春駒(読み)ハルゴマ

デジタル大辞泉 「春駒」の意味・読み・例文・類語

はる‐ごま【春駒】

《「はるこま」とも》
張り子練り物で馬の頭の形に作ったものに竹をさして胴とし、その端に車をつけた玩具。子供がこれにまたがって遊ぶ。
門付け芸の一。正月に各戸を回り、馬の首の形をしたものを持ったり、また、これにまたがったりして歌い踊るもの。また、その芸人。民俗芸能として新潟県佐渡地方・山梨県甲州市一之瀬などに伝承されている。 新年》
春、野辺に放ち飼いにした馬。
「立ち放れ沢辺になるる―はおのが影をや友と見るらむ」〈後拾遺・春上〉

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精選版 日本国語大辞典 「春駒」の意味・読み・例文・類語

はる‐ごま【春駒】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「はるこま」とも )
  2. 春、若草を求めて野に遊ぶ馬。また、単に馬の意。《 季語・春 》
    1. [初出の実例]「霞たつ野をなつかしみ春駒のあれても君がみえわたるかな」(出典:類従本小町集(9C後か))
  3. 新春の祝いに、馬の頭の作りものを、手に持ったり頭に戴いたりして、戸ごとに歌い舞い歩いた門付(かどづけ)芸人。また、その歌。禁中の白馬節会(あおうまのせちえ)を模倣したものであろうという。《 季語・新年 》
    1. 春駒<b>②</b>〈絵本御伽品鏡〉
      春駒〈絵本御伽品鏡〉
    2. [初出の実例]「春駒の糟毛や汗を一しほり〈政也〉」(出典:俳諧・洗濯物(1666)春)
  4. 馬の頭の形をしたものを竹にさし、その末端に車をつけたもの。子どもが初春にまたいで遊ぶ玩具。
    1. 春駒<b>③</b>〈鈴木春信画〉
      春駒〈鈴木春信画〉
    2. [初出の実例]「かの幼稚(こども)の輩(ともがら)〈略〉春駒(ハルコマ)大鼓舞車をのれをのれが好める物に喜戯(たはぶれ)恋著(あそび)」(出典:洒落本・善玉先生大通論(1801)序)
  5. 心の勇みはやるさまをたとえていう。
  6. 鹿児島市の名物で、米の粉、餠の粉、黒糖などを原料として作り、馬の陰嚢(ふぐり)に模した黒褐色の団子餠。

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改訂新版 世界大百科事典 「春駒」の意味・わかりやすい解説

春駒 (はるこま)

民俗芸能の一種歌舞伎舞踊の曲名また郷土玩具の名称。

(1)民俗芸能正月の予祝の門付(かどづけ)芸能。万歳が家の予祝,鳥追(とりおい)が農耕予祝とされたのに対し,春駒は養蚕の予祝とされる。宮廷儀式にある白馬節会あおうまのせちえ)が民俗化したというが不詳。木製の駒の首形を手にした頰かぶり,裁付袴(たつつけばかま)の者が,三味線,太鼓を囃子に〈めでためでたや春の初めの春駒なんぞ,夢に見てさえよいと申す……〉という祝言歌を唱えて家々の門口に舞い込んだ。眉目の美しい少女や若衆が演じたこともある。現在,新潟県佐渡郡相川町に,駒乗り姿の男春駒と駒頭の手綱を手にする女春駒が残り,山梨県塩山市一之瀬では,正月14日の道祖神(どうそじん)の祭りに,若者組が太鼓,鉦(かね)を囃して家ごとに舞い込む。沖縄県那覇市の旧辻遊廓で,二十日正月に演じられたズリ馬行列も,春駒の変化である。青森,岩手の両県に分布する駒踊(こまおどり)は,駒頭と尾を前後につけた竹製の輪を腰にくくり,騎乗姿の者が数人で激しく踊るが,これも春駒に関係があろうか。

(2)歌舞伎舞踊の曲名。現在各流派で踊られているのは長唄,本名題《対面花春駒(たいめんはなのはるこま)》。作詞増山金八。作曲初世杵屋(きねや)正次郎。振付中村伝次郎。1791年(寛政3)1月江戸中村座初演。民俗芸能の春駒をとり入れたもので正月の曾我狂言の中で演じられた。古くは1758年(宝暦8)3月江戸市村座の七変化(しちへんげ)《雛祭神路桃(ひなまつりかみじのもも)》で初世中村富十郎が,87年(天明7)3月桐座の《門出新春駒(かどいでしんはるこま)》で4世岩井半四郎が演じた。元禄年間(1688-1704)には《参会名護屋(さんかいなごや)》でも踊られた。なお,1703年刊の《松の葉》にも長歌の《春駒》が市川検校の作として収載されている。

