地泥海となり、これを機に新河岸川の河川改修が始められ、水運交通は廃れた。

[中山正民]

産業

今日の川越は工業、住宅、文化都市といえる。1962年(昭和37)から1966年にかけて造成された川越狭山(さやま)工業団地は県下最大で、面積2.47平方キロメートルのうち1.01平方キロメートルが川越市に属する。これを主体とした従業者4人以上の工業事業所数は651、製造品出荷額7018億円(2001)で、県下第3位にあたる。一方、東京の池袋まで30分という近距離にあたるため、旧市街地を囲むように住宅地化が進み、とくに西部には各種の住宅団地が造成され、人口が急増している。また、西郊には東洋大学理工学部、東京国際大学、尚美学園大学が、東郊には東邦音楽大学がある。

[中山正民]

文化

城下町であったため、史跡・文化財が豊富である。喜多院(きたいん)では、客殿、書院、庫裏(くり)、慈眼堂、鐘楼門、山門などの建物のほか、狩野吉信(かのうよしのぶ)の『紙本著色職人尽絵(しょくにんづくしえ)』、糸巻太刀(たち)、銅鐘、東照宮では本殿、唐門(からもん)、瑞垣(みずがき)、拝殿、幣殿(へいでん)、石鳥居、随身門(ずいしんもん)のほか、岩佐勝以(いわさかつもち)筆「三十六歌仙額」、日枝(ひえ)神社では本殿、養寿院(ようじゅいん)では銅鐘、大沢家住宅が、それぞれ国の重要文化財に指定されている。1999年(平成11)には中央道沿いの蔵造の町並みが重要伝統的建造物群保存地区に選定されている。県指定史跡に川越城跡、大堀山館跡、国指定史跡に河越館跡(かわごえやかたあと)などがある。川越氷川祭(ひかわまつり)(川越まつり)の山車(だし)が県有形民俗文化財、「川越氷川祭の山車行事」としては国指定重要無形民俗文化財およびユネスコの無形文化遺産となっている。このほか、県指定無形民俗文化財の南大塚の餅(もち)つき踊り、今福中台の上覧(じょうらん)ばやし、老袋(おいぶくろ)の「万作」、それに「ほろ祭り」などがある。また、喜多院の五百羅漢(らかん)、時の鐘、三芳野(みよしの)神社も知られ、川越イモは名産品で、それを原料とした落雁(らくがん)「初雁(はつかり)城」は銘菓である。そのほか、文化施設として市立博物館、市立美術館、蔵造り資料館がある。

[中山正民]

『岡村一郎著『川越歴史散歩』(1959・川越史料刊行会)』『『川越市史』全14冊(1968~1986・川越市)』『『川越市の文化財』(1972・川越市)』『斎藤貞夫著『川越舟運』(1982・さきたま出版会)』


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