欺く(読み)アザムク

デジタル大辞泉 「欺く」の意味・読み・例文・類語

あざむ・く【欺く】

[動カ五(四)]
言葉巧みにうそを言って、相手に本当だと思わせる。言いくるめる。だます。「敵を―・く」「まんまと―・く」
だま用法
(「…をあざむく」の形で)…と負けずに張り合うほどである。…と紛れる。「昼をも―・く月光」「雪を―・く肌」
軽く扱う。ばかにする。
「この虚言本意をはじめより心得て、少しも―・かず」〈徒然・一九四〉
そしる。あれこれ非難する。
「もし教へすすむる人あれば、かへってこれを―・く」〈発心集
詩歌を吟ずる。興をそそられる。
「月にあざけり、風に―・く事たえず」〈後拾遺・序〉
[可能]あざむける
[類語]騙す騙し込む騙くらかすごまかす偽るたばかるかたたぶらかすはぐらかす化かす担ぐ陥れる引っ掛ける出し抜く欺瞞瞞着まんちゃく一杯食わす罠に掛けるぺてんに掛ける背負い投げを食う足をすくう鼻を明かす寝首を掻く裏をかく裏の裏を行くトリッキーリスキー油断も隙もない

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精選版 日本国語大辞典 「欺く」の意味・読み・例文・類語

あざむ・く【欺】

  1. [ 1 ] 〘 他動詞 カ行五(四) 〙
      1. (イ) 相手にあれこれと誘いかけ自分の思うとおりにさせる。相手に本当のことだと思わせてだます。
        1. [初出の実例]「布施おきてわれは乞ひ祷(の)む阿射無加(アザムカ)ず直(ただ)に率(ゐ)ゆきて天路(あまぢ)知らしめ」(出典:万葉集(8C後)五・九〇六)
        2. 「女こそものうるさがらず、人にあざむかれむと生まれたるものなれ」(出典:源氏物語(1001‐14頃)蛍)
        3. 「紿 イツハル アザムク」(出典:書陵部本名義抄(1081頃))
        4. 「官を欺くは士君子の恥づ可き所なれば」(出典:学問のすゝめ(1872‐76)〈福沢諭吉〉六)
      2. (ロ) ( 「期待・推測などが人をあざむく」という翻訳調の表現で ) 結果としてだます、の意。期待や推測のとおりにならないことを表わす。
        1. [初出の実例]「伯父さんはきっと自分を助けてくれるに違ひないと予期してゐたが、その希望は全く自分を欺(アザム)いた」(出典:すみだ川(1909)〈永井荷風〉九)
        2. 「果して僕の想像は僕を欺(アザム)かなかった」(出典:雁(1911‐13)〈森鴎外〉二四)
    1. 思うことをそのまま口に出してあれこれと言う。悪く言う。そしる。
      1. [初出の実例]「是の時、天下の百姓、都遷することを願はずして諷諫(そへアザムク)者多し」(出典:日本書紀(720)天智六年三月(北野本訓))
    2. 相手を軽く見る。見くびる。ばかにする。
      1. [初出の実例]「逆櫓(さかろ)立てう立てじの論をして、大きにあざむかれたりしを、梶原遺恨におもひて」(出典:平家物語(13C前)一二)
      2. 「六波羅勢は昨日の軍に敵の勇鋭を見るに、小勢也といへども、欺(アザム)き難しと思ければ」(出典:太平記(14C後)八)
    3. ( の意から。「…を(も)あざむく」の形で ) 比較する対象を見くだしてもよいほどである。その状態の度合が高いとされるものと比べても、それよりまさる、という意に用いる。…とまぎれるほどである。…に劣らない。…をしのぐ。
      1. [初出の実例]「此姫君は世に隠れなき姿にて、李夫人、楊貴妃、褒姒(ほうじ)、西施をもあざむき」(出典:御伽草子・猿の草子(室町末))
      2. 「常さへ艷やかな緑の黒髪は、水気を含んで天鵞絨(びろうど)をも欺むくばかり」(出典:浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉二)
  2. [ 2 ] 〘 自動詞 カ行四段活用 〙
    1. 吟詠する。興に乗って吟じる。
      1. [初出の実例]「月にあざけり風にあざむくことたえず」(出典:八代集抄本後拾遺(1086)序)
    2. ばかにして笑う。あざ笑う。嘲笑する。
      1. [初出の実例]「『あはれ運強き足利殿や』と高らかに欺(アザムイ)て、閑々(しづしづ)本陣へぞ帰りける」(出典:太平記(14C後)三一)

欺くの語誌

「地蔵十輪経元慶七年点‐二」などの訓点資料や、「新撰字鏡」「書陵部本名義抄」などの辞書に、「いつはる」「へつらふ」といった訓と並び用いられているところから、平安時代には、これらと似た語感を持つものとして意識されていたと思われる。

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