岩野泡鳴の長編小説。1910年(明治43)東雲堂刊。樺太の缶詰事業に失敗した田村義雄は,ひとまず札幌の友人たちのもとに身を寄せて再起を図る。しかし,樺太に残してきた弟や従弟をはじめ東京にいる妻子や愛妾お鳥,そして抵当に入っている家のことなどもからんで,すべてうまくいかない。絶望的な日々の中で薄野(すすきの)遊郭で敷島という女を知る。やがて義雄は,彼女の生き方の中に自分の哲理が具現されているのを感じ,思いを深めてゆく。《断橋》《発展》《毒薬を飲む女》《憑(つ)き物》とともにいわゆる〈泡鳴五部作〉をなすが,後年,自説の一元描写論に合わせて改編された。作者自身の体験にもとづき,自我独尊の哲理と生をユニークに描いた自然主義文学の代表作。
執筆者:榎本 隆司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…第2次大戦後の非人間的な管理社会に生理的に反発し,自然発生的・感覚的な秩序のない文体を意識的に用いて,瞬間的な自我の充足と宗教的な意味での悟りをつかみ,至福への道を探ろうとした。代表作《放浪》(1957)は,アメリカ中を気のおもむくままにドライブしてまわる2人の男を主人公にしたピカレスク風の小説で,物質文明に背を向けて東洋哲学に傾倒していく若者を描いた《ダルマ行者たち》(1958)と対をなすものである。ほかに,サンフランシスコのビート世代の風俗と生態を描いた《地下街の人々》(1958),詩集《メキシコ・シティ・ブルース》(1959)など多くの作品を発表し,アメリカ文学に新しい分野をひらくものと期待されたが,その期待に十分にこたえられないままに急逝した。…
※「放浪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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