公家階級の服装,調度,輿車などに用いられた伝統的文様。他の分野の文様と区別するため,近世になって便宜上このように名付けられた。中世から近世にかけて公家の勢力が衰退していく中で,公家生活の規範や法式を指す〈有職〉に支えられて諸形式が整備され,伝統が保持された。公家の公私の生活に用いられる文様についても同様で,染織をはじめ工芸全般において独自の形式を伝えてきた。ことに服装は襲着(かさねぎ)形式であったため,絵模様は襲の下に隠れてその効果を表すことがむずかしかった。そこで整然と繰り返される織物の文様がよりふさわしいものとされ,その文様は襲の色彩と調和的にし,服装の品格を高めるよう考案された。有職文様の母体となったのは,正倉院などに伝えられた奈良時代の外来文様であったが,その激しく活動的なもの,壮大さ,空想的なもの,あまりに緻密な幾何学的文様,あるいは甚だしく異国的なものは,整理され公家の好みに適応したものに改められ,温和で優美なものに変わっていった。主題も身近で親しいものに置き替えられ,洗練化とともに類型化したが,気品の高さによってその後の日本の文様に強い影響を及ぼした。
その主要な文様は(1)丸文 花,鳥,蝶,雲,波などを題材とし,円形にまとめたもの。またそれらのモティーフを単体としてだけでなく,二つを互いに向かい合わせた静的な形,飛翔する鳥,あるいは波頭が円を描く動的なものなどもある。そのほかイラン系唐花文の円形華文と十字形の華文を組み合わせた臥蝶の丸(誤って浮線綾文(ふせんりようもん)ともいわれる)や,唐花の丸(又木形(またぎがた))がある。(2)菱文 丸文と同様の主題を菱形にまとめたもののほか,菱形を四つ組み合わせた四菱(よつびし),これを密に並べた繁菱(しげびし)と,これを間隔をおいて互の目(ぐのめ)に配置した遠菱(とおびし)がある。また,菱形を二重,三重に重ねた入子(いれこ)菱,菱の先端を互いに接しその接点に小型の菱文を置いた幸菱(さいわいびし)(千剣菱(せんけんびし))もある。(3)襷(たすき)文 斜線が交差した文様で,羅文,菱格子ともいわれる。3本ずつの斜線で構成されるものを三重襷文と呼んでいる。小葵(こあおい)文のように葉を襷状に配列したものも襷文のうちに入れられるであろう。(4)亀甲(きつこう)文 他の文様と同様に古代以前からあったが,内区に花菱文を収めた亀甲花菱文が多い。(5)立涌(たてわく)文 立涌文の原型は波状唐草で,それを上下打返しに組み合わせたものを単位として,縦方向に配列した文様と考えられる。したがって平安時代の立涌文の中央には細い隙間があり,蛇行曲線の蔓(つる)から葉が出た形式となっている。鎌倉時代以後,蔓は単なる蛇行曲線となり,その枠の中に雲や草花を充塡したものが現れた。(6)輪違(わちがい)文はいわゆる七宝文で円を4分の1ずつ重ね,中心に花菱を置く。(7)窠(か)文は円弧を4~6個つないだ形が木瓜(もくか)を輪切りにした状態に似ているため名付けられた。内区に五弁花,花菱,竜胆,丁字などが収められる。(8)霰(あられ)文 方形を密に並べた文様で,大型方形の石畳文に対して小型のものを霰文と呼んだ。窠文と組み合わせて使われることが多く,それを〈窠に霰〉といった。(9)唐草文 古代のものに比して異国調が薄れ,和様化している。(10)筥形(はこがた)文 洲浜形に木立を方形にまとめた桐竹鳳凰文のような形式のもの。(11)繧繝(うんげん)文 古くは暈繝と書き,ぼかしを段階状にした横条(よこじま)文の中に菱文を配したもので,敷物や畳の縁(へり)に使われた。
執筆者:高田 倭男
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