デジタル大辞泉 「拳」の意味・読み・例文・類語
けん【拳】[漢字項目]
〈ケン〉
1 握りこぶし。「拳銃/空拳・鉄拳」
2 素手で行う武術や体操。「拳闘・拳法/太極拳」
3 丸くかがんで慎むさま。「
〈ゲン〉握りこぶし。「拳固・拳骨」
[名のり]かたし・つとむ
[難読]
両人相対し指,手,腕や体勢で形姿を示し,それによって勝敗を決める遊び。拳の種類によってそれぞれの取り決めがある。拳戯は中国からの渡来遊戯とするのが通説で,中国では拇戦,拇陣,中指之戯などと呼ばれ,酒宴の座興として行われた。日本では拳打あるいは○○拳と呼ばれ,江戸期に長崎から京坂,そして江戸へと伝えられた。現在では,拳といえば〈じゃんけん〉を想起するのが一般的だが,その他にもさまざまな拳がある。しかし,それらを遊事の内容から大別すると,数拳と三すくみ拳の2種類に分けることができる。
おもなものとして本拳(長崎拳,崎陽(きよう)拳ともいう),なんこ拳,四ッ谷拳,商人拳,太平拳などがある。数拳の典型である本拳は,まず両人相対して右手で手勢を示し,左手をあげて指を折り数取りを行う。が2指を出しながら5と呼んだとする。それに対してが3指を出せば,2と3で5となりの勝ちとなる。もしが2指を出し4と呼べば,2と2で4となりの勝ちとなる。もしが3指を出して5と呼べば,両者同数で勝負なし,つまり〈相声〉,俗にいう〈あいこ〉である。両者ともに呼数が合わないときは勝負なし。他の数もこの要領に準じて同様に行う。連続3拳勝ったとき勝者となる。なお,指の代わりに箸(はし)で数を示す方法も地方によって行われており,これを箸拳とも呼んでいる。数拳の呼声(掛声)は中国語音で行うのが常である。これについて《嬉遊笑覧》は〈拇戦(中略)又この憶(イ)(一)耳(ルウ)(二)散(サン)(三)思(スウ)(四)誤(ウ)、(五)柳(リウ)(六)砌(チ)(七)覇(パ)(八)救(キウ)(九)舎(ジ)(十)は数目にて拳にうつ唐音是なり。拳には無ありウヽといふ。今二をリヤンといふは両の音なるべし。二(ルウ)は六(リウ)と紛れやすき故に両に代たるか。又五(ウヽ)をゴといふは,スーリーなどの引く音のウと紛るるによりてなり〉と述べている。このように1から10までと〈無し〉の11種で,これを中国語音で呼ぶ。
おもなものとして狐拳(庄屋拳,藤八拳ともいう),虫拳,虎拳,石拳(じゃんけん)などがあるが,さらに狐拳から変容した柳拳,尾上拳,深川拳,ちょん脱拳,お上げのお手を,おいでなさい,廻り拳,供(とも)せ供せなどがある。また拳をつかわず,狐拳を言葉で行うめくら拳もある。三すくみ拳の典型である狐拳(庄屋拳)は全国に流布して人気を博した拳だが,名称が示すように庄屋,キツネ,鉄砲の三すくみによって行われる。本拳のように指で数を示すのではなく,それぞれの姿態を示して行う。まず両人対座して,〈ヨイヨイヨイ〉あるいは〈ヨヨイのヨイ〉などと3拍子の掛声に合わせて調子よく行う。庄屋は両手をひざの上に置き,姿勢を正して旦那の風格を示す。キツネは両手の掌を前に向けて頭にかざし,狐のかっこうをする。鉄砲は左腕を伸ばして左ひじを曲げ,猟師が鉄砲を構えて撃つまねをする。庄屋は鉄砲に勝つがキツネに負け,キツネは庄屋に勝つが鉄砲に負け,鉄砲はキツネに勝つが庄屋に負ける。連続3拳勝った者が勝者となる。狐拳に準じ,三すくみを母親,和藤内(わとうない),トラの3種で行うのが虎拳で《国性爺合戦》を主題としたもの,カエル,ヘビ,ナメクジの3種で行うのが虫拳,石,紙,はさみの三すくみで行うのが石拳,俗にいう〈じゃんけん〉である。