(3)郷土玩具。竹馬の先に練り物や板製の馬の首に似せたものをつけ,下に車をつけたもので,子どもはこれにまたがって遊ぶ。平安朝ころからの竹馬が江戸期に入って改良されたものと思われる。《守貞漫稿》の図には,〈江戸制ハ太也竹馬ト云ズ春駒ト云〉とある。現在は鳥取県,香川県などに残っている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「春駒」の意味・わかりやすい解説

春駒(祝福芸)
はるごま

正月に馬の作り物を携えて民家を訪れて回った門付(かどづけ)の祝福芸。江戸時代も中ごろに存在が明らかになるが、宮中の正月祝賀の一つで、白駒を見て邪気を祓(はら)う「白馬節会(あおうまのせちえ)」にちなむものとの説がある。現存するものはごくわずかである。佐渡島に残る民俗芸能ハリゴマには男春駒と女春駒があるが、男春駒は馬頭の作り物を腹部につけ、女春駒は小型の馬頭を手に持つという違いがある。双方とも男性が面をつけてはでな衣装を着て太鼓打ちの歌によって踊り、踊り手、地方(じかた)、付添い(米など祝儀を集める)の3人1組で門付して回った。群馬県利根(とね)郡の一部では青年行事となって残るが、女春駒の型をとる。養蚕地帯で馬をもって蚕の守護神とした伝承によるという。岐阜県の白川郷も養蚕地帯で女春駒が七福神と連れ立って家々を巡る。山梨県甲州市一ノ瀬高橋では小(こ)正月の道祖神祭りにホニホロ式(馬のひながたを人の胴を囲むようにつけて、馬に乗ったような形になること)の春駒を出す。春駒は『門出新春駒』のように江戸歌舞伎(かぶき)の変化(へんげ)舞踊にも取り込まれたが、沖縄では昔の辻遊廓(つじゆうかく)の旧正月に女たちが「ジュリウマ」といって馬頭の切出しを腹部につけ集団で踊る。沖縄でも男芸の「チョンダラー」の「馬舞者(うまめえさあ)」が明治期に芝居に取り込まれ、民俗芸能として残っている。八重山(やえやま)では馬乗(うまぬしゃー)という。また、馬頭の作り物に棒をつけてまたがって遊ぶ玩具(がんぐ)も春駒といった。

[西角井正大]



春駒(餅菓子)
はるこま

鹿児島名物の餅(もち)菓子で、ういろう餅の一種。鹿児島新照院に住んでいた島津藩槍術(そうじゅつ)指南の高橋種美(たねよし)が、1820年(文政3)に携行食糧を目的に、もち粉、粳(うるち)粉、黒糖、朝鮮ニンジンの粉末を加えて練り、棒状にして蒸し上げたのが始まりで、当初は長さ30センチメートル、太さ5センチメートルもの大きな餅であった。セピア色の巨大な菓子を見た薩摩兵児(さつまへこ)たちは、これを「馬ンまら」あるいは「新照院の馬ンまら」とよび、そのまま菓名となった。たまたま大正天皇が鹿児島行幸の際、陛下の御下問に県知事が「馬ンまら」とは答えかね、困惑しているのを見かねた侍従が「春駒と申します」と口添えし、急場を救った話もある。春駒はそれ以来の菓名という。

[沢 史生]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「春駒」の意味・わかりやすい解説

春駒
はるこま

新年に家々をめぐる門付芸の一つ。木でつくった馬の首形にまたがったり,手に持ったりして,祝言を唱えて回る。白馬節会に源をもつとも,蚕業の予祝からきたものともいわれる。江戸時代には広く行なわれ,歌舞伎や邦楽にも取り入れられた。現在では新潟県佐渡市相川地区や山梨県甲州市の一之瀬高橋,沖縄などの民俗芸能にその面影をとどめる。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「春駒」の解説

春駒
(通称)
はるこま

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
対面花春駒 など
初演
寛政3.1(江戸・中村座)

春駒
〔浄瑠璃〕
はるこま

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
明和8.1(江戸・森田座)

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デジタル大辞泉プラス 「春駒」の解説

春駒〔民芸品〕

愛知県名古屋市の民芸品。張り子でできた紅白一対の首馬で竹串につけられている。龍泉寺参拝の記念に売られていたもの。串馬とも。

春駒〔菓子〕

鹿児島県の名物菓子。晒し餡、糯米(もちごめ)粉、うるち米粉、砂糖などを混ぜ円柱状にして蒸し上げたもの。

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世界大百科事典(旧版)内の春駒の言及

【ユダヤ戦争】より

…(2)第2次ユダヤ戦争 ハドリアヌス帝治下(117‐138)ユダヤ地方に再び大規模な反乱が組織された。ベン・コシバがバル・コホバ(星の子)と称えられて(ラビ・アキバは彼をメシアとまで呼んだ)反乱を指導し,かなりの地域を有効に支配した時期もあったが,結局ベテルの戦に敗れて,反乱は鎮圧され,ユダヤ人はエルサレムへの立入りを禁じられ,祖国を追われることになった。【土岐 健治】。…

※「春駒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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