この他に数拳と虫拳を複合させた交(まぜ)拳や,歌に合わせてこっけいな動作をして,最後のところで拳をするまくら拳,軍人拳,幕の内拳などがあり,近年の野球拳もその一種である。拳戯は当初,姿勢を正しくしてきわめて厳格に打たれたといわれるが,一般に広がるにつれて,立って行ったりこっけいな身ぶり手ぶりが入ったりして形が乱れていった。これらのものを〈軟拳〉といい,形の正しいものを〈正拳〉という。もともと酒席を中心におとなの遊興として行われてきた遊びであるが,庄屋拳,虫拳,石拳などは,後に子どもの世界に継承されて行われるようになった。
執筆者:半澤 敏郎
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2人が向かい合って掛け声をかけながら手や指の動作で勝負を争う遊び。元禄(げんろく)時代(1688~1704)の初め中国から長崎に伝えられ全国に広がっていったといわれる。中国から伝えられた拳は拇(ゆび)拳といい、もっぱら指の屈伸と掛け声で11種類の数の変化を表して勝負を争うもので、中国ではおもに酒宴の座興として行われている。この拳はわが国で考案されたいろいろな拳と区別して本拳、長崎に伝えられたことから長崎拳ともいう。わが国においてはその後、十数種の拳が考案されたが、大別して、数を当てて争うものと、三すくみで争うものとがある。数で争うものは、高知県地方で行われている何個(なんこ)拳または箸(はし)拳といわれるものが代表的で、互いに3本の箸または楊枝(ようじ)を持ち、両方で出した本数の合計を当てて争う。三すくみのものは、岡村藤八(とうはち)という薬商人の売薬の掛け声からつくられたとも、藤八という幇間(ほうかん)が考案したともいわれる藤八拳が代表的なもので、庄屋(しょうや)拳または狐(きつね)拳ともいわれる。庄屋が鉄砲に勝ち、鉄砲が狐に勝ち、狐が庄屋に勝つ三すくみで勝負し、普通は3回続けて勝ったほうを勝ちとする。この拳も初めは酒宴の座興として行われていたが、享保(きょうほう)年間(1716~36)のころから拳の流行を背景に相撲(すもう)に倣って「拳相撲」が行われるようになり、初めは本拳、のちにはもっぱらこの藤八拳で勝負をするようになった。現在も拳会などの大会ではこの藤八拳が行われている。拳にはこれらのほか、虫拳、虎(とら)拳、交(まじり)拳、片拳、源平拳、匕王(すくい)拳などがあり、日常広く行われている「じゃんけん」も拳の一種である。
[倉茂貞助]
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指や手または姿勢を示して勝敗を決める遊び。江戸初期に中国から長崎へ伝えられたとされ,その後上方から江戸へ広まったという。数拳(かずけん)と三すくみ拳にわかれる。数拳は指で数を示し相手との合計数をよんで合致したほうが勝ちで,数の名は中国語でいうのが基本。両者同数の場合は相声(あいこ)で引分けとなる。数人ずつ2組にわかれる源氏拳,箸を指の代用にする箸拳もある。伝わった地方により薩摩拳・大坂拳など独特の変形がある。三すくみ拳は3種類の拳が互いに勝ち負けの関係にある庄屋・狐・鉄砲打の庄屋拳(狐拳・藤八拳(とうはちけん)とも)や,虎・和藤内(わとうない)・母親の虎拳,石拳(じゃんけん)などさまざまな種類がある。数拳・三すくみ拳はともに酒席で用いられた。明治維新以後も軍人拳などが考案され,近年の野球拳もその一種。文政年間に出版された「拳独稽古」に詳しい。
